あやとり

近江由

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六本の糸~プログラム編~

82.理想

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 戦艦フィーネの操舵室では、レスリーがモーガンに舵を持たせて説明をしている。リリーとイジーは張りつめた表情でそれを見守っていた。



「だいたい感覚は掴んだだろ?周りの感覚は大丈夫か?」

 レスリーはモーガンの様子を窺った。



「はい。今、ニシハラ大尉とロッド中佐が一緒に部屋に入りました。これから休むみたいです。あ、コウヤと女性3人は一緒にいますよ。えーっと・・・・マックスとカカも一緒だ。あ、リオは一人で寂しそう。それから・・・」

 モーガンは探るように目線を動かしていた。



「いや、いい。艦内でなくて外は分かるか?」

 レスリーはモーガンの発言を止めた。



「人多いから分からないですよ。誰探しますか?」

 モーガンは口を尖らせていた。



 レスリーは考え込んでリリーとイジーの方を見た。

「今、ドームに入っている奴わかるか?」

 レスリーの言葉にリリーとイジーは顔を見合わせた。



「今は・・・・レイモンドさんとリード氏と、ハンプス少佐とシンタロウ君ですね。」

 リリーは思い出しながら言っているのか上を見ていた。



「ここから分かるんですか?」

 イジーはモーガンとレスリーの顔を交互に見ていた。



「知らん。」

 レスリーはそう言い捨てるとモーガンを見た。



「ニシハラ大尉やクロス達ならわかるだろうな。」

 レスリーはモーガンを試す様子ではなく淡々と事実を述べるように呟いた。



 モーガンは期待されていないと思ったのか頬を膨らませた。



「よーし・・・・シンタロウだな。ハンプス少佐と・・・・リードの野郎とレイモンド大将は・・・と」

 モーガンはどうやら影でリード氏のことをリードの野郎と呼んでいるようだ。

 それを聞いてレスリーは苦笑した。



「あれ・・・・ハンプス少佐とシンタロウが察知できた。二人一緒にいる。」

 モーガンは首を傾げていた。



「一緒に?シンタロウはレイモンドさんに呼ばれていたけど、用が済んだのか・・・・」

 レスリーは考え込むように呟いた。



「じゃあ、戻ってくるんですね。二人が戻ってきたら作戦開始ですか?」

 イジーは表情を引き締めていた。



「ネイトラルサイドからも協力をするとあった。それの対処を本部がどうするかだ。できればあまり前線に出て欲しくない。」

 レスリーはあからさまに顔を顰めた。



「どうしてですか?協力は嬉しいですよ。」

 リリーはキョトンとしていた。



「作戦は失敗したら人類が終わりか、みんな仲良く操られるかだ。成功したら作戦を主導していたものが後の宇宙の主導を握る。少しでも関わりたいと考えるだろうな。まさか前線で役に立つとしたら盾になることぐらいだとは言えないだろ。」



「事態が逼迫していた。作戦は急を要する。付け焼刃の連中が参加できることじゃないとか?付け焼刃の私が言うのもなんですけど。」

 イジーは皮肉的に言った。



「いや、イジーの言う通りだ。たぶんレイモンドさんもそれで対処するだろうな。余計な時間と思えるが、クロス達には貴重な休憩時間だ。」

 レスリーはもはや馴染んだ義手と左手を重ねていた。



「・・・・このレイモンド大将は本部にいてもらってハンプス少佐とシンタロウが帰ってきたら出発ですね。・・・・火星のゼウス共和国に向けて。」

 リリーは先ほどまでのぽかんとした表情から一変して緊張していた。



「そうだ。ある一定の宙域に入るまでは今出ている補充部隊が護衛してくれる。万一の場合は勿論こちらからも出すが、6人の負担が大きすぎる。あと、ハンプス少佐やシンタロウ、ジョウさんも・・・・」

