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27話「夜の校舎」後編
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真柴の通っている北高までは自転車で15分かかった。
真柴の話によるといつもなら10分で着くらしいが、他愛もない話をしながら漕いでいたため少しスピードを落としていた。
「ここの道、金木犀の香り凄くするでしょ。 私のお気に入りの道なんだ~」
俺の後ろで俺につかまりながら真柴はそう話す。
金木犀の木が立ち並ぶその道は街灯でオレンジ色に灯されている。
「金木犀か。 俺も嫌いじゃないな」
「いいよね。 金木犀。 なんか秋~って感じで」
「まあ夏って感じはしないな」
「えー、何その返し。 まったく淳一くんはロマンティストじゃないなあ」
「うっせ」
と、そんなやりとりをしていた。
真柴といると男友達といるような気楽さを感じられとても居心地が良い。
それでもたまに彼女が女の子だということを感じる時がある。 ごくたまにだが。
「うわあ、やっぱり暗いね夜の学校」
「そりゃあな。 んで、保健室はどこだ?」
俺が聞くと真柴はフッフッフと笑い、指を指した。
「あそこだよ!」
「……お前保健室は一階にあるって言ってたよな……」
「えー? 言ってたっけ?」
「言ってたわ!」
「てへっ!」
そう言って舌を出す真柴。
「どうすんだよ。 これじゃあ中入らないだろうが」
「あー、入れるよ!」
「え?」
「肩車して私を持ち上げてくれたらギリギリ届くかも!」
「……肩車しろってか?」
「うん! さあ淳一くん! 私はいつでも持ち上げられる準備はできてるぜい!」
軽くガッツポーズをしながら真柴は笑顔でそう言った。
……まったく……今日だけだからな!
俺たちはまず、学校の正門を登り構内へと侵入した。
そして保健室がある場所まで向かい、肩車の体勢へと入った。
まず俺はしゃがみこみ真柴を受け入れる体勢に入った。 そして真柴は俺の上に乗った。 真柴が俺の上に乗ったと確認し、俺は思いっきり体を突き上げた。
「お、おい……真柴……いけそうか?」
「う……うん、もう少し……! ごめん、あとともう少し突き上げて!」
「ふんっ! こ……これで限界だ。 いけるか?」
「あ……いく……いけそう……淳一くんもっと! もっとちょうだい!」
「ふぬぬぬっ! これで……どうだ?」
「あ……ああ……淳一くん! 届いた! 窓が開いたよ!」
「お……おうそれはよかった……」
「じゃあ先行って昇降口の鍵開けてくるね!」
真柴はそう言って保健室へと忍び込んだ。
5分ほどが経ち約束通り真柴は昇降口の鍵を開けてくれた。
ようやく俺たち二人は校舎内へと侵入することができた。
校舎内は当然だが、真っ暗で非常口の電灯しかついていない。
真柴が家から持ってきた懐中電灯が唯一の救いだ。
昼間はここに何百人と生徒がいるのに今は当たり前だが俺たち二人しかいない。
俺たちの足音だけがこつこつと廊下に響き渡る。
今ここで音を発するのは俺たちしかいなくてまるで世界には俺たち二人しかいないのだはないかと錯覚する。
明らかに今ここは非日常そのものだ。
そんなことを考えていたらいつの間にか真柴の教室にたどり着いていたようだ。
「ここが私の教室だよ」
真柴はそう言って俺の手をとって教室へと誘導していく。
「はい、今日は皆さんに転校生を紹介します!」
真柴は教卓の上に立ち、当たり前だが誰もいない机が並ぶ教室に向かって話す。
「何だよこれ」
思わずクスッと笑ってしまう。 何だこの茶番はと。 でもどうやら真柴は本気で遊んでいるようだ。
