あやとり

近江由

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六本の糸~収束作戦編~

招き

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『コウヤ・・・・』

 夢の中である男が親友を呼んでいた。



 確かにあの人の声だった。意思を持って呼んでいた。

 ハクトは親友が呼ばれたことで眠りから完全に覚めた。



「何故・・・・コウが・・・・」



 ハクトは頭を抱えた。だいぶ集中力を使っていたようで、頭が完全に働かない。

 父親だから子供を呼んでもおかしくない。だが、今までのムラサメ博士の行動から考えると嫌な予感しかしない。

 幸い体を駆使していないため起き上がるのも立ち上がるのも余裕だ。

 部屋にあるもう一つのベッドを見た。そこに寝ていたはずの人物がいないことに舌打ちをした。



「あのバカ・・・・ったく」

 ハクトは伸びをして自分の着るべき軍服を取り出した。



 バタン

 ノックなしで扉が開いた。



 思わずハクトは股を抑えた。だが、きちんとパンツを履いている。強いて言うなら寝間着なだけで露出はしていない。

 開いた扉の先にいる人物を見てハクトは思わず口をぽかんと開けた。



「・・・・起きていたのか?」

 息切れをしながら彼女はハクトに言った。



「ああ、変な夢を見て・・・・」

 ハクトは気まずいと思いながらも彼女を見た。



「せっかく起こしに来たのに、もう少し空気を読んでくれてもいいだろ?」

 彼女は残念そうに言った。そして、開いていた扉をそっと閉めて部屋に入ってきた。



「空気を読むも何も・・・・言葉で言ってくれないと分からない。」

 ハクトは意地の悪い笑い方をした。



「嘘だ。お前もそんな笑い方ができたんだな。」

 彼女はハクトの笑い方を見て困ったような顔をした。



「ははは。そっちだってそんな顔ができたんだな。」

 ハクトは彼女の困った顔を見て新鮮な気持ちになった。



「私はいつもこんな感じだ。特に、お前が関わることはそうだ。」

「俺のことなのに俺の見ていない所で取り乱すのはやめて欲しい。」

 ハクトは照れくささから彼女から目を逸らした。



「ハクト?どういう意味だ?私は察するのが下手なものでな。」

 彼女は意地の悪い笑い方をした。



「その笑い方似合うぞ。ディア。」

 ハクトは困った顔をしたが思わず吹き出した。



「アホ・・・・」

 ディアはハクトに飛びついた。



「・・・・もう臭くないはず・・・・」

 ハクトはディアを抱き留めそっと自分の腕の匂いを嗅いだ。



「そんなの気にしていない。さっきは臭かったがな。」

「そうか。やっぱり臭かったか。」

 ハクトは声を出して笑った。



「キョウコさんとリュウトさん・・・・お前を心配していた。」



「そうか。二人にはいつも心配をかけているな。」



「みんなわかっているんだ。私たちが望む結末が難しいことを・・・・私たちは力を持ちすぎた。ユイもわかっている。」

 ディアはハクトの背に回す手に力を入れた。



「イタタタ・・・・それでも、俺は望む結末にする。力を持ちすぎたとかなんだよ。俺はこう見えても身勝手で自己中心的なんだ。」

 今度はハクトがディアを抱きしめる腕を強くした。



「苦しい・・・・」



「あ・・・悪い悪い。」

 ハクトは慌ててディアの肩を掴み身体から離した。



「レイラが我儘とか、クロスが身勝手とか言われているけど実際は違う。俺はクロスから言わせてみれば中間管理職みたいな奴らしいが、みんなが生きていて一緒にいられる結末が欲しい。これは譲れない。罪を背負ってもみんなで生きていく結末が欲しい。全て自分のためだ。」