 レスリーは6人を気にしていた。そしてそれよりもキース達のことも。



「ジョウさんって誰です?」

 リリーは首を傾げていた。イジーもだ。



「ああ、ジューロクさんの本名だ。本人から聞いた。」














「まったく、まさかこんな短時間で無茶な処置を二回もするとは思っていなかったわ。」

 ラッシュ博士はため息をついていた。



「無茶な?」

 カワカミ博士はラッシュ博士の方を、目を光らせるように見た。



「ああ・・・・ほら、肺の弾を抜いたりよ・・・・」

 ラッシュ博士はそう言うと目の前にいた男の頭を叩いた。



「って・・・・・頭に異物が入っているんだからもっと大事にしてほしいな。」

 男は恨めし気にラッシュ博士を見た。



「しかし、いいのですか?あなたにかかる負荷は計り知れません。機械の調子だってわかりません。熱を持ってしまったら激痛ですよ。」

 カワカミ博士は男を見て心配そうに言った。



「そんなこと言いながら止めなかったのはありがたい。あんたに救ってもらった命だが、有効活用するなら今だろ?」

 男はカワカミ博士を見て言った。



「わからないわ。せっかく拾った命、何で捨てるのかしら。ジューロク君。」

 ラッシュ博士は理解できないように首を傾げた。



「あんたは俺がモルモットになってから来たから知らないかもしれないが、俺の名前はジョウ・ミコト。ヘッセ総統の元秘書ナオ・ロアンの部下だ。」

 ジューロクは誇るように名乗った。



 ラッシュ博士は首を傾げた。

「名前だけは聞いたことがあるわ。失脚したとか、裏切った代償としてモルモットになった人ね。今更名乗った理由は聞いた方がいい?」

 ラッシュ博士は興味がなさそうにジューロク、ジョウを見た。



「いや、知ってほしい人には知ってもらった。名前を名乗ったのは、それだけ本気だってことを知ってほしいからだ。」

 ジョウはラッシュ博士を軽く睨んだ。



「頼りになる人ですね。今のフィーネのドール部隊は歴代最強でしょうね。」

 カワカミ博士は執事の時のような表情だが、目だけが爛々と光っていた。



「さて、俺のドールはハンプス少佐やシンタロウ・コウノと同じ奴か?」

 ジョウは頭を支えながら立ち上がり二人を見た。



「そうですね。ジョウ様もコウヤ様たちと同じぐらいに出てもらいます。しばらくは本部の補充部隊に動いてもらえばいいでしょう。」

 カワカミ博士はジョウを気遣いように言った。だが、補充部隊に関して言うときは冷淡であった。



 ジョウは軽く体を動かしながら歩きだした。



「じゃあ、ちょっくら俺もドールを見てくる。」

 そう言うとジョウはカワカミ博士を見た。

「ありがとうございました。あなたのお陰で俺はまた生きれる。」

 次にラッシュ博士を見た。

「とりあえずお礼を言う。お前がこれを埋め込んでくれなかったらこの作戦の役に立てなかった。」

 複雑そうに笑うとまた歩きだした。



 去っていくジョウの背中を見て、ラッシュ博士は口元に笑みを浮かべた。



「最近・・・・久しぶりにありがとうと言われることがあるわ。・・・・・昔はよく言われていたのに、恨み言か叫び声、断末魔ばかりだった。」

 ラッシュ博士は昔のことを思い出しているのか視線は前を見てどこか遠くに焦点を定めていた。



「私は、逆ですね。」

 カワカミ博士は淡々と答えた。












 与えられたドールを見上げてコウヤはため息をついた。

 目に眩しいほど緑緑としていて派手だ。

 チラリと横のドールを見た。

 他のドールも目に眩しいほど各色をギトギトに塗られていた。



「派手だよね・・・・」

 ユイがコウヤの横に来た。



「ユイの赤いのも派手だよな。シンタロウのが羨ましい。」

 控えめなシンタロウ達のドールを見てコウヤは呟いた。



「私、この作戦が怖い。」

 ユイは怯えるように自身の肩を抱いた。



「皆作戦が怖いと思う。俺もだ。」

 コウヤは改めて作戦を行うに際しての責任を感じた。



「これが終わったら・・・・・みんなバラバラになるのかな・・・・」

 ユイは悲しそうにつぶやいた。



「ユイ・・・・」

「だって、目的が無くなったら一緒にいられないでしょ?私だってわかるよ。私たちの力が大きすぎる。コウと一緒にいたい。レイラやディア、ハクトとクロスとも・・・・でも、それが難しいことはわかるよ。」