「ほら淳一くん。 挨拶だよ!」
「南高から来ました松村淳一です! 皆さんこれからよろしくお願いします!」
「えー、何それー。 普通だなあ」
「うっせ。 こういう挨拶は無難でいいんだよ」
「はい、じゃあ松村くんは真柴さんの前の席が空いてるからそこに座って!」
真柴はそう言うと走って窓際の後ろから二番目の席へと座る。
やれやれと俺は真柴の後ろの席へ座る。
すると真柴は後ろを振り返り、俺を見つめた。
「よろしくね松村くん! 淳一くんって呼んでいいかな?」
「ああ、よろしく。 それでいいよ」
「うん! よろしくね淳一くん!」
真柴はニコッと微笑む。
「なあ真柴、これは何なんだよ」
「……もしも淳一くんが同じクラスだったらどうなってたのかなあって。 シミュレーションだよ~」
あまりにも真柴らしくて思わず微笑んでしまう。
「そっか。 この先も考えてあるのか?」
「もちろん!」
「聞かせてくれよ」
「えっとね、二人はすぐに仲良しになる。 同じバンドを好きだって知って一緒にバンドを組んだりして。 楽しく過ごしていく」
「今と同じじゃないか」
「淳一くんはあわてんぼうだなあ~、ここからが重要なんだよ~」
「どうなるんだよ?」
「うーん? えっとね…………」
「…………やっぱり何でもない」
「何だよそれ」
「ずーん。 お化けだぞ~」
真柴は懐中電灯で自分の顔を下から照らした。
「ふはは。 懐かしいなそれ。 昔やったな」
「ね、懐かしいでしょ~」
「……なあ真柴」
「なんだい淳一くん」
「相談していいか?」
「うん。 いいよ」
俺は由夏の一件を真柴に話した。
もちろん孫だということは言ってないし、そういったことは伏せた。
「ふーん、なるほどねえ」
真柴は腕を組みながらふむふむと頷いた。
「淳一くん、君はモテないタイプだ」
「お、お前いきなりそういうこと……」
「あはは、ごめんごめん」
真柴は笑う。 そして続けた。
「でも言わせてもらうけど、女の子って悩みを相談する時って大抵同意を得たいだけなんだよ」
「そうなのか?」
「うん、それに悩みを話してる時点でもう自分の中で答えは出ているんだよ」
「嘘だろ……」
絶句する俺に真柴は微笑む。
「可愛いね淳一くん、モテないタイプだ。
でもそんな一生懸命なところ、私は好きだよ」
思わず顔が赤くなってしまう。 いや自分では赤くなってるかなんてわからないけどなんか顔が熱くなった。
「これからだよ。 これから濃くしていこうよ薄っぺらい淳一くんの人生をさ」
「真柴……」
と、その時コツコツコツと遠くから足音が聞こえた。
「ん? 誰か来てないか真柴」
「あ、もしかすると警備員の人かもしれない……」
「嘘だろ……見つかったらやばいだろ……とりあえず隠れるぞ!」
俺はそう言って隠れる場所を探した。
……不安だがここしかない。
ガラガラガラ
教室が開けられる音がする。
どうやら教室の中を見回りに来ているようだ。
どうか見つからなければいいのだが……
…………ガラガラガラ…………
どうやら教室の扉が閉められたようだ。
「行った?」
「みたいだな」
はあーと俺たちは掃除用具入れの中から抜け出した。
「助かったな……まじでビクビクした」
「ね、さすがの私でもビクビクしたよ……手、いつまで握っててくれるの淳一くん」
真柴に言われ自分の手を見ると、真柴の手をしっかりと握っていた。 どうやら隠れている時もずっと握っていたらしい。
……それが自分でも可笑しくて俺と真柴は顔を見合わせて笑った。 必死になって隠れていた自分に。 本気でビクビクしていた真柴に。
夜中の校舎に二人で侵入して、散策して、変な茶番もして、警備員に見つかりそうになって必死になって隠れて本気でビクビクして……なんだかこれって……
