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六本の糸~収束作戦編~
宙に消える
しおりを挟む宙だと思う。コウヤは辺りを見渡した。
見えているのはどこまでも黒くて暗い宙だった。
いくつも黒い影が瞬き消えていく。
『・・・・ふざけんなよ。』
涙交じりの呟きが聞こえた。
コウヤは後ろを振り返った。そこはコックピットだった。
宇宙用のドールスーツに身を包んだコウヤより少し年上の青年が肩を震わせていた。
彼に見覚えがあった。コウヤと会うよりずっと前の・・・・
「・・・・キースさん。」
『・・・・戻ってきます。俺は・・・・必ず』
キースは息を切らしながら泣き叫んでいた。
ああ、こんなに強い決心をしていたんだったら
止められるはずないよな。
コウヤはキースに手を伸ばした。
だが、その手はすり抜けて何も触れられなかった。
彼に手を引かれて乗った戦艦が視界に浮かんだ。
沢山の思いがあった。出会いもそして
戦艦フィーネは煙を上げながら宇宙に散っていく。
散っていく欠片はゴミや塵のはずなのに一つ一つが輝いて見えた。
キースには見えていないようだ。そもそもキースとフィーネがかみ合っていなかった。時間の違う幻覚か、何かなのだろう。
「ありがとうございます。・・・・ありがとうございました。」
コウヤは反応を示さないキースにひたすら頭を下げた。
先ほどまで目の前に広がっていた宙は消え、見覚えのあるコックピットだ。
「・・・ああ!!」
コウヤは思いだしたように叫んだ。
「あ・・・戻っている。」
自分の手を目の前にかざし動くことを確認する。
『コウ!!お前戻って・・・・』
ハクトはコウヤが目を覚めたことを察知して、たぶん泣いている。
『コウ!!動けるか!?加勢してくれ。』
ハクトとは違い、クロスは戦力として動くことを求めていた。だが、それは彼の強がりであることが分かった。たぶん泣いている。
『コウ!!無理はするな。クロスは人使いが荒いから。』
ディアはあからさまにクロスを非難したが、強がりを言ったクロスを冷やかしているのだ。
『コウ!!何があったのか後で話しなさいよ。』
レイラは何があったのか心配だったようだ。
『コウ。お帰り。』
ユイはおそらく笑顔であろう。
「ただいま・・・って・・・ぶない」
クロスが中心となり戦っていた。戦況は圧倒的に有利なようだが、数に圧倒的な差があるうえにコウヤを守りながら戦っていた。
『コウ。動けるなら移動しよう。研究ドームに行く。ついでに・・・・戦艦全て無力化する。』
クロスはコウヤの様子を窺っていた。どうやら強気な発言をしつつも心配しているようだ。
『俺とクロスで十分だ。ディアたちは援護をたの・・・・』
『なめるな。私もレイラもユイも力あるものだ。』
『そうよ。・・・いや。そうだ。ニシハラ大尉。私は・・・・ゼウス共和国のエースだ。そのプライドは変わらない。』
『そーだ。私も秘密兵器だよ。小さいころ何度かハクトのことを泣かせたことだってあるんだから!!』
『それは私もだ。』
『あ、私もある。』
ユイの跡にディア、レイラと続いた。
『だまれ。』
ハクトは流れを断ち切るように言った。
『さ・・て、じゃあコウは自分を援護してくれ。僕たちは・・・・ボウフラみたく湧いてくるネイトラルを無力化するから。』
クロスは嫌悪を明らかにしてた。
「自分で自分を援護って・・・・」
コウヤは急いでドールの操作が正常にできるか確認した。
そのわずかな時間でハクト、クロス、ディア、レイラ、ユイは戦艦の群れに飛び出した。
どうやらコウヤが現実から離れている間に標的が完全にこっちに向いていた様だ。
自身の速さを利用しすれ違い様に動きを封じるクロス、場所の取り方を曖昧にし自滅を誘う戦い方をするハクト。カメラを潰し視界を奪うことを優先するディア、攻撃の回数は少ないが保守的に堅実に動くレイラ、体当たりで攻撃し力技で押さえつけるユイ。
「・・・・確かに、援護はいらないな・・・・」
目の前で戦う親友は想像通りの予想外の強さだった。
自分にできることはもうないだろう。
キースに権限を渡してしまったのだ。プログラム内でも力は強くないだろう。
