あやとり

近江由

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六本の糸~地球編~

28.響き

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「天」に一つの輸送船が到着し、作業着を着たリリーとモーガンとハクトが何やら大きな荷物を運んでいた。

 荷物の中にいるコウヤは不満そうな顔をしていた。

「でも、大尉はどうやって軍に行くんですか?」

「どうせ入ったことを掴まれているんだ。それをねちねち問い詰められるかもしれないが、少しそれっぽいこと言っておく。」

 ハクトはモーガンの問いに淡々と応えた。

「それっぽいって、何を言うつもりですか?」

 リリーは興味津々だった。

「俺の親が「天」にいるから死にそうになって会いたくなったよーみたいなこと言っておく。」

 ハクトは自分で納得したように言った。

「大尉がそんな可愛らしいこと・・・・」

 リリーは少し悲しそうな顔をしているが、嬉しそうでもあった。

「練習しましょう!!」

 モーガンは目を輝かせていた。

「しない。」

 ハクトは断言した。

 ある程度進んだ場所にハクトは止まった。

「さて、ここから監視カメラは軍じゃなくて民間のはずだ。コウ。出ても大丈夫だぞ。」

 ハクトは辺りを見渡して頷いた。

 コウヤは窮屈な荷物の中から飛び出して不満を表情に表していた。

「お疲れ。コウヤ。」

 モーガンは満面の笑みでコウヤを労った。

「何で俺だけなんだよ。」

「お前は隠す必要がある。」

「なら隠れて入港した設定のお前は?」

 コウヤはハクトを睨んだ。

「何が嬉しくて男と二人こんな狭い荷物の中に入らないといけないんだ?俺は嫌だ。」

 ハクトはコウヤが入っていた荷物を見て眉を顰めた。

「俺だっていやだ。」

「ならいいだろ。」

「よくない!!」

 二人の言い争いを見てモーガンとリリーはため息をついた。

「大尉もコウヤもさ、大人しくしようよ。」

 モーガンは二人の背中を押して、急いで港から離れた。

 港から出ると、整備された街並みが広がっていた。

「すげー。結構人多いな。」

 コウヤは「天」の街並みを見て少し感激していた。

「おそらく軍人が多いと思う。地球の本部が全部ここに移動したと考えろ。」

 ハクトは周りを警戒するように見た。

「何か皮肉だよな。地連の軍本部が月に移動するなんて。」

 モーガンは辺りを見渡して呟いた。

「そうだな。もはや理念もないのだろう。」

 ハクトの呟きにモーガンは唸った。

「それにしても、あまりにもスムーズに入れたから驚いているんだけど、これって軍が目をつけていないってこと?」

「いや、泳がせる作戦だろうな。」

 ハクトは表情を強張らせた。

「お前は軍をひっくり返すつもりだったんだろ?どうするんだ?ハクト」

 コウヤはハクトから軍を乗っ取る話を聞いたため、軍の助けがあったとしか思えない潜入の成功に疑問を抱いていた。

「そうだな・・・正直、コウには輸送船に隠れてもらおうかと思ってた。」