 ユイの言葉に傍で聞いていたディアとレイラが歩いてきた。



「他の奴と違う。私たちはいつでも会うことができる。その術を手に入れたはずだ。」

 ディアは自身の頭を指差し次に胸を指差した。



「そうよ。私たちは・・・・・」

 レイラは何か言おうとして固まった。



「どうした?」

 コウヤはレイラの顔色が変わったことに厭な感覚がした。



「いや、その時になったら考える。今は作戦に集中しよう。」

 レイラは不安を振り払うように言った。



「コウ。作戦が終わっても私たちには終わりがない。だから、思う存分作戦にあたろう。」

 ディアはレイラの肩を叩き、コウヤを見た。



「そうだ。そのことはクロスにも話してほしいな・・・・」

 コウヤは頑ななクロスを思い浮かべた。



「あいつは後でぶん殴るからいい。」

 ディアは冷ややかな目をした。



「え・・・・?何か・・・・」

 コウヤは怖くなった。



「あら、私はハクトをぶん殴るわ。」

 レイラも冷ややかな目をしていた。



「あの二人デキていないから大丈夫なのに気にしているの?」

 ユイは二人の顔を見て呆れたように言った。



 後ろでマックスが吹き出した。







 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 白衣を着た二人の男が並んで話している。

「わからないやつは分からないままでいい。」

 そう語る男は髪の毛がボサボサとしており、無精ひげが生えていた。フケが見当たらないから風呂には入っているようだが、外見に無頓着の様だ。



「そうかな・・・・俺は理解してもらいたいな。ギンジは頭が良すぎるから理解してもらえないのが当たり前なんだよ。」

 そう語る男はギンジと呼ばれた男とは対照的に髪を整え髭も剃っている。



「シンヤだって相当頭がいいだろ?じゃないとここにいない。」

 ギンジは淡々と呟いた。



「ここにいるから頭がいいってお前がそう思っているわけじゃないのか。当然だけどな。」

 シンヤと呼ばれた男は少し悔しそうな顔をしたが笑った。



「お前が取り掛かっているプログラム、悪くない。電波を発することのできる人間がいればだがな。」

 ギンジはシンヤを横目で見た。



「夢物語だな。俺にはこれが限界だ。」

 シンヤは首を傾げて両手を挙げた。



「俺が今やっている研究のやつ・・・・新しいネットワークができればどう思う?宇宙中に張り巡らせるものだ。もし、電波を発せれる人が居たらその人から発せられる電波は普通の人間が受信できるのだろうか?そんな存在があれば、プログラムは宇宙に広がる。」