いや・・・自分が渡したのは、あそこのプログラムの権限だった。
そして、なによりも遠隔操作をするときに感じる糸のようなものがふと身近に感じた。
動くドールと戦艦に共通して感じる。これらはドールプログラムがある。
空間の把握や感情の察知は含まれないが、糸の把握ができる。
「・・・・みんな。やっぱり援護する。・・・いや、みんな。俺に任せろ。」
コウヤはこめかみに血管が浮き出るほど頭に力を入れ集中した。
戦っていた敵の戦艦とドールがぴたりと動きを止めた。
ドールはそれこそ操り人形のように全部が同じ向きを見た。戦艦は方向転換をはじめ、砲撃は止まった。
コウヤの頭の中には絶え間なく操る戦艦たちの情報が流れ込み、気が狂いそうだった。
だが、狂わない。歯を食いしばり、彼らを向ける目的地を見た。
『・・・・コウ。お前。』
「全て、「翼」に向ける。」
コウヤは月のドームの一つである「翼」に敵の戦艦とドールを全て向けた。
その戦艦はフィーネを砲撃していたものも、避難船を脅かしていたものも例外ではなかった。
「見て!!戦艦がみんな引いていく・・・・」
リリーは窓から見える光景に嬉しさをにじませた。
「交渉が成功したのか・・・?」
リオは目を輝かせていた。
「アスールさんが重い腰を上げたのか・・・・?いや、それにしても動き方が気持ち悪い。」
カカは動きを茶化すように笑った。
確かに動きが決まっているようで気持ち悪かった。
「アスールさん・・・?もしかしてディアさんのお父さん?」
モーガンは避難船の操舵をしながらカカを見た。
方向を大きく揺らしたため船は大きく揺れた。
「うわ!!ちょっと!!モーガン!!!」
リリーはモーガンを非難する声を上げた。
「ごめん。」
「ナイト・アスールさんですか・・・・表に出てくるということはよっぽどレイモンド大将が圧力をかけたんでしょうね。」
イジーは知っている人の用でその人物を思い浮かべていた。
『モーガン。避難船を研究用ドームに向けてくれ。あと、俺とこのドールがしがみ付かせてもらう。』
シンタロウはもう援護の体勢から変わるつもりでいるようだ。その通信を聞いて避難船の中は更に安堵に包まれた。
宇宙を映すモニターには、操られるように方向を変えていく戦艦たちが映っていた。その様は個々が意志を捻じ曲げられたように強制的なことと同時に抗えないのだろうというもの感じた。
「とんでもないことが起こっている。これ、止められたのかしら?」
ラッシュ博士は血で汚れたゴム手袋を外しながら横たわるカワカミ博士に訊いた。
「洗脳ではなく純粋な遠隔操作でしょう。止められたかは別として・・・・・コウヤ様です。」
カワカミ博士は痛みに顔を歪めながら笑った。
「コウヤ・・・あの子がね。クロス君とかハクト君じゃないの?あの二人が協力して・・・」
「何があったのかわかりませんが・・・・ドールプログラムを作動させたのがコウヤ様である以上、ドールプログラムはコウヤ様に合わせてきたのでしょう。適性が桁違いです。そして、彼はプログラム権限の頂点に立ちます。」
カワカミ博士は嬉しそうであった。
「何が嬉しいのかしら?あの人を止められたから?予想通りの展開に近いからかしら?それとも命があることにたいして?」
ラッシュ博士はカワカミ博士の笑顔を見て考えた。
「予想外だったからです。・・・・ドールプログラムは私の思っていた以上に成長した。」
カワカミ博士は口元を少し歪めさせて笑った。
「・・・・そう。命があって喜びなさいよ。」
ラッシュ博士は外したゴム手袋を床に叩きつけてカワカミ博士を横目で見て部屋から出た。
ラッシュ博士が出て行ってもカワカミ博士は変わらず笑っていた。
「・・・・・ああ、これはもう抑えられるものではない。」
何かを押し殺すようにカワカミ博士は呟いた。
「天」の軍本部のある一室、いわゆる作戦本部だ。
そこで通信機器をレイモンドが独占していた。
「どのような情報を得て行動を起こしたのかはこの際いい。・・・・ナイト・アスールさん。お互いドールプログラムに操られていたのでは?」
『はは・・・・何が言いたいのですか?ウィンクラー大将。』