 ハクトはディアを真っすぐ見た。



「優等生で大人しい奴と思われがちだが、お前は頑固で自己中心的なことをよくわかっている。もちろん優しい面があることもな。」



「ディア。俺は自分の望む結末が欲しい。絶対に死なないし作戦の成功に全力を尽くす。」

 ハクトは、今度は自らディアを抱きしめた。



「その言葉が聞きたかった。」

 ディアはハクトの言葉を聞いて満足したようだ。



『コウヤ・・・・』

 不意に響いた声にハクトとディアは体を強張らせた。



「「!?」」



 二人の顔に安らぎは無かった。



「ハクト・・・・今のは」



「さっきの声は夢でなかったんだ。ムラサメ博士は・・・・コウを呼んでいる。」

 ・・・だが、何故。

 呼ぶとしても研究ドームでは見逃したようなものだ。連れて行く気があれば連れて行けた。



 ハクトの頭の中に疑問が浮かんだ。



 ディアも同じようだ。

 ただ、言えることは



「出撃準備だ。」

 二人は目の色を変えて部屋から飛び出した。



「待て、ハクト!!お前寝巻!!」

 ディアは横で一緒に走るハクトに言った。











 

「父さん・・・・」

 コウヤは懐かしさと寒気に飛び起きた。どうやら眠っていたようだ。きちんと休めていたことで安心したが、冷や汗がすごい。なによりも、さっきの感覚は。



 横を見るとシンタロウはもうすでにいなかった。



 素早く服装を整えて廊下に飛び出した。

 とにかく出れるようにする必要がある。

 ドール格納庫に人が集まっていることを察知した。

 何となくわかるが、前線組で起きていないのはコウヤだけのようだった。



 シンタロウの裏切り者と内心思いながらコウヤもそこに向かって走り出した。



 なによりも、先ほどの感覚。父に呼ばれてる気がする。

 懐かしいが寒気のする、とても恐ろしい。

 色んな事があって父のことを改めて知った。それが本当かは分からないが、コウヤは彼の心でなく行動を知った。それは事実だ。

 未だ止まらない冷や汗を拭いながら格納庫に飛び込んだ。



 勢いよく開けるとレイラとユイがすでにいた。

「「!!!」」

 ユイとレイラは飛び上がった。



「・・・・コウ。」

 ユイはコウヤを見た。



 ユイとレイラは青い顔をしていた。



 二人の顔を見て父に呼ばれたのは夢でなく現実のことで、二人はそれを察知したのだということがわかった。



「夢でなかったんだな。父さんが俺を呼んでいる。」

 コウヤは口に出して確信したが、寂しく、辛く、悲しい気持ちになった。



「ムラサメ博士が動き出したんだな。」

 コウヤ達の表情を見て、マックスは表情を引き締め、格納庫の戸締りをチェックし始めた。



「皆さんは宇宙用スーツを着てください。あと、ニシハラ大尉を起こしに行ってください。」

 カカはコウヤ達に宇宙用スーツを渡した。



「たぶんディアがハクトの元に行っている。」

 レイラは冷やかすような口調だった。だが、その表情は引き締まっていた。



「ムラサメ博士動き出したか・・・・一刻も早くゼウス共和国までお前等を届けないと・・・・」

 マックスはコウヤ達をチラリと見た。



「マックス。父さんは・・・・俺を呼んでいた。おそらくゼウス共和国に呼ぶ必要があるんだ。俺を・・・・・」

 コウヤは胸のあたりに何かがつっかえて居る気がした。



『あれ』・・・・『あれ』ってなんだ?

 父さんが自分を呼んだのは『あれ』と関係しているのか・・・・?









 