「ドラマみたいだね」
と、真柴は微笑んだ。
真柴の話によるといつもなら10分で着くらしいが、他愛もない話をしながら漕いでいたため少しスピードを落としていた。
「ここの道、金木犀の香り凄くするでしょ。 私のお気に入りの道なんだ~」
俺の後ろで俺につかまりながら真柴はそう話す。
金木犀の木が立ち並ぶその道は街灯でオレンジ色に灯されている。
「金木犀か。 俺も嫌いじゃないな」
「いいよね。 金木犀。 なんか秋~って感じで」
「まあ夏って感じはしないな」
「えー、何その返し。 まったく淳一くんはロマンティストじゃないなあ」
「うっせ」
と、そんなやりとりをしていた。
真柴といると男友達といるような気楽さを感じられとても居心地が良い。
それでもたまに彼女が女の子だということを感じる時がある。 ごくたまにだが。
「うわあ、やっぱり暗いね夜の学校」
「そりゃあな。 んで、保健室はどこだ?」
俺が聞くと真柴はフッフッフと笑い、指を指した。
「あそこだよ!」
「……お前保健室は一階にあるって言ってたよな……」
「えー? 言ってたっけ?」
「言ってたわ!」
「てへっ!」
そう言って舌を出す真柴。
「どうすんだよ。 これじゃあ中入らないだろうが」
「あー、入れるよ!」
「え?」
「肩車して私を持ち上げてくれたらギリギリ届くかも!」
「……肩車しろってか?」
「うん! さあ淳一くん! 私はいつでも持ち上げられる準備はできてるぜい!」
軽くガッツポーズをしながら真柴は笑顔でそう言った。
……まったく……今日だけだからな!
俺たちはまず、学校の正門を登り構内へと侵入した。
そして保健室がある場所まで向かい、肩車の体勢へと入った。
まず俺はしゃがみこみ真柴を受け入れる体勢に入った。 そして真柴は俺の上に乗った。 真柴が俺の上に乗ったと確認し、俺は思いっきり体を突き上げた。
「お、おい……真柴……いけそうか?」
「う……うん、もう少し……! ごめん、あとともう少し突き上げて!」
「ふんっ! こ……これで限界だ。 いけるか?」
「あ……いく……いけそう……淳一くんもっと! もっとちょうだい!」
「ふぬぬぬっ! これで……どうだ?」
「あ……ああ……淳一くん! 届いた! 窓が開いたよ!」
「お……おうそれはよかった……」
「じゃあ先行って昇降口の鍵開けてくるね!」
真柴はそう言って保健室へと忍び込んだ。
5分ほどが経ち約束通り真柴は昇降口の鍵を開けてくれた。
ようやく俺たち二人は校舎内へと侵入することができた。
校舎内は当然だが、真っ暗で非常口の電灯しかついていない。
真柴が家から持ってきた懐中電灯が唯一の救いだ。
昼間はここに何百人と生徒がいるのに今は当たり前だが俺たち二人しかいない。
俺たちの足音だけがこつこつと廊下に響き渡る。
今ここで音を発するのは俺たちしかいなくてまるで世界には俺たち二人しかいないのだはないかと錯覚する。
明らかに今ここは非日常そのものだ。
そんなことを考えていたらいつの間にか真柴の教室にたどり着いていたようだ。
「ここが私の教室だよ」
真柴はそう言って俺の手をとって教室へと誘導していく。
「はい、今日は皆さんに転校生を紹介します!」
真柴は教卓の上に立ち、当たり前だが誰もいない机が並ぶ教室に向かって話す。
「何だよこれ」
思わずクスッと笑ってしまう。 何だこの茶番はと。 でもどうやら真柴は本気で遊んでいるようだ。
「ほら淳一くん。 挨拶だよ!」
「南高から来ました松村淳一です! 皆さんこれからよろしくお願いします!」
「えー、何それー。 普通だなあ」
「うっせ。 こういう挨拶は無難でいいんだよ」