ナイト・アスールは軽快に笑いながらも警戒を怠っていない声色だった。
「地球の施設の攻撃はまだ実行されていない。そちらは作戦妨害した。まあ、これは事実だが、それを踏まえて・・・・宇宙のネイトラルに勝ち目はない。」
『ドールプログラムの厄介さはよくわかっている。なにせ、私の認めた研究者が作り上げたものだ。』
声に自嘲があった。
「特別6人は無事帰還。戦闘に参加できる状態になった。ネイトラルに勝ち目はない。モニターを見ていただくとよくわかると思う。お互い・・・・ここで手を打たないか?」
『・・・・・そうだな。』
「世界を支配する目論見か?」
『そんなこと考えていない。純粋に危険性だけを考えた。それはあなたでは・・・・?』
ナイト・アスールは笑いながら言った。
「生憎私はそんな器ではない。」
『謙遜を・・・・弟君よりもふさわしい。』
「・・・・・半端にドールプログラムを知っていたからこんな強硬な手段に出たのか。あなたの娘もいるのに」
『ディアか。私はネイトラルを造った者として国の安全を最優先に考える必要がある。それに、実質絶縁状態にされた。彼女はもうおたくのニシハラ大尉の元に行く気満々だ。我が娘ながら実にいい男を選んだ。』
ナイト・アスールは感心していた。
『そうだ。いっそニシハラ大尉をこちらにくれないか?お互い幸せだろう。』
「武力の均衡のためか?・・・・こんな時まで抜かりないな。だが、それは後の話だ。」
レイモンドは指を組んだ。
「止めれば、宇宙の戦力は失わずに済む。意地を張るのはよくない。ナイト・アスール」
レイモンドは口元に笑みを浮かべていた。
「・・・・何で俺、生きているんだろう。」
ジョウは引いていく軍勢を見て呟いた。
『知るか・・・・それは俺のセリフだ。』
帰ってくる言葉は辛らつだが少し嬉しさがあった。
『これどうやって操舵するんですか!!レスリーさん!!ちょっとよそ見をしないでください。』
レスリーの後ろでマックスが叫んでいる。
「おたくの同乗者うるさいな。」
『しかも手がかかる。』
『ちょっとレスリーさん!!俺が年上ですからね。ほら、兄弟ごっこみたいでもいいじゃないですか!!』
騒がしい様子にジョウは笑った。
『ジョウさん。避難船にくっついていてください。研究用ドームに向かいます。』
レスリーはため息をつきながら言った。避難船の操舵が安定した様子から、どうやらマックスと代わったようだ。
『わかりました。』
『お前はこれに乗っているからいいんだよ。』
「楽しく騒ぐのもいいが、少し寄ってほしいところがある。・・・・・ったく俺たちは一人のカッコつけのせいで死に損ないになったんだ。」
ジョウは繋がらない通信の様子を見て悲しそうに笑った。
『・・・・・わかった。』
レスリーは何かを察したように息を呑んで言った。
避難船は一体の黒いドールを引き連れて進み始めた。
『待て、マックス。お前が兄でいる気なのか?』
先ほどまでこちらに砲台を向けていた戦艦はほとんど臨戦態勢でなくなっていた。
そもそも方向転換をさせられてから戦闘状態でなくなっていた。
『レイモンドさんが話を付けてくれたようだ。もちろん、お前の化け物技も忘れちゃいない。』
クロスは安心したようだ。
『そうだな。』
ハクトは気が抜けたような声だった。
『これで、終わったんだな。』
ディアは嬉しそうだが寂しそうに呟いた。
『まだ・・・・でしょ?私たちは終わりじゃない。』
レイラはディアを叱咤するように言った。
『そうだよ。レイラにしてはまともなこと言った!!』
ユイがレイラに同意した。が、レイラがキーと騒いだ。
改めてコウヤはこみ上げてくる嬉しさに思わず頬をゆるんだ。
だが、それも消えた。
視界にドールの残骸が見えたのだ。
動く気配のないドールを見てコウヤは歯を食いしばった。
コウヤの感情の動きを察知してみんな黙った。
「・・・・戻ろう。みんな。」
コウヤは前を見た。
「俺たちは、生きていくんだ。」
研究用ドームへの行く道は閉ざされていた。
「天」からの電車も動かず、港は頑なに開かなかった。
ドームの中はこれ以上入れるわけにはいかないのかもしれない。
数台の避難船と数体のドールが入ってからだ。