「は?」

 さらりと言ったハクトをコウヤは睨んだ。

「どうしますか艦長?別に何も見張りがついていないんですよ・・・・気持ち悪くて」

 コウヤをガン無視し、リリーはか弱そうに言った。

「見張りがついていたほうがずっとやりやすかったのにな・・・」

 ハクトは表情を曇らせて言ったその言葉に、コウヤは首を傾げた。

「何でだ?見張りついているとどう考えてもやりにくいだろ?」

 ハクトは一瞬何か申し訳ない表情をしたが、すぐにいつもの表情に戻った。

「見張りがついていた方がどこかから情報を漏らせばいいように誘導できるかわかるんだ。見張りがいない、または気配を感じないのは下手に動けないということなんだ。」

 ハクトの表情に気づいたコウヤは少し拗ねた様子だった。

「はいはい。俺は軍人の世界にいなかったからこのような説明の手間を必要とさせてしまいますよー」

 それを聞いたハクトはクスリと笑った。

「わかればいいんだ。」

「じゃあ、お前は本部に行って中佐と会うのか?」

 コウヤはハクトを見た。

「大尉。ロッド中佐の事ですが、私たちも見ることもできないんですよ。」

 リリーは真剣な顔をしていた。

「ハンプス少佐が会おうと画策したようなんだけど、場所すらわからないらしいですよ。」

 モーガンは困ったような顔をした。

「地球の本部はほぼ中佐の支配下だったが、ここは違うようだな。少し厄介だ。」

 ハクトは頭を抱えた。

「とにかく大尉は軍に行きましょう。」

「そうですよ。コウヤは待機で。」

 リリーとモーガンはハクトの腕を引いた。

「待機って・・・・おい!!」

 コウヤは走って行く3人の後姿を見つめながら寂しくなった。

「俺、どこに行けばいいんだ?」

 ふと見るとポケットの中にお金が入っていた。

 どうやらハクトが宿泊代として忍ばせたようだ。







 軍本部の廊下を歩きながらロッド中佐はため息をついた。

 それを見つけた補佐のイジーが彼に駆け寄った。

「中佐。どうかされました?」

「どうやら・・・・軍の上層部にはましな奴がいるようだな・・・・」

 ロッド中佐は笑っていた。

「どういうことですか?」

 イジーはロッド中佐の言葉すべてに不安を覚え始めていた。

「ニシハラ大尉がドームに入ったらしい・・・・だが、延期になっていた任務が決まった。」

「どういうことですか?」

「私の暗殺計画があることは知っているな?・・・・おそらく、ニシハラ大尉との接触を避けさせているのは、力を合わせて欲しくないからだろうな。」

 ロッド中佐は納得したように頷いた。

「なら、なぜニシハラ大尉は無事にドームに入れたのでしょうか・・・?」

「ニシハラ大尉が生きて使える駒だからだ・・・・たとえば、前ネイトラル総裁には最高に効くだろう?」

 その言葉を聞きイジーは顔が青ざめた。

「でも、そんなこと一部のものしか知らないですよ。この前の身を挺してまで守った話は、有名ですが、ニシハラ大尉の性格を知ってる人なら変に思いません。なぜそんなことまで上層部が考える必要があるのですか?」