 だいぶ休めたのかすっきりとした顔のモーガンとリリーが操舵室に入ってきた。



「休めたか?」

 レスリーはいたわるように二人に訊いた。



「はい。ばっちりです。」

 モーガンは親指を立てて言った。



「交代で、ルーカス中尉よりも休んでしまいました。」

 リリーは申し訳なさそうにイジーを見た。



「気にしないでください。私はまだまだ勉強することが多いので。」

 イジーは淡々と言っていたが、気にしていないのは本当のようだ。



 操舵室に一人の軍人が入ってきた。



 彼の登場に操舵室のメンツは固まった。

「そう固まるな。私は今一番の下っ端だ。」

 着替えたのかいつも着ていた佐官の軍服ではなく新入りの兵士が着る軍服だった。



「志願兵だからバトリーとでも呼んでくれ。」

 そう言って志願兵のクロス・バトリーは笑った。



「いや、無理ですよ。」

 モーガンは即答した。

「同感です。」

 イジーも強く頷いた。



「じゃあ、バトリー君。ドア閉めて。」

 リリーは臆せずにクロスに言った。



 モーガンとイジーはものすごい形相でリリーを見た。



「クロス。作戦は聞いたか?あと休んだか?」

 レスリーは艦長の席に座り足を組んでいた。



「もちろん。聞きましたよ。艦長。そういえば、ハンプス少佐とコウノ准尉も来ていますよ。」

 クロスはドアを閉めるのではなく逆に大きく開いた。

 クロスに招かれるようにキースとシンタロウが入ってきた。



 二人の姿を確認するとモーガンとリリー、イジーは目を輝かせた。



「ハンプス少佐!!シンタロウ!!」

 モーガンは飛び上がる勢いで二人に走り寄った。



「あれ・・・・?シンタロウ君。そういえばコウノ准尉って、それと制服変わっていない?」

 リリーは目ざとくシンタロウの軍服が変わったことに気付いた。



「ああ、本部に行ったときに、前線に出るから准尉にしてやると言われてこれを貰った。」

 複雑そうな表情をしていた。



 モーガンは目を見開いてシンタロウを見た後に、頬を膨らませた。



 ガタッ

「!?」

 急にクロスがモニターに駆け寄った。



「どうした?」

 レスリーはクロスの様子に驚いて立ち上がった。



 しばらくしてシンタロウとモーガンが顔を顰めた。

「クロス。これが洗脳電波の気配か・・・?」



 シンタロウは冷や汗をかいていた。

「気持ち悪い・・・・」

 モーガンは口元を震わせて歪めていた。



「レスリーすぐに本部に増援を防衛ラインに追加するように言え。向こうから仕掛けてきた。」

 クロスは余裕のない口調だった。



 レスリーは頷き、リリーとイジーに視線を送った。二人は急いで本部に通信を繋ぎ始めた。

「繋がりました。通信可能です。」

 イジーが手を挙げて言うとレスリーは立ち上がり通信のマイクの元に歩きだした。

「ムラサメ博士が仕掛けてきた。防衛ラインは保てているか?」

 レスリーは声を荒げ本部に言い始めた。一瞬顔を顰めた様子から、どうやら指示を待たずに出たことを咎められたようだ。



 あまり本部の反応が思わしくない。レスリーは舌打ちをした。



「私だ。ゼウス共和国側から攻撃の気配がある。待つ必要はない。お前らは防衛ラインに部隊を出せ。」

 クロスがレスリーと通信を変わり、命令口調で言った。クロスに替わった途端に向こうの声色は変わった。



「俺とシンタロウは自分のドールの調節と準備に入る。切りの良いところでクロスも来い。」

 キースは通信をしているクロスを見て言った。どうやらしばらくはクロスが本部と通信を取った方が効率がいいようだ。



「わかりました。ハンプス少佐。」

 クロスは頷くと再び通信をとり、荒い口調で話し始めた。



 キースとシンタロウは操舵室から飛び出した。

 その二人と入れ替わるようにハクトが入ってきた。



「ニシハラ大尉!!」

 リリーは嬉しそうな声を上げた。



「操舵の指示は俺がする。モーガンは操舵に集中しろ。」

 ハクトは慣れた様子でモーガンに言った。当然だ。ハクトは最近までこの戦艦の艦長をしていた。



「このまま直進してゼウス共和国に向かう。」

 ハクトは艦長の席に腕をかけて言った。



「替わるか?ニシハラ大尉?」

 レスリーは席から立ち上がりモーガンの傍についた。



「いや、ここはお前の席だ。俺は手伝っているだけだ。」

 ハクトは艦長の席に座ることを断った。



「それはどうも・・・・モーガン。操舵は俺がやろう。よく見ておけ。」

 レスリーはモーガンから舵を取り、操作し始めた。



「クロス。俺にも通信を取らせろ。防衛ラインに出ている戦艦に指示をする。」

 ハクトは本部と連絡を取っているクロスを見た。



「操舵室全体で繋げる。他の操作はお前がそこでやれ。余裕だろ。」

 クロスはハクトを横目で見てすぐに通信機械を操作し出した。



「よく見ておけ。モーガン。」

 レスリーは横にいるモーガンに言った。







 




