笑顔の為に…… 異世界転移したよ! 外伝

八田若忠

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四話

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 エンガルの町より、南東に位置するイクタフ平原、キタミスの町とエンガルの町の中間点にあるこの平原では、盗賊仲間の中でも外道と呼ばれ、忌み嫌われている男が荷馬車を三台も並べて、拐かした子供が届くのを今か今かと待ち侘びている。

 周りの草陰に五人程の、腕利きの始末屋を潜ませているのは、実行部隊が報酬でゴネた場合に纏めて始末をつける為であった。

「ちっ……遅ぇな、ボンクラ共が……」

 一人闇夜の中で苛ついて悪態を吐く。

 ゴトゴトと馬車が近づいて来るのが聞こえて来た。
 脳天気なバカ共の割に、静かに近づいて来る馬車に、違和感を感じた外道は周りの始末屋に警戒を呼びかける。

 ゴトリと音を立てて、外道の用意した馬車の前で、実行犯の馬車が止まった。

「おい、首尾はどうだった? 何人持って来れたんだ?」

 外道が馬車に声をかけるが、返事が返って来ない。
 焦れた外道が馬車の荷台を乱暴に開けると、ゴロリと球状の黒い影が足元に落ちて来た。

「おっと、なんだ?」

 平原の目印に一本だけ灯していた松明を手に取り、足元を照らすと苦悶の表情で歯を食いしばった、人の頭だった。

「ひっ……」

 悲鳴を飲み込んだ外道が、もう一度落ちて来た頭を照らし出すと、見覚えのある顔付で、盗賊団の一つを率いていた頭格であった。

「おい、仲間割れか? 商品はどうなってるんだ?」

 外道が荷馬車の中を照らし出すと、無数の頭だけがこちらを見ていた。
 異様な光景で人の死体など、見慣れていた外道であっても、胃の内容物が込上げて来た。
 一頻り胃の内容物を撒き散らした後に、外道は商品の確認をする為に、全ての荷馬車を確認するが、盗賊団らしき残骸が無造作に、積み重なっているだけだった。

「どうなってる? やべぇな……付けられてるか?」

 荷馬車の積み荷を見て、粗方出来事を察した外道は、周りに潜む始末屋に声をかける。

「おい、手筈が狂ったらしい、ずらかるぞ」

 周りで潜んでいた始末屋が、外道の声を受け一斉に立ち上がり、外道に近づいて来る。

「ボンクラ共がしくじりやがったらしい、すぐに逃げるぞ」

 始末屋の影が近付いて来るにつれ、ぼんやりとそのシルエットが見えてくるが、皆揃って手に何かを持っている。

「おい、ぼやぼやするな、早く乗れ」

 松明に照らされる距離になって要約、手に持っている物の正体と目が合った。

「だ、誰だ?」

 外道は始末屋の首をぶら下げて、歩いて来る影に誰何する。

「鬼だ」

 影は一言だけ答えて、背中の大斧を薙ぎ払った。






 首を拾って荷馬車に積み込むと、鬼の一人が他の鬼を並べてボソリボソリと話しだす。

「皆本日はご苦労だった、皆には辛い思いをさせて申し訳ない」

「いえ……私達は同じ志を持った者です。
 辛くなったら、抜けるだけです」

「そうだったな、俺はそろそろアックスの名を返そうと思う」

「解りました」

「次のアックスを頼む……申し訳ない」

「はい引き受けました。
 今までご苦労様でした」

 鬼の統率者らしい人物は、黒い兜を脱ぎ捨て、アックスの名前を渡した人物に言葉をかける。

「後は頼んだぞ、アックス」

「お疲れ様でした。
 団長」

 団長と呼ばれた男は、背負っていた斧の刃を、自分の右目に押し付け、縦方向に強く引いた。

 その男の右目からは、血が涙の様に流れ落ちた。

 一際大きいその斧を、次のアックスに手渡すと、次のアックスは力強く受け取った。






 イクタフ平原での出来事から二日後、キタミスの町の真ん中に馬車の隊列が並ぶ。

 御者の乗っていない馬車は、恐らくは命令されて、馬が自分でここまで引いて来たのであろう。

 不審に思ったキタミスの騎士団の団員が、無造作に荷台の扉を開けようと後ろに回る。

「待て! 開けるんじゃない!」

 年配の騎士団員が、慌てて若手の団員を止める。

 若手の騎士団員が静止しきれずに、扉を開けた途端。
 大量の蝿の群れと、悪臭と共に地獄が顕現した。

 地獄を連れて来た荷馬車の側面には、赤黒い血文字でこう書かれていた。



     『この者達鬼門を通る資格を持たず』







 エンガルの町の外れに、簡素な借家があった。
 騎士団の借り上げ借家だが、入居出来るのは役職付きか、妻帯者のみである。
 その簡素な借家の家主である騎士団長が、疲れ果てた体で簡素な我が家に帰り着いた。

 入り口の前には、エンガルの町で温泉施設を営んでいる、エリーが怒りの表情で仁王立ちしていた。

「温泉は放っておいて平気なのか?」

「うちは優秀な子供が育っているからね、心配はいらないよ」

 ツカツカと歩み寄り、騎士団長の右目に、乱暴に巻いてある包帯を剥ぎとった。

「お、おい」

「なにやってんだい! こんな怪我なんか作ってきて! そんなに鬼が好きなのかい?」

 エリーが騎士団長の胸ぐらを掴み、喚き立てる。

「痛いよ……エリー」

 幼なじみの昔と何も変わらない、セリフを聞いてエリーの目から涙がこぼれ落ちる。

「いつまで……いつまで、鬼に縋り付いてんだよ、生きている人間にも目を向けてよ……」

「いや……だから」

 騎士団長アーノルドの右目には、額から顎にかけて一直線の傷が走っている。

「あんたの見えない目が、まるで泣いてるみたいだよ、あんたが鬼になる度に泣いているのは知ってるんだよ! 一生鬼になるつもりかい!」

「だからだな……」

「わたしの笑顔の為に、頑張るってのは、嘘だったのかい? あんたが鬼になる度にわたしも泣いてるんだよ! いい加減悪党の死体ばかりじゃなくて、生きているわたしにも目を向けろ! 泣き虫アーノルド!」

「はい……」

「ふぇ?」

「騎士団を辞めた、副長に引き継ぎをするのに一月程かかるが、その後は無職の中年男だ。
 鬼も渡して来た」

「えと……ああぁそうかい、もう辞めたのかい?」

「ああ、辞めた」

「ええと……」

「とりあえず、家に入らないか? 美味しいお茶が飲みたい、エリーの淹れたお茶が」

「しょ、しょうがないね、お茶の一杯も淹れらないんだから、まったく」




 その後エリーとアーノルドは、末永く幸せに暮らす為に話し合い。

「俺の手は血で汚れて……」

 エリーのアッパーカット。

「うちは風呂屋なんだから、ふやけるくらいに洗ってやるよ! くだらない事言ってるとぶっ飛ばすよ!」

「はい……」


 話し合い……、突然二人が所帯を持つ事の、照れ臭さから逃れる為に、二人で思案した結果、自然を装うつもりで、合コンに強制参加を決めて、不自然さ全開の合コン当日を迎えたらしい。

 エリーの笑顔の為に出来る事は、側に寄り添うだけなのに、そんな簡単な事も解らなかった三人の男達のお話でした。
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