「だから、ましな・・・いや・・・・厄介な奴がいる。かなり前から潜りこんでいたといえばいいのか・・・」

 ロッド中佐の口には今までにはないほどに焦りが見られた。

「そうであるなら、任務の日程の方まで困惑させることをするのですか?」

「そこが、1番厄介だと思ったことだ・・・・上層部の後ろにかなりの事情通がついている。狙いが私を消すことではない。」

 ロッド中佐は一人の少年の身を案じていた。

「作業着の彼を、見つけるためですか・・・?」

 イジーの問いにロッド中佐は答えなかった。

 ロッド中佐はドームの人工的な空を窓から見上げた。

「・・・・別れも近いのか・・・」









「ロッド中佐を消したらニシハラ大尉はこちらに渡してもらう・・・」

 地連のお偉い方々の会合の場で一人だけ違う軍服を着た初老の男が言った。

「力の均衡がとれないですよ。では、こちらにヘッセ総統の娘を寄越してください。」

「痛いところを・・・」

 初老の男の軍服は赤と黒であった。

「ゼウス共和国の准将さんならできるでしょう。」

「また痛いところをつつきますな。」

 准将は困ったように笑った。

「時期総統様と言えばいいですか?」

「気が早いな。」

 准将はまんざらでもないように笑った。

「そういえば、戦艦フィーネに面白いパイロットがいたと」

 准将は思い出したように近くにいたウィンクラー総統に話しかけた。

「ああ、コウヤ・ハヤセ二等兵ですか。でも死にましたよ。おたくのユイ・カワカミにやられて。」

 ウィンクラー総統は分かっていたことのように言った。

「ほう、カワカミにか・・・」

 准将は面白いことのように顎をさすった。

「カワカミ博士は探してるのか?」

 准将はウィンクラー総統にまた話しかけた。

「探している。記録やら全てチェックしているが、全くだ。ネイトラルに囲われている可能性を考えたが、どうも話が通じない国でな。」

 ウィンクラー総統は頭を抱えた。

「レイモンドは知らないのか?」

 准将はウィンクラー総統を探る様に見た。

 ウィンクラー総統はピクリと反応したが、直ぐに眉を顰めた。

「あの男の行方が掴めない。地球をあちこち回っているなどと言っているが、居所は軍にいる時しかわからん。」

「相変わらずだな。」

 准将はウィンクラー総統の様子を見て笑った。

「もう政治に介入することもない男だ。だが、今度見つけたら身柄を確保しよう。」

 ウィンクラー総統はこの話題が好まないようだ。

「そうだな。そうしてくれ。」

 准将は満足したように頷いた。

 密談の部屋にノックの音が響いた。

「誰だ。」

 准将が厳しい口調で聞いた。

「私です。父上。」

 返ってきた声を聴いた准将は口をほころばせた。

「入れ。」







 月に上がる宇宙船に乗り込んだラッシュ博士とマックスは、目的地まで時間を持て余していた。

「大げさな機械も無いのですから、せめて報告書だけでも読みたいですね。」

 マックスは不満があるようで、じっとしていられないようだ。

「たまには頭を休ませなさい。新しい場所はもっといろんなものがあるのよ。」

 ラッシュ博士はマックスを窘める様に言った。

「自分も端末操作してもいいですか?」

「いいけど、第三者に情報流したら駄目よ。」

 ラッシュ博士の許可をもらい、マックスは端末を操作し始めた。

 連絡を取れるかと、メッセージの送信先をかつての同僚にして、作成し始めた。

「何か気になることでもあるの?」

「いえ、そういえば、トロッタは何をやっているのか気になって、あいつは自分に次ぐ研究員でしたから。」

「ああ、トロッタ研究員ね・・・・」

 ラッシュ博士はいまいち興味が無いようだ。

 そんな彼女の眼の色が変わった。どうやら彼女の持つ端末に連絡が入ったようだ。

「え?ふふふふ。あらら」

 目を輝かせて隠せないほど喜びを浮かべていた。

「・・・どうかしました?」

 メッセージを送信できないという通知がでたマックスは少し不安そうだった。