 ギンジは考え込むときの癖なのか指を組み替えながら呟いた。



「いたとしても、それは偏るんじゃないか?発信できる人の都合のいい世界。そうなる。」

 シンヤは顔を顰めた。



「偏りとは、両脇に人がいるからそう思える。一点集中になった場合は偏りとは言わない。全員が同じ向きを見ることができれば偏りなどない。」

 ギンジは事実を述べるように淡々と言った。



「やだなそれ。お前は極端だな。俺は皆がわかってくれる世界がいい。偏りも含めて、他人の痛みを理解できる世界なら・・・・俺は他人に理解を求める。」

 シンヤはギンジに笑いかけた。



「理解などと口で言うのは簡単だ。本当の理解などない。俺もお前も何も理解していない。」



「偏屈だなあ・・・・変わらずだ。」

 シンヤは頑ななギンジに苦笑した。



「シンヤ。お前のこのアイディアと俺の研究でドールプログラムが完成する。・・・全ての人間の意識を管理するものになれる。シンヤ。」

 ギンジはシンヤの様子など関係なしに目を爛々と光らせていた。



「ギンジ。お前のこの研究は危うい。だが、お前の力が必要だ。宇宙での作業円滑にするために俺の能力では限界だ。」



「アスール財団が俺を受け入れてくれると思うか?」



「・・・・あの財団は子供に甘い。シングルファザーのお前なら受け入れてもらえる。お前がユイちゃんを置いて行くとは思えない。」

 シンヤの言葉にギンジは目の色を変えた。



「ユイを利用するような手段はとらない。」



「ユイちゃんのためだ。お前はいいだけ研究すればいいさ。俺がお前の危うさを止める。」

 シンヤはギンジを諭すように言った。



「甘ちゃん研究者が、大口叩くな。」

 ギンジはシンヤに不敵そうに笑った。



「お前の言う通り、俺はお前を理解していない。けど、俺はお前に一番近い研究者だ。」

 シンヤは胸を張って言った。



「調子に乗り過ぎだ。」

 ギンジは笑った。

 ――――――――――――――――――――――――――――――



 その戦艦の部屋から見えるのはドームの港の風景だった。輸送船が止まり、客船が出港の時を待つ。

 ちょうど二人の軍人が戦艦に向かって歩いてくる。

 椅子に座り、窓の外を眺めてカワカミ博士は口元を歪めた。



「私を止めると言った男が、私の描いた世界を実現しようとしている。」

 何かに手を伸ばした。



「シンヤ。お前が私を止めるどころか私に止められた。皮肉なものだと思わないか?・・・お前とはまだ話も終えていない。」

 カワカミ博士は伸ばした手で何かを掴むように空気を掻いた。



「後でゆっくり話そう。シンヤ。」











 ドールの格納庫で揺れに呻いていた。

 固定されている機械がずれることはなかったが、ガタガタと音がし、機体が安定しないためふわふわしていた。



「強行突破みたいだな。」

 マックスは口調とは裏腹に足はガタガタ震えていた。



 格納庫にはマックス、カカ、コウヤ、ユイ、レイラがいた。



「マックスさん。操舵室行っていいですよ。安定剤のレスリーさん補給して戻って来てください。」

 カカはマックスの様子を見て呆れて言った。



「え?」

 コウヤとユイはマックスとカカを見た。



「いや、俺はここで仕事をする。これからジューロク、シンタロウ・コウノとハンプス少佐のドール調整を手伝う。二人いた方がいいだろ。」

 マックスは足を震わせながらも強気で頑固な言い方をした。



「使えないようだったら操舵室に引きずってもらいますから。コウヤさんに。」

 カカはマックスの様子を見て笑って言った。



「え?」

 コウヤはマックスとカカを見た。



「そんなことさせない。俺はできる人間だからな。」

 マックスは自分に言い聞かせるように言った。徐々に足の震えは収まってきている。



「調整なら私も手伝う。こう見えても経験は多いのでな。」

 レイラはマックスとカカを見て頼もしそうに笑った。



「流石ヘッセ少尉。」

 マックスは皮肉を言うようにレイラを見て笑った。



「いや・・・あの、マックス。」

 コウヤがマックスに言いかけた時



「ちょっと待ったあああ!!レイラさんもユイさんもコウヤさんも、休んでください。ゼウス共和国まで早くても1日以上はかかりますよ。」

 リオが乱入するように入ってきた。どうやら寂しくなったようだ。



 レイラは黙ったが、しばらくすると頷いた。



「そうね。でも、怖い人たちにも言って。」



「怖い人って誰?」

 ユイは首を傾げていた。



「たくさんいるわね。」

 レイラはそう言うとユイとコウヤを引っ張って格納庫から出て行った。










「天」の港から、かつての時の様に戦艦が飛び出した。あの時は輸送船だったが、今回は戦艦だ。飛び出すにあたり、周りから待つようにとの声が上がった。



 急いで出たため、進みながら機体を安定させている。舵を取っているモーガンがヒーヒー言っていた。実際すごく揺れている。



「いいんですか?無許可ですよね。」

