BL短編集[作:ヘタノヨ コヅキ]

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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【先輩は綺麗でいながら】 *

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 辺りが暗くなり、外から聞こえていた運動部員の掛け声や、吹奏楽部の演奏が聞こえなくなった頃。俺は、自分が所属しているクラスの教室にいた。
 顔を上げて、時計を見る。いつの間にか、針は夜の七時を指していたようだ。

 ──それはつまり、運動部の練習が終わっている時間ということ。

 俺はゆっくりと、帰り支度を始めた。
 プール場から離れた、その後。図書室に行って本を借りた俺は、それから今の今までずっと、借りた本を読んでいた。


「思ったより、結構読んじゃったな」


 ゆっくり読んでいたつもりだったが、数時間ぶっ続けで読んでいたせいで、借りたばかりの小説は読み終わりそうだ。
 こんなことなら、もう一冊本を借りておけば良かったか。……そんなことを考えながら本を鞄にしまったとき、廊下から足音が聞こえた。

 開いていた教室の扉から、一人の生徒がやってくる。


「──お待たせ」


 ──浅水先輩だ。

 ほんの少し濡れたままの髪に、こんがりと焼けた肌。その姿は、れっきとした水泳部員に見える。


「お疲れ様です」


 鞄を手に持ち、浅水先輩に近付く。
 浅水先輩は近付いた俺を見て、小さく笑う。


「なにして待っていたの?」
「読書です」
「また? ほんと、飽きないなぁ……」


 二人で並んで教室を出て、そんな雑談をする。

 部活に所属していない俺は、こんな時間まで学校に残っている必要は……正直に言うと、ない。
 読書なんて家でもできるし、実際のところ家で読んだ方が圧倒的に集中できる。当然だ。

 ……それでも俺は、放課後いつも、教室にいた。

 隣に立つ浅水先輩を、ちらりと見る。俺の視線に気付いた浅水先輩が、また笑顔を作った。


「どうかした?」


 普段は他学年だから、関わりがない。
 放課後は部活動に励んでいる中、女子生徒にもてはやされている浅水先輩と二人きりで過ごせる、唯一の時間。……それが、下校時間。

 そして俺は……この時間が、馬鹿みたいに好きなのだ。
 だから、浅水先輩の部活が終わる時間を、教室で待ってしまう。

 スポーツ選手だから熱血なイメージを持たれているかもしれないが、浅水先輩は割とクールな人だ。部活中の私語は少ないし、大きな声を出して笑っているところなんか、俺ですら見たことがない。

 浅水先輩の笑顔は、口角を少し上げる程度だが……そういう大人びた笑い方も、嫌いじゃなかったりする。
 そんなクールな笑みを浮かべている浅水先輩から視線を外して、俺は前を向いて口を開く。


「部活中に、あぁいうことは控えた方がいいと思いますよ」
「あぁいうこと? ……って、なに?」


 俺の指摘に、浅水先輩は身に覚えがありませんといった様子だ。
 階段を下りながら、俺は口ごもる。


「あぁいうことっていうのは、その……俺と、目……目が、合ったときに……えっと」
「目?」


 生徒玄関に辿り着き、一旦各々の靴箱があるところへ向かう。
 外靴に履き替えてから合流し、浅水先輩が思い出したかのように頷いた。


「あぁ。……笑いかけたことを言っているのかな?」
「……はい」


 なぜだか照れくさくなって、俺は俯く。
 浅水先輩は俺の隣で、理由は分からないが楽しそうにしている。


「相変わらず、照れ屋だなぁ」
「照れ屋ってわけじゃ……ッ!」


 浅水先輩の言葉に、頬へ熱が集まった。
 どうやら、浅水先輩は『俺が浅水先輩に微笑まれてドキドキするから、そういう行為を控えてほしい』と、言っている。……そう、誤解したらしい。

 浅水先輩に笑顔を向けられて、ドキマギしているのは否定しない。……が、今さっきの言葉はそういう意味で言ったものではなかった。断じて。


「お、俺がどうこうじゃなくて……ファンの子が、誤解しますよ」
「誤解?」


 自分が興味を持っていない相手にはとことん鈍感な浅水先輩は、俺の言いたいことをいまいち理解していないようだ。キョトンとした顔のまま、小首を傾げている。


「自分に笑ってくれたんだって、思っちゃう人も……いるかも、しれないじゃないですか……」
「ふーん?」


 つまらなさそうな相槌を打って、浅水先輩が前を向く。


「いや、浅水先輩。『ふーん?』って……!」


 浅水先輩のことを考えて進言しているのに、他人事のような反応。浅水先輩らしいと言えば、らしい。
 だが俺は、軽い雑談のつもりで言ったのではないのだ。




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