「・・・クロス・バトリーという男が天のなかで作業員として働いているらしいわ。ヘッセ総統からは死んだって聞いていたから、生きていたのね。」

 ラッシュはメッセージを眺め、肩を震わせていた。

「死人であった者が生きていたのですね。じゃあ、これでドールプログラムの鍵はほぼ健在ですね。」

 その様子をみたマックスは端末を仕舞いながら言った。どうやら連絡を諦めたようだ。

「そうね。クロス・バトリーが生きているのなら・・・・コウヤ君だけになるわ・・・・」

 ラッシュ博士は少し懐かしむ様な顔になった。

「遺体でも鍵となるのかは分かりませんよ。」

 マックスはラッシュ博士を凝視していた。

「クロス・バトリー・・・・レイラちゃんには最高の人質ね・・・」

 整った形の唇を指でなぞりながらラッシュは笑った。

「鍵、プログラムさえ解析できれば・・・全て・・・」

 ラッシュは恍惚とした笑みを浮かべていた。







 作業着の少年は、同じように作業着を着た者たちと仕事をしていた。

「お疲れ様です。」

 少年はそう言うと仕事仲間に一礼をして立ち去ろうとした。

「・・・・おーい元気か?」

 歩こうとした道の先にキースが立っていた。

「・・・ハンプス少佐・・・・」

「あんたの期待通りニシハラ大尉はドームの中に入れた。」

「そうか・・・・これでロッド中佐を助けることができる。」

「まあ、あとは中佐しだいだな・・・・」

「・・・・・中佐は簡単に殺されない・・・」

 作業着の少年は狂信的に言った。

「お前・・・・人間って簡単に死ぬんだぞ・・・・・知らないのか?」

 キースは当然のことのように言った。

「そうですね。あなたならよくわかっていますからね。」

「いちいち引っかかるなよ。こう見えて結構トラウマなんだ。」

 キースは困ったように笑った。

「そうでしょうね。」

 少年は当然のように呟いた。

「だから、中佐にも気を付けるように伝えなくても気を付けるか・・・接触できないから何とも言えないが・・・」

「中佐は別だ・・・凡人とは違う・・・・」

 少年はキースの言葉を振り払うように言った。

「へー・・・・だからお前はハクトにもこだわっているんだな・・・・」

「お前・・・・何の用で来た?」

 少年はキースと距離を取った。

「別にお前に危害を加えることはしない。・・・ただ、忠告だ・・・・」

「忠告?」

「ああ、ええっと・・・クロス・バトリー。軍はレスリーよりこいつの重要性に気づいている・・・・」

「・・・・・なんだと?まさか、お前・・・・」

「俺はお前がクロスと名乗っていたなんて一言も言っていない・・・」

「・・・なら、なんで・・・」

「どうやら、わが軍の上層部は、ゼウス共和国の研究者と仲が良いようでね・・・・」

「・・・?」

「難しい話はわからないけど・・・ドールプログラムについての手がかりとか・・・・俺には分からないけどな・・・・」

 キースはそう言うと少年に向かって笑った。

「だから、気をつけろよってことだ。」

「・・・・・そうか・・・」

 少年は口元に焦りと恐怖を浮かべていた。







「天」には、公な港と別に軍用のドール出撃口があった。

 軍本部の建物から直結しており、そこから宇宙に出ることが可能だ。

 そこに任務を与えられた小隊のドール部隊が並んでいた。彼等は、とあるドールが出てくるのを待っていた。



 無人の黒のドールの前に来るものを阻むようにイジーは立っていた。

 ロッド中佐はスーツを着て立ち止まっていた。

「・・・ルーカス君・・・どうした?」

 イジーは泣き出しそうな顔で彼を見た。

「中佐・・・今回の戦場、断ってください。もしくは、私もどうにか連れてってください。」

 イジーはロッド中佐に縋るように言った。

 彼は驚いたのか口を開けたまま固まっていた。

「ちゅ・・・中佐!!聞いていますか?」

「あ・・・ああ。悪いな・・・想定外のことだったんでな・・・」

「想定外だったにしても・・・私は本気です。」

 イジーは拳を握りロッド中佐に本気度を示した。