 リリーは宇宙に出てから出港の命令を出したレスリーを見た。



「ゼウス共和国まで何時間かかると思っている?時間が無くなる。」

 レスリーはいら立っていた。リリーにではないことは確かだ。



「何で待つように言われたんですか?本部だって時間がないことくらいわかって・・・」



「大方ネイトラルに絡まれたんだろう。」

 レスリーは舌打ちをした。



「それは申し訳ない。全く何のための集団だかわからなくなっている。」

 ディアは腕を組み、あからさまに嫌悪を示していた。



「自国のことをそんな風に行って大丈夫ですか?」

 イジーはディアの様子を探るように横目で見た。



「自国のことだからなおさらだ。」

 ディアは嘆くようなポーズを取った。



「アスールさんが悪いわけじゃない。そう嘆かないでくれ。・・・・それよりも」

 レスリーはイジーの方を見た。



「なんですか?艦長。」

 イジーは視線に気づきレスリーを見た。



「艦内放送をかける。休まない馬鹿どもを強制的に休ませる。」

 レスリーはチラリとディアを見た。



「馬鹿ども・・・・私もか。」

 ディアは笑った。



「わかりました。」

 イジーはレスリーの言葉に頷いた。

 艦内放送をするために機械を触る。



「なんて言いますか?」



「艦長命令だ。休めと言え。」

 イジーの問いにレスリーは即答した。



「わかりました。」

 イジーは答えるとすぐに艦内放送に行動を移した。



「連絡遅れて申し訳ないです。艦内にいらっしゃる戦闘員の皆さん。艦長命令です。休め。」

 イジーは淡々と言って、放送を切った。









 強行で出てきたためバランスを取るまで時間がかかったがフィーネは無事安定した。

 艦長、オペレーターを交代で一人ずつ以外強制的に休むように放送が入って艦内の人の気配は通常の住居スペースに集中していた。



 コウヤとシンタロウ、クロスとハクト、レイラとディア、ユイと今はイジー、キースとジューロク、時間を置いてモーガンとマックス、リオとカカがそれぞれ同室で休んでいた。

 休めと言われたが、コウヤはなかなか休めなかった。



『あれ』ってなんだろう。

 ラッシュ博士の様子もおかしかった。カワカミ博士と何か企んでいるのかもしれない。

 不安と疑問と疑惑で頭がいっぱいだった。



「・・・・休めよ。コウヤ」

 同室のシンタロウが、コウヤが休めないことを察知したようだ。



「ごめん。けど、気になって・・・・」

 コウヤは隣のベッドのシンタロウの方を見た。



「俺も気になることはたくさんある。俺ですらあるんだからコウヤはもっとあるだろうな。だけど、艦長命令だろ?休むって・・・・」

 シンタロウはコウヤの方を見た。



「そうだけど・・・・」



「この船のボスは艦長だ。余計なことを考えずに休むことだな。」

 シンタロウは淡々と言う。



「・・・でも、シンタロウも寝れていないよな。お前だって気になることがあってだろ?余計なことを考えないでいられていないじゃん!!」



「だって人間だもの。」

 シンタロウはシレっと言って自分にかけている布団の上で棺に入っている遺体の様に手を組んだ。



「うわー、人のこと言えないくせに何言っているんだ?」

 コウヤは布団をかけなおし、仰向けになった。



「自分ができることだけを人に諭していたら俺は何も言えなくなる。」

 シンタロウはため息をつきながら言った。



「最近シンタロウがすごい奴だと思っていたけど、そう言われるなんか大したことない気がする。」



「今更だな。俺なんて一回死にかけただけの奴だ。お前なんか二回も死にかけている。経験豊富だ。」

 シンタロウは目だけ動かしてコウヤを見た。



「その経験豊富さは欲しくないな。」

 コウヤは自分の経験を思い出し、少し寒気を覚えた。



「だいたい、できることを諭すなら俺はお前に戦えとも頑張れとも言えない。」

 シンタロウは自嘲的に言った。



「前言撤回だわ。やっぱりお前すごいわ。」

 コウヤはシンタロウに顔を向けて言った。



「意味わかんない。」

 シンタロウは眉を顰めてコウヤの方に顔を向けた。









 地球に一番近い惑星のある建造物では一人の少女が肩を抱いて笑っていた。



「コウヤ・・・早く来い。お前がいないとドールプログラムが動かない。完全に発動するためにお前が・・・・お前が必要だ。」

 少女の声で男のような口調だった。



「またナツエと暮らそう。そうだ、コウヤ。お前にはやはり母親が必要だ。私にはナツエが・・・」

 少女は目を細めて笑った。そして体をかがめて頭を抱えた。



「ギンジ・・・・お前が正しかったよ。私の描いたものは理想でしかなかった。」

 少女は唇を震わせて笑った。



「コウヤ・・・・・」

 少女は呻くような低い声でまた名前を叫んだ。

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