 フィーネのある一室に機械が置かれていた。その機会は四角く人ひとり分を収容できる箱程度の大きさだが、威圧感がすさまじい。

 その機械に端末を繋げてラッシュ博士はため息をついた。



「どうしました?キャメロン。不具合でも?」

 ラッシュ博士の様子を見てカワカミ博士が不思議そうな顔した。

「不具合は無いはずです。もしかして分からない所でもありました?」

 カワカミ博士は困ったような顔をした。



「違うわ。・・・・・これを調整して改めて知ったのよ。私はあの人を理解することができないって・・・・」



「ああ、シンヤですか。当然ですよ。他人を本当に理解するなんて無理なんです。あなたに限ったものではないです。もちろんシンヤも私たちを理解することなんてできない。お互い様です。」

 カワカミ博士は口元に笑みを浮かべていた。



「貴方らしい考えね。」



「シンヤは他人と理解し合うこと、わかり合うことを求めていました。そんな彼が憎しみと悲しみから、他人を頭から押さえつけるような手段に走ったのは皮肉ですね。」

 カワカミ博士は機械を操作していた手を止めた。



「皮肉・・・・私の考えが正しければ、今ムラサメ博士のやっているプランを立てたのはあなたじゃないの?」



「そうですね。気が付いたらシンヤと私は入れ替わっていた。立場と考えが・・・・」

 カワカミ博士は楽しそうにしていた。ラッシュ博士はカワカミ博士の様子を羨ましそうに見ていた。



「・・・貴方言っていること矛盾しているわ。理解に対しての考え方が彼と入れ替わったにしては他人に対して理解を求めていない。それとは別ってやつ?」

 ラッシュ博士は作業をしながらカワカミ博士を見た。



「理解を超えるものを知っているからですよ。」

 カワカミ博士は作業を再開した。



「それでこれね・・・貴方にしては脳みそ筋肉みたいな考えよね。頭のいい学者とは思えない。」

 ラッシュ博士は愉快そうだった。



「違いますよ。人間ほとんどが、頭がよくないのでそれに合わせているだけです。」

 カワカミ博士は冷淡に言った。



「・・・・傲慢ね。」

 ラッシュ博士は目を伏せた。



「そういえば、そろそろゼウス共和国から洗脳電波の発信でもありそうですね。シンヤも馬鹿じゃない。防衛ラインに置いた戦艦では防げないものを発信するでしょうね。」

 カワカミ博士は他人事のように言った。



「フィーネが被害を受けることは?」



「ないですよ。シンヤはコウヤ様を早くゼウス共和国に呼びたいはずです。だから洗脳電波を他の皆さま向けに発しているだけです。前線が一番安全ですね。」

 カワカミ博士は愉快そうに笑った。



「貴方に協力してくれたレインモンドさんはどうするの?」



「彼は分かってくれます。分かってくれました。」

 カワカミ博士はラッシュ博士の質問に笑顔で答えた。



「わかる・・・・?彼はいずれ地連のトップになる気満々の男よ。」



「違いますよ。彼は行動と立場が違えど、シンヤと同じです。トップになる気も毛頭もない男です。怒りと憎しみに流されながらも大切な存在の名残だけを守って生きていた男です。人間的で動物的な男です。」

 カワカミ博士の回答にラッシュ博士は眉を顰めた。



「意味が分からないわ。彼の立場を考えたことがあるの?総統の兄よ。大将に上り詰めるまでに彼は軍人らしく汚く生きていた。」



「彼の生きてきた道は知っていますよ。それで彼はもう、投げやりなんですよ。」














「洗脳電波、防衛ラインで抑えきれなさそうだ。」

 格納庫にジューロクが飛び込んできた。



「それ本当か!?」

 レイラとマックスは飛び込んできたジューロクに視線を集中させた。



「ああ、おそらくレイラさんとコウヤは分かると思うが、今まで飛ばしてきた電波とは違う。向こうも賢くなっている。防衛ラインに置いている戦艦の通信能力を書き換える仕様だ。すぐにクロス・バトリーとニシハラ大尉から連絡が来ると思う。」

 ジューロクは切羽詰まった様子だった。実際に彼の言っていることが本当なら状況は良くない。



「何故わかるのか疑問だが、それどころではないな。フィーネはかなりゼウス共和国に近付いている。ライン上で他の戦艦とともに処置にあたることができない。根っこから抑えるか、防衛ラインより遥か手前で抑えるか・・・・」