「・・・ダメだ。君は戦場慣れをしていない。それに、今回の任務は危険だ。」

「そうです。今回の任務・・・はっきり言って無謀です。」

 イジーは頷いた。

「死ぬぞ・・・君。」

 ロッド中佐はそう言うとイジーを押しのけドールに向かった。

 イジーは俯いて歯を食いしばった。

「お願いです。中佐と一緒に行きたいです。」

「君は死んでしまう。私にはわかる。やめなさい。」

 ロッド中佐は説教するようにイジーに言った。

 イジーは顔をあげて勢いをつけて言った。

「中佐の傍で死ねたら本望です。それに、この任務で中佐が死んでしまうかもしれない。なら、私は自分も死んでもいいから中佐と・・・・」

 言い出したら止まらないのかイジーは一息で言えるところまで言った。

 それを遮るように

「君は死んではいけない。私はそう言ったはずだ。そして、君もそう思ったはずだ。」

 イジーはロッド中佐の態度が冷たかったのがショックだったのか悲しそうな顔をした。

「そうです・・・けど、あの時と今違います。」

 イジーはロッド中佐に歩み寄った。

 彼は疑問そうな表情を口に浮かべていた。

「違う?・・・君は、確か自分の大事な人を探すために・・・・」

「今は、私はあなたを失いたくないんです!!中佐!!」

 イジーは叫ぶように言うと彼に縋りついた。

「・・・・ルーカス君・・・・」

「説教ですか?いいだけ聞きます。変な神様のお話も聞きます。」

 イジーは手が白くなるほどロッド中佐の腕を掴んでいた。

 彼は諦めたような笑いを口に浮かべた。

「君が見ているのは幻想だ。私という存在は君の中に存在していいものではなかった。」

「もう手遅れです。それに、あなたはこれから必要な人物です。」

 イジーは首を振った。

 ロッド中佐はイジーの耳元に囁いた。

「君は、全部わかっているはずだ。それから目を逸らしているだけだ。」

 囁きを聞いたイジーは電撃でも受けたような表情をし、その場に座り込んだ。

 ロッド中佐は振り返らずにドールに乗った。



 ドールのコックピットからイジーの姿が見えた。

 彼はそれを見て口元に笑みを浮かべた。

「・・・・・・」

 彼の頭の中は今とはちがう時間が広がっていた。

「・・・・・ルーカス君、君は生きなきゃいけない・・・ユッタの分も」

 彼は幼い口調で呟いた。

 コックピットの中の青年は記憶の海を漂っていた。








 蘇る言葉、場面があった。

 昔のこと、今の彼からは想像もできない彼の時間

「なんでずっと一緒にいられないの?みんな仲良しだよね。みんな大好きなのになんで?お母さんもお父さんも・・・どうして?」

 声を詰まらせながら一人の少女は言った。

「仕方ないよ・・・・」

 そう言うことしかできなかった。その問いに答えられなかった。

「本当はずっと一緒にいたかった。君達と・・・未来を共にしたかった・・・」

 青年は目の前に広がる現実に目を戻した。

「私は・・・もう戻ることはできない。」

 彼は、はるか遠くにいる敵に小隊を引き連れ、命を惜しむ様子もなく飛び立った。



 はるか遠くに飛び立った一体のドールを見送りイジーは涙を流していた。

「・・・絶対帰ってきてください・・・・」

 イジーは敬礼ではなく祈るように手を組んでいた。





「天」内部の港近くにひっそりと建っている石碑があった。

 そこに立つ作業着の少年は、見えるはずもない宙を見ていた。

「・・・・動いてくれたんですね。」

「お前・・・鋭いな。」

 気付かれないように近づいていたのか、キースは苦笑した。

「隠密活動をずっとしていたのです。気付かずに出し抜かれるのは命取りですから。」

 作業着の少年はキースに口元を微笑ませながらも距離を置いて向かい合った。

「・・・・でも、中佐は任務に行っちまった。罠だと知りながらも・・・」

「地連とゼウス共和国はドールプログラムという宝を共有する道を選ぶでしょうね。」

「・・・・なんだよそりゃ、じゃあ俺らの今までは」

「この道を選ぶのに邪魔な存在が中佐だったのです。」

 少年は皮肉気に笑った。