避難船はそれぞれ一体ずつドールを引き連れていた。
滑り込むように2隻の避難船は港に着いた。
普通ならここで港の扉を閉めてしまうのだが、更に数体のドールが滑り込むように入ってきた。色とりどりで目に眩しい。
メンツがそろったのか、ドームの港は宇宙空間から閉ざされた。
重厚な音が響く。完全に遮断されたことを告げる。
1隻の避難船から数人の男女が宇宙用スーツを着て出てきた。
モーガン、リリー、イジー、カカ、リオだ。
それを確認して動き出すように、避難船にくっついていたやたらボロボロなドールから人が降りてきた。どこか悪いのか少しふらついている。
避難船に乗っていたメンツは彼を取り囲んだ。
「シンタロー!!!」
「うわーん!!」
「シンタローさん!!」
「怖い人と思っててごめんなさい!!」
「このバカー」
口々に言われる言葉にシンタロウは思わず涙ぐんだ。
「・・・・お前たち・・・・リオさんもカカさん俺のこと怖いって思っていたんですか。」
「うわーん!!」
カカはシンタロウの一番傍にいたイジーを押しのけ飛びついた。
「あ!!空気読め!!」
と叫ぶモーガンもカカに続いた。そしてリオ、リリー、イジーとシンタロウを圧死させるのではないかという勢いで飛びついた。
「ぐほっ・・・・ちょっと・・・俺、肺の怪我・・おい。」
シンタロウは血を吐きながらげんなりとしていた。
もう1隻の避難船が開いた。
「え・・・・生きて・・・・」
シンタロウを見てゾンビを見るようにマックスは目を丸くした。
「勝手に殺すな・・・・」
シンタロウは顔を青くしたままマックスを睨んだ。
「お前・・・・生きていたんだな。よかった。」
マックスの後ろからレスリーが出てきた。
「レスリーさん。いや、先生。お互いそうですね。」
シンタロウはレスリーに笑いかけた。
ガタン
もう1隻にくっついていたドールが抱えていた荷物を下ろした音だ。何を抱えていたのかは分からないが、危険物ではないようだ。
その音を聞いてレスリーは顔を顰めた。
荷物を下ろしたドールからはジョウが降りてきた。そして下ろした荷物に近付きそれをそっと撫でた。
それを横目で見ていたレスリーもジョウの元に近付いた。
「ジョウさんも・・・・あとは他の人たちだけね。」
リリーはジョウの姿を確認すると微笑んだ。
マックスとシンタロウは暗い顔をした。
6体の色とりどりのドールからも人が降りてきた。
緑、青、紫と黄色、赤、水色と別れていた。
3人3人それぞれ降りてきた。
6人もレスリーとジョウと同じように下ろされた荷物に近付いた。
下ろされた荷物に近付くコウヤに気付きレスリーは頭を下げた。
「回収は全てできなかった。」
レスリーは悔やむように荷物を見つめた。
「いえ・・・・たぶん彼は宙に漂いたかったと思います。」
コウヤは起きる前に見た幻を思い出した。
「だって、あんなに戻りたがっていたんですから。キースさんにとって宙は特別だったんですね。」
コウヤは荷物をそっと触った。
コウヤ達の様子を見てリリーとモーガンたちは顔色を変えた。
「え・・・その瓦礫・・・・ってまさかドールの残骸・・・・」
リリーは真っ青だった。
「・・・いないのって・・・・嘘だ。」
モーガンは口を震わせていた。
「・・・・あの人のやりたかったことだ。」
シンタロウはモーガンの肩を叩いた。慰めなのだろう。
「尊敬してました・・・・けど、それは俺の勘違いだった。」
ハクトは悔しそうに呟いた。
「ハクト・・・・?」
コウヤは声を震わせるハクトを見た。
「・・・・こんな方法を使うなんて・・・・無責任すぎる。尊敬できる人じゃない。」
ハクトは責めるように荷物を見た。
「でも、僕はあなたのこと好きでした。」
クロスがハクトの肩を叩いた。
「俺もそうだ。」
ハクトはクロスに頷いた。
「・・・・最期にあんなこと言うなんて・・・・反則だ。」
クロスは口角を吊り上げていたが、歯を食いしばっていた。
「・・・・複雑な人だと思っていた。けど、単純な人だったんですね。やっとわかった気がする。あなたにとったら私の方が単純でしょうけど。」
ディアは皮肉のように、挑むように荷物に言った。
「ありがとう。私はこれしか言えないわ。」
レイラは頭を下げた。