 格納庫にディアが入ってきた。



「ディア!!ハクトは?」

 コウヤは入ってきた頼もしい仲間を見て笑顔になった。



「ハクトは操舵室にいる。出ている戦艦の指示にあたる。クロスも本部と連絡を取るために操舵室にいる。」

 ディアはコウヤに答えると探るようにジューロクを見た。



 ディアに続いてキースとシンタロウが入ってきた。



「お前等がこの前やったように誰か出て電波を受けることはできるか?」

 マックスはコウヤとディア、レイラを順に見て言った。



「待て、コウヤ達を出すわけにはいかない。・・・・この戦艦が無事ならそれでいい。本部には甘んじて洗脳でも受けてもらおう。」

 シンタロウはマックスの視線を阻むように手を差し出し、その手をその上げた。



「は・・・・?」

 マックスはシンタロウを信じられないという目で見た。



「どうせ元を止めれば治る。ここでフィーネが消耗すると元を止めることすらできない。」

 マックスの言葉を気にする様子もなくシンタロウは当然のことのように言った。



「シンタロウ!!本気か?」

 コウヤもマックスと同じようにシンタロウを見ていた。



「本部にできるだけ処置を頼んだうえでそれがいいと思う。私もシンタロウに賛成だ。」

 ディアはゆっくりと頷いた。



「それに、俺らもどうせすぐ出るんだろ?ゼウス共和国は近い。」

 シンタロウはコウヤを見た。



「私も賛成だ。下手に消耗してしまうのは良くない。」

 レイラも頷いた。



「でも、俺たちにできることは・・・・」

 コウヤは辺りを見渡した。



「私もシンタロウに賛成。・・・・ここで誰かが消耗してゼウス共和国に行けなくなるのはダメ。」

 ユイも頷いた。



「本部が洗脳されたら俺たちはどうするんだ?ついてきている補助部隊も敵に回ることは・・・」

 マックスもコウヤと同様に納得できていないようだ。



「発信地点を叩けば止まる。補助部隊は俺が止める。」

 シンタロウはコウヤとマックスを見た。



「そうだ。コウヤ。そのために俺らがいる。」

 キースも頷きコウヤを諭すように言った。



「コウ。私たちが欠けたら・・・・その時本当に終わるんだよ。助けたいと思うのはわかる。」

 ユイは納得しきれていないコウヤを見た。

「わかっているけど・・・・洗脳されて「天」が大変なことになったら・・・」

「そのために出来る限り地球に降ろした。」

 ディアはコウヤに冷たく言い放った。







「・・・・わかった。俺が出よう。」

 コウヤの様子を見てジューロクが言った。

 全員がジューロクに注目する。



「え・・・?」



「あっち側に行く前に電波を受信するドールがあればいい。今ならまだ間に合う。」

 ジューロクは宇宙用スーツを取り、着始めた。



「待て!!受信するといっても、私たちのような特別か、できるかわからないが、適合率が高い者・・・・」



「そして、機械を埋め込まれている奴・・・・だろ?」

 レイラの叫びの途中でジューロクは自身の頭を指差し言った。



「機械は無効化されたんじゃ・・・」



「昔々の機械って・・・叩いたら治ったりしたらしいぜ。」

 ジューロクは自身の頭を叩き言った。



「・・・・待て。私たちも出る。ゼウス共和国は近い。フィーネを戦闘態勢にし、近くの補助部隊を退かせる。」

 レイラは通信を繋げた。



「レイラさん。俺に気を遣うな。」



「気なんか遣っていない。私は早めに作戦を開始した方がいいということだ。ムラサメ博士の動きが早い以上、補助部隊を早く退かせる必要がある。」

 レイラはジューロクを睨んだ。おそらくジューロクのことを気にして早く動くと言ったようだ。



『どうした?こちら操舵室だ。』

 ハクトが少し慌てたような口調で通信に出た。



「お前、察知しているよな。洗脳電波が発せられつつある。抑えきれないこと。」

 レイラの言葉にハクトは少し黙った。どうやら察知しているようだ。



「こちらから対策はできない。防衛ラインでとどまってもらうのが一番だ。」