「黙って消されるのか?ロッド中佐は・・・あの人は一人で戦況を変えれるほどの存在だろ。」

「消されるのではないですよ。要望通り、消えるのです。」

 少年はさみしそうに言った。

「・・・・お前はいいのか?」

「表面上はゼウス共和国と手を取るのなら平和になるのでは・・・と思うでしょう。」

「違うだろ。戦場が実験場になるだけだろ?戦場ほど絶好なドールプログラム活用の場はない。」

 キースは悲しそうな顔をしていた。その表情を見て少年はうつむいた。

「・・・・・ハンプス少佐。あなたはなぜ上層部に尻尾を振るのですか?」

「なあ、蓮の花って見たことあるか?」

 キースは少年を見た。

「いえ、保護対象の植物ですよね。植物園にならあるかもしれないですね。」

「俺は、それが見たかったんだ。」

「・・・見たかった?」

「泥の中から咲く花らしい。汚い上層部でもしかしたら・・・何か」

「上層部が綺麗な決断をする。そんな期待をしていたのですか?」

 少年の問いにキースは首を振った。

「いや・・・・そんなことじゃない。」

「あなたから花の話が出るなんて思いませんでした。」

 少年は意外そうにキースを見た。

「俺も蓮くらいしか知らない。ぶっちゃけ、薔薇もよくわからん。」

 キースは石碑を見て悲しそうに笑った。

「俺の目的は・・・ただ一つだ。」

 そっと石碑に触れ、懐かしむような目をした。

「・・・そうですか。今度、探してみます。蓮の花・・・・」

 気が付いたらキースと少年は肩を並べていた。









「ここが「天」か・・・・なんというか、規模が大きいな!!」

 感激してはしゃぐシンタロウを見てレイラは嫌味そうに笑った。

「あまりはしゃぐな。お上りさんみたいで滑稽だぞ?」

 冷たいというよりかは嫌味な口調だった。

「お前、感動ないな。」

 シンタロウの言葉にレイラはむっとしたのか息を吸うと

「きゃーすごーい!!」

 と平常の声の一オクターブ高い声ではしゃいで見せた。

 シンタロウは無言でそれを見て

「すまん」と一言言った。

 レイラは真顔に戻り

「許さない」と返した。

 そんな二人に

「ヘッセ少尉!!」

 一般人に模したゼウス軍の兵士が近寄ってきた。

「どうした?」

 レイラは寄ってきた兵士の様子がおかしいのに気付いて構えた。彼女の後ろでシンタロウも構えていた。

「実は・・・例の黒いドールの男・・・」

 二人のそんな様子を知らず、兵士は慌てた様子で話し始めた。







 宇宙空間を行くドールの小隊があった。

 戦闘の黒いドールだけ動きから伝わる強さが別次元であった。

 そのドール部隊を待ち構えるように別の軍と思われるドールの軍勢がいた。

 数だけで見れば黒のドール率いる小隊が圧倒的に不利である。



 黒いドールはどのドールよりも早く敵に気が付いたようであり、すぐさま軍勢に向かった。

 それを追うように残りの小隊も動いた。



 戦闘が始まると黒いドールの動きが圧倒的過ぎて対する軍勢が虫のように見えた。

 これは、小隊がいらないのではないかと思える戦闘であった。

 小競り合いというには規模が大きかった。

 最初は、どう考えても小隊は死地に追いやられているだけの数量差が、軍勢とあった。



 黒いドールの圧倒的な動きで戦況は小隊の圧勝に思えた。



 だが、あることで戦況は大きく変わった。



 小隊のドールが後ろから黒いドールに攻撃したことからだ。



 黒いドールは驚いたように振り向いた。

 そんな隙を見逃さず、軍勢は黒いドールに一斉攻撃を仕掛けた。

 軍勢のドール、小隊のドールが入り乱れて一つの塊にみえた。

 そんな中から左腕はもげ、左足がもげた黒いドールが飛び出してきた。



 黒いドールを小隊、軍勢両方が追っていた。だが、ただでやられる黒いドールではなかった。

 軍勢は機能しているドールより潰されているドールの方が圧倒的に多く

 小隊は半数以上が手足をもがれている。



 黒いドールの方が速かった。

