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 みんなは、今。
 仲良くしている友達や、先輩や後輩との出会いを。

 ──鮮明に、覚えているだろうか?

 ……俺? 俺は正直、覚えていない。
 初対面という事象は誰にでもあったはずなのに、意外と覚えていないものだ。

 ……きっと、みんなもそうだろう。
 あまりにも運命的だったり、衝撃的だったり印象的だったり……。そういう出会い方でもない限り、覚えていないのが普通だと思う。

 ──だけど、アイツとの出会いだけは。

 ──きっと、一生忘れられない。

 派手な金髪を、後ろでひとつに結べるほど伸びた髪。
 耳には、いくつものピアスが付いていて。
 見た目は完全に『不良』だとしか思えない。

 そんなアイツと出会った時期は、高校の入学式。……まぁ、普遍的な状況だろう。特別感なんて、一切無い。
 出会った場所は、校門から生徒玄関に続くアスファルトの上。……これも、実に普遍的だろう。

 ──なら、どうして忘れられないのかって?

 問題は【状況】じゃない。

 ──問題は【言動】だ。

 その男は、顔が汚れることなんか気にせず。
 額を、アスファルトに擦りつけるように。

 ──完璧な土下座をしながら、こう言ってきた。


『──初めて会った時から好きです。ぶっちゃけ顔が超好みです! 先ずはエロい顔が見たいので、交際を前提に性交してください!』


 ……初対面なのに『初めて会った時から好きです』って、なんだ?

 全然、全く、微塵も意味が理解できないその、告白。
 しかも、性交から始めなくちゃいけない関係を望まれている。
 俺史上、告白ランキングでワースト一位記録を保持し続けるであろう出来事に対して。

 ──俺はただ一言だけ、返事をした。


『──無理』


 それが俺、登坂のぼりざかきりと。
 アイツ、箱根はこね雨竜うりゅうの。

 ……忘れたいと願っても忘れられない、出会いだ。




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