「私も・・・・・」
ユイはコウヤの横に立った。
「俺もハクトと同じです。尊敬して・・・憧れていた。いつかあなたのようになりたいと・・・・でも、あなたは嘘つきだ。俺を騙して・・・・権限を取って、追い出して・・・・もう、あの時は・・・・死んでいたくせに。」
コウヤはキースが父と自分の間に入った時にすでに死んでいたことがわかった。父と母は気付いていたのだろう。
「いいだけ宇宙を漂えばいいですよ。そして・・・・見ていてくださいよ。」
コウヤは幻にしたように頭を下げた。
「ありがとうございました。」
そのままその場に崩れ落ちた。
崩れ落ちるコウヤを支えるようにユイが肩を抱いた。
作戦が終わったことにより安堵からか、コウヤの目から涙が流れた。
それはコウヤだけでなかった。
モーガンは大声を上げて泣いている。リリーもモーガンに縋りついて泣いていた。
イジーは堪えるような顔をしていたが涙は止められない。
シンタロウとレスリーとジョウはキースの本心を知っていたのだろう。哀しそうな顔をしていたが、取り乱してはいなかった。
ザーザー
どのドールかわからないが、機械音が響く。通信が繋がるときのような・・・
研究施設内部にはライアン・ウィンクラー総統とアリア、そしてラッシュ博士がいた。
「その様子を見ると・・・・成功させたようね。」
ラッシュ博士はコウヤ達の顔を見ると安心したように言った。
ラッシュ博士の横にいたアリアはコウヤを見て笑顔で手を振った。
コウヤは一瞬目を逸らしたが横にユイにとてつもない力で腰をつねられた。
「・・・えっと・・・ここにいったん集まったのには・・・・これからのことで話をするためだよね。クロス。」
コウヤは何か誤魔化すようにクロスを見た。
「くそだな。」
シンタロウはコウヤを見て憐れむように言った。
そして、アリアに近付いた。
「久しぶり。アリア。生きていた。」
単純な報告をするようにシンタロウはアリアに言った。その口調は少し他人行儀であった。
「私も。久しぶり。」
アリアは笑いかけてイジーをチラリと見た。
「・・・・いい子ね。羨ましい。」
アリアは冷やかすように言った。
「まあ・・・・な。」
シンタロウはそう言うとコウヤを見た。
コウヤは観念したようにアリアに近付いた。
二人の確執を知っているメンツは息を呑んで見ていた。
事態のつかめないリオとカカとマックスはキョロキョロとしていた。
「・・・えっと、アリア。その・・・・」
コウヤは何を言おうかと迷った時
バキ
子気味の良い打撃音が響いた。
コウヤは床に吸い込まれるように叩きつけられた。
「最低野郎。あんたみたいな男、こっちから振るわ。」
アリアは拳を握っていた。
「あ・・・え・・・」
コウヤは事態が掴めていないようでぽかんとしていた。
アリアはコウヤから視線を外しユイを見た。
「アリア。」
ユイは吹き出しそうになっていた。
「すっきりした。頑張んなさいよ。こいつクズよ。」
アリアはユイの肩を叩いた。
コウヤの様子を見てモーガンとマックスは顔を合わせて笑い出した。
「まじかよ。お前。サイテーだ。」
マックスは指を差して笑った。
「マックス。他人に指を差すなよー。」
モーガンはマックスを指差しながら笑った。
「あ・・・そうだ!ラッシュ博士・・・・あの、お父さんは・・・・」
ユイはラッシュ博士に駆け寄り肩を掴んだ。
「ちょっと痛い痛い。あなた力強いんだから・・・・」
ラッシュ博士はユイを振りほどいた。
「ごめんなさい。それで・・・・」
ユイは縋るようにラッシュ博士を見た。
「命は助かったわ。まあ、あの傷なら当分安静よ。今向こうに放置しているから見に行くといいわ。」
ラッシュ博士はカワカミ博士に治療を施したであろう部屋の方向を指差した。
「・・・・ありがとう。」
ユイは駆け出した。
「さて、これからの話するんでしょ?私はどうなるのかしら?」
ラッシュ博士はクロスとハクト、シンタロウとレスリーを見た。
その視線に驚きアリアはえっと声を上げた。
「シンタロウってそんな発言権あるの?」
アリアは近くにいたモーガンに訊いた。
「アリアは知らないだろうけど、あいつ准尉の地位貰ってるよ。」