 ドールは神経接続をするため、手足をもがれて動くのは相当な負担である。

 それを計算していたのか軍勢、小隊は視界から黒いドールが消えても焦った様子はなかった。



 しばらくすると、ぐったりとした黒いドールが浮いていた。



 防ぐ手足もないドールは恰好の標的にされた。



 地連軍の恐怖の象徴、力の象徴である黒いドールの最期は

 手足をもがれ、軍勢の的にされる情けないものであった。





 戻ってきた黒いドールは残骸だけで、コックピットは無残に破壊され、大半の部品は空に漂ったままだった。

 それを見たイジーは膝から崩れ落ち、過呼吸になり、彼女の意識を現実から遠ざけた。

「ルーカス中尉!!」「大丈夫ですか!!」

 他の軍人たちが心配し、彼女に駆け寄るが彼女の意識は現実を見たがらなかった。



 黒いドールが破壊されたニュースは、すぐさま地連の軍だけでなくゼウス軍にも広まった。

『小隊対軍勢で挑むのが無謀な戦い。』『軍勢に大打撃を与えたのは流石だ』

 と言われたが一度対峙したことのある者、黒いドールの強さを知る者は分かる。



 レイラは手を震わせ、血管が浮き出そうなほど表情を壊した。

「おいレイラ。黒いドールが先にやられて悲しいのは分かるが、お前はまだ」

 シンタロウがレイラを慰めようとしたとき

「軍曹。・・・これは、謀殺だ。」

 レイラは歯が壊れるのではないのかというほどギシギシと歯をきしませた。

「いや、わかるぞ。だって、こんな小隊対軍勢じゃ・・・」

「私にはわかる。あの男はこんな軍勢に負ける奴じゃない。」

「レイラ・・・・?」

「これは、大変なことなんだ。」

 レイラはシンタロウを引っ張り、ドームの風景になじむように歩いて行った。








「大尉!!」

 ソフィは久しぶりに会うハクトに目を輝かせた。

「ハクト!!久しぶりだな。」

 ソフィの横にキースが立っていた。

 ハクトは二人を見るとぎこちなく微笑んだ。

「どうしたハクト?まさか、あのあと元総裁どのとなにか?」

「い・・・いえいえ!!二人も無事でよかったです。モーガンたちにはもう会ったのですが。」

 キースの軽口にハクトを流し話題を変えようとした。

 そんなハクトを見てソフィは悲しそうな表情をした。

「大尉はしばらく休んでください。ロッド中佐が亡くなった今、軍の主力は大尉なんですから。」

「そうだぞ。お前は地連の中だと中佐に次ぐ戦士だからな。」

 キースはそう言いハクトの肩に手を置いた。

「俺は・・・・慢心でもなく、本当に中佐はこの世で唯一俺より強い男だと思っていました。」

 キースは目を見張るようにハクトを見つめたが、すぐに戻り

「そうだな。ハクト、お前は休め。」

「・・・・ありがとうございます。ですが、これから呼びされていて・・・」

「大変だな。・・・無理するなよ。」

 キースはハクトの頭を軽く叩いた。

 ハクトは頭を下げてその場から立ち去った。







 戻った当日は簡単な報告だけで、追い返されたが、ロッド中佐の訃報が入ってから本部を自由に歩けるようになっていた。

 そして、呼び出しされたことにハクトは警戒していた。

「よく無事でいました。ニシハラ大尉。」

 出迎えられたハクトは軍人の表情で敬礼をし部屋に入って行った。

 軍内は、ロッドの戦死にどよめいていた。

『どう考えても謀殺だろ。』

 ハクトは内心叫んだ。

 ハクトが戻ってくると入れちがいでロッド中佐は出発したようだった。

 まさかこんな殺し方をするとは思っていなかった。暗殺でも簡単にやられないと考えていた。無謀な任務でも彼は大丈夫だと過信していたのか

 ハクトは自分の行動が遅かったのか計算していた。

「ニシハラ大尉このたびはよく・・・・ロッド中佐のことは残念です。」

 目の前に名前は憶えているが、記憶に残らない偉そうな軍人が来た。

「ロッド中佐は本当に信じられない限りです。」

「中佐はいつもニシハラ大尉のことを気にかけていましたから。」

 その割には片手で数えれるほどしか会っていないのは、軍が警戒していたのに違いない。