「はい、じゃあ松村くんは真柴さんの前の席が空いてるからそこに座って!」
真柴はそう言うと走って窓際の後ろから二番目の席へと座る。
やれやれと俺は真柴の後ろの席へ座る。
すると真柴は後ろを振り返り、俺を見つめた。
「よろしくね松村くん! 淳一くんって呼んでいいかな?」
「ああ、よろしく。 それでいいよ」
「うん! よろしくね淳一くん!」
真柴はニコッと微笑む。
「なあ真柴、これは何なんだよ」
「……もしも淳一くんが同じクラスだったらどうなってたのかなあって。 シミュレーションだよ~」
あまりにも真柴らしくて思わず微笑んでしまう。
「そっか。 この先も考えてあるのか?」
「もちろん!」
「聞かせてくれよ」
「えっとね、二人はすぐに仲良しになる。 同じバンドを好きだって知って一緒にバンドを組んだりして。 楽しく過ごしていく」
「今と同じじゃないか」
「淳一くんはあわてんぼうだなあ~、ここからが重要なんだよ~」
「どうなるんだよ?」
「うーん? えっとね…………」
「…………やっぱり何でもない」
「何だよそれ」
「ずーん。 お化けだぞ~」
真柴は懐中電灯で自分の顔を下から照らした。
「ふはは。 懐かしいなそれ。 昔やったな」
「ね、懐かしいでしょ~」
「……なあ真柴」
「なんだい淳一くん」
「相談していいか?」
「うん。 いいよ」
俺は由夏の一件を真柴に話した。
もちろん孫だということは言ってないし、そういったことは伏せた。
「ふーん、なるほどねえ」
真柴は腕を組みながらふむふむと頷いた。
「淳一くん、君はモテないタイプだ」
「お、お前いきなりそういうこと……」
「あはは、ごめんごめん」
真柴は笑う。 そして続けた。
「でも言わせてもらうけど、女の子って悩みを相談する時って大抵同意を得たいだけなんだよ」
「そうなのか?」
「うん、それに悩みを話してる時点でもう自分の中で答えは出ているんだよ」
「嘘だろ……」
絶句する俺に真柴は微笑む。
「可愛いね淳一くん、モテないタイプだ。
でもそんな一生懸命なところ、私は好きだよ」
思わず顔が赤くなってしまう。 いや自分では赤くなってるかなんてわからないけどなんか顔が熱くなった。
「これからだよ。 これから濃くしていこうよ薄っぺらい淳一くんの人生をさ」
「真柴……」
と、その時コツコツコツと遠くから足音が聞こえた。
「ん? 誰か来てないか真柴」
「あ、もしかすると警備員の人かもしれない……」
「嘘だろ……見つかったらやばいだろ……とりあえず隠れるぞ!」
俺はそう言って隠れる場所を探した。
……不安だがここしかない。
ガラガラガラ
教室が開けられる音がする。
どうやら教室の中を見回りに来ているようだ。
どうか見つからなければいいのだが……
…………ガラガラガラ…………
どうやら教室の扉が閉められたようだ。
「行った?」
「みたいだな」
はあーと俺たちは掃除用具入れの中から抜け出した。
「助かったな……まじでビクビクした」
「ね、さすがの私でもビクビクしたよ……手、いつまで握っててくれるの淳一くん」
真柴に言われ自分の手を見ると、真柴の手をしっかりと握っていた。 どうやら隠れている時もずっと握っていたらしい。
……それが自分でも可笑しくて俺と真柴は顔を見合わせて笑った。 必死になって隠れていた自分に。 本気でビクビクしていた真柴に。
夜中の校舎に二人で侵入して、散策して、変な茶番もして、警備員に見つかりそうになって必死になって隠れて本気でビクビクして……なんだかこれって……
「ドラマみたいだね」
と、真柴は微笑んだ。
応援ありがとうございます!
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