モーガンは羨ましそうにシンタロウを見た。
「どうするも・・・・しばらくはレイモンドさんに主導してもらうだろう。」
クロスは両手を広げて呆れたように言った。
「私はどうなるのか聞いているのよ。」
「・・・・アリアの機械を生活に支障が無いようにしてくれ。」
シンタロウはアリアを見て言った。
「あと、マックスとドールプログラムの研究を悪用されないように続けてくれ。」
レスリーはマックスを見た。
「優しいのね。」
ラッシュ博士は口元をほころばせてた。
「変な動きをしたら赦さない。正式な体制は後で決まるだろうけど、お前を殺すわけにはいかない。・・・・コウヤにも悪いしな。」
クロスはコウヤを見た。
コウヤはアリアに殴られた頬を抑えて立ち上がった。
「皆はどうするの?」
コウヤはクロスとレイラを見た。
二人は沈黙した。が、クロスは笑い出した。
「俺は、背負って生きないといけなくなったし、尊敬する人に反則的なことを言われた。」
クロスは困ったように言った。
「私もよ。あと、そこのおじさんが睨んでくるから・・・・死ねそうにないわ。」
レイラはジョウを顎で指した。
「俺はディアと」
「わかっているからお前は黙れ。」
ハクトは宣言するように言おうとしたが、途中でクロスに止められた。
「私もハクトと・・・」
「あんたは親をどうにかしなさい。」
ディアも宣言しようとしてレイラに止められた。
「ははは・・・・みんなまだまだやることあるんだ。」
コウヤは終わったが終わってない状況に何故か嬉しくなった。
「コウヤ。あんた終わったつもりでいたの?」
アリアは呆れていた。
「終われるわけないだろう・・・・」
シンタロウも呆れていた。
「ダメ男な部分が出て来ましたね。」
イジーは冷たい目でコウヤを見てた。
「さっきディアだって、終わりそうとか言っていたくせ・・・」
コウヤはディアを指差したが、目を逸らされた。
「そういえば・・・・ここの総統どうするの?」
リリーは横たわり縛られたライアンを指差して訊いた。
「リリー。他人に指差したら駄目だぞ!!」
モーガンがリリーを指差して言った。
「レイモンドさんがどうにかしてくれるだろう。」
レスリーは深く考えていないようだ。
「あー先のことが怖いー」
リオとカカは頭を抱えていた。
「二人とも地連に来てしまえばいいじゃん。」
マックスは両手を広げていった。
「お前はもう地連の人間の顔をしているな。」
ジョウは呆れながらマックスを見ていたが笑っていた。
頼もしい仲間とこれからも生きていけることにコウヤは嬉しくなった。確かにとても悲しいことがあった。これからも辛いかもしれない。
「そうだね。終わるわけないもんな・・・・・・」
だって、生きていくんだから。
コウヤの言葉にみんなが頷いた。
「皆!!」
部屋に息を切らしたユイが入ってきた。いや、戻ってきた。
「どうした?」
ハクトは首を傾げていた。
ユイは一瞬ラッシュ博士を睨んだ、が、ラッシュ博士もハクトと同じように首を傾げたのを見て視線を外した。
「ユイ。どうした。まさか、カワカミ博士・・・・」
コウヤはユイがカワカミ博士の様子を見に行ったことを思い出した。
コウヤの表情を見てユイは首を振った。
そして
「・・・・お父さん・・・・いない。」
作戦は成功となり、ゼウス共和国、地上主権主義連合国、ネイトラルは互いにドールプログラムの被害者であるという立場を取り、プログラムを把握しないまま兵器に利用したためと人々に責められた。
陰謀のことも一部明らかにされたが、全てが明かされなかったのは体制が完全に崩れるのを防ぐためという三国のやり取りがあったのは言うまでもない。
完全なる終戦とはいかないが、復興という形で休戦状態になった。
ただ、ドールプログラムが原因と言われていたのに関わらず未だに兵器として利用し続けている。
生活に応用されたものも取り払うこともできず、対策として三国共同の完全中立を保つドールプログラム専門の研究機関が発足された。
そして、ドールプログラムの発明者であるギンジ・カワカミは行方不明である。
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