「故人を悼む前に、私の今回の処遇を決めていただきに来ました。」

 ハクトは姿勢を改めた。

「ニシハラ大尉」

「はい」

「ご両親は元気かい?」

 偉そうな軍人は余裕たっぷりの笑みを浮かべていた。







「モーガン大丈夫?」

「嘘だ、嘘だ。あの人が死ぬはずない。」

 モーガンはロッド中佐の戦死を信じられないようであった。

「と・・・とにかく今は落ち着いてこれからのことを考えよう。」

 リリーはモーガンを落ち着かせることにした。

「あの人は・・・恩人なんだよ。」

 モーガンはうなだれていた。

「モーガン・・・・」

「あの人は上に立つべき人なんだ。大尉や中佐が・・・軍を引っ張るべきなんだよ。」

 モーガンは泣き出しそうな顔をしていた。

「モーガン・・・嬉しかったんだね。大尉が軍をひっくり返すって言った時」

「・・・うん。俺の尊敬する人が二人手を組むんだよ。ハンプス少佐も一緒にさ・・・」

 モーガンは夢見るように笑ったが、直ぐに悲しい顔に戻った。

「モーガン。悲しんだりショックを受けたりしても、自分が何をやるかはおざなりにしないで。」

 リリーはモーガンにハンカチを差し出した。

「泣いてないって。・・・・ありがとうリリー。そうだよな。」

 モーガンは笑った。リリーも笑った。







「ハンプス少佐はこれからどうするんですか?」

 ソフィは向かいに座るキースに問いかけた。

「俺はハクト次第かな?ロッド中佐が死んでしまった今、ハクトの計画も中止だろ。」

 キースは頬杖をし、遠くを見つめていた。

「・・・・そうですか。」

「地球に行きたいな・・・」

 キースは呟いた。

「え?地球?」

「ああ。コウヤと話したい。あいつの危なっかしいところ、昔の自分みたいで」

「ハンプス少佐」

「アリアちゃんとも話したいな。シンタロウとも・・・」

「ハンプス少佐!!」

 ソフィは声を荒げた。

「リード准尉・・・あいつらは子供だった。初めて会ったときは何にも染まっていない子供だった。年齢じゃない。」

「わかっています。だからこそ、こんな結末をむかえたのかもしれません。」

 ソフィは涙目だった。

「リード准尉。俺、地球に行きたいな。こんな肥溜めにいたくない。」

 キースは下を見て肩を震わせて言った。

「・・・・ハンプス少佐。」

 ソフィは何も言えなくなり席を立った。

「リード准尉、准尉はどうするつもりだ?」

 キースは何かを押し殺した声で訊いた。

「私は・・・・リリーと訳の分からない女子会をしたいし、モーガンのすねた顔を見たい。大尉の指示の声も聴きたい。アリアちゃんやコウヤ君に説教もしたい。」

「楽しかったな・・・フィーネ」

「楽しかった。本当に・・・」

 そういうとソフィは立ち去った。

 キースは俯きながらも推し測るように、ソフィの背中を見ていた。







 初めてのドームで迷いながらもどうにか目的地にたどり着けたことにコウヤは満足していた。

 途中で見た墓地に怖くなりながらも、どうにかやってきた。ハクトからもらったお金はほとんど使い果たしてしまったが、仕方ないと思っていた。

 今いるところは、「天」に来たら来ようとしていたところだ。

 目の前にある大きな屋敷は立派であるが時代を感じる。

 敷地内に呼び鈴があることがわかり、気が引けながらも入った。

 ドアの前に立ち、ノックをするのかチャイムを押すのか、そもそもチャイムはあるのか悩んでいた。

 意を決してノックをしようとしたらドアが開いた。

「お待ちしておりました。」

 中から男の声が聞こえた。

「あ・・・・マリーさんから聞いていますか?」

 コウヤは声の主を見た。

「ムラサメ博士の息子さまですね。」

 コウヤは目を見開いた。

「おはいりください。私はあなたの味方です。」

 屋敷の執事は柔和な表情をしていた。

 コウヤは黒いドールの主であったロッド中佐の実家に入って行った。

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