 ディアはハクトをフォローするように言った。それはそうだ。ここにいるコウヤ以外はそれで納得している。



『ゼウス共和国になるべく早く近づく。あと数分で俺とクロスも準備に・・・・』



「ニシハラ大尉。補助部隊は退かせましたか?」

 シンタロウが口をレイラとハクトの間に割り込む方に言った。



『もちろんだ。敵になる可能性が・・・・』



「ドール部隊だけ戻してください。」

 シンタロウははっきりと言った。



「おい、シンタロウ。そこまでするのか?」

 キースが慌てて止めるように言った。



『・・・・ふっ・・・・ハクト。シンタロウ君もそう言っている。私の言う通りにしてはどうだ?』

 ハクトの後ろからクロスの声が聞こえた。



『・・・・わかった。』

 ハクトは舌打ちをして頷いた。



「ニシハラ大尉。ジョウさんが出て電波を受けると言っている。それに対して追加案だが、俺とシンタロウも出る。こう見えてシンタロウは宇宙に不慣れだ。慣れる必要と、辺りを把握する必要がある。」

 キースはハクトとクロスの様子に関係なく続けた。



『出るだと?電波を受けるとは・・・・』



「詳しいこと考えるな。そして、フィーネのドール部隊の隊長は俺だよ。ニシハラ大尉。クロス君もな。」

 キースは気安さを滲ませながらも有無を言わせない様子だった。



『慣れさせるのはいいが、お前等無理をするつもりか?ジョウさんもシンタロウもハンプス少佐もあまり・・・・』



「ニシハラ大尉。俺は誰も死なせるつもりはない。隊員であるお前らは自分のことを考えるんだ。他の奴の命を考えるのは俺の役目。」

 キースはハクトの発言を切るように断言した。



「ニシハラ大尉。補助部隊の件連絡お願いします。」

 シンタロウはそれだけ言うと、通信機器から離れ周りに目を配ることなく宇宙用スーツを手に取った。



「頼もしい味方だ・・・・コウ。私たちも準備に入るぞ。」

 ディアはコウヤの肩を叩いた。



「三人とも無理をしないでください。」

 コウヤは自分が我儘を言って早く出ることになったと思い、少し肩を縮めるように謝った。



「早く動くきっかけになった。気にすんな。」

 キースはコウヤの肩を少し強すぎるくらい叩いた。



「自分のことだけ考えろ。コウヤ。」

 シンタロウは少しコウヤを責めるように見ていた。コウヤは、今更本部を守らない方法でも構わないとは言えなかった。



「さて・・・・マックス。三人のドールを優先して出せるようにして。私たちもスーツ着るわよ。」

 レイラはコウヤと同様に気まずそうにしているマックスの背中を叩くとコウヤとディアとユイに宇宙用スーツを投げつけた。



「なあ、何で補助部隊をドールだけ戻すんだ?」

 コウヤは宇宙用スーツを着ているシンタロウに訊いた。

 シンタロウは肩をすくめて自分のドールに向かって行った。



 ゴン

「痛い!!」

 シンタロウの背中を見るコウヤの頭をユイが叩いた。



「コウヤ。情けない話だが、俺は隊長であるが、お前等と別行動をしないといけない。」

 キースは痛みに悶絶するコウヤを見下ろしていた。その目は寂しげだった。



 キースの言葉にディア、レイラ、ユイも注目した。

「隊長は名だけだが、代理の隊長を誰かにお願いすることはできる。正直、全員能力は申し分が無いんだ。コウヤとユイちゃん以外は隊を率いたことがあるやつばかりだ。まあ、それは置いておいて・・・・お前が隊長だ。コウヤ。」

 キースはコウヤに目線を合わせて少しかがんだ。



「は・・・・?」



「だって、お前が異を唱えると他の奴は従ってしまう。これはプログラムの適性上仕方ないことらしいからな。それなら最初からお前が隊長代理だ。」

 コウヤは周りを見渡した。レイラもディアも頷いていた。それよりもプログラムの適性上従ってしまうというのはそんなこと聞いた気がしたが、本当だとは思わなかった。



「コウヤ。お前は全員が生きて帰ってくることを命令する。それが大前提で動け。」

 キースは戸惑うコウヤに笑いかけた。



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