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2章【未熟な社畜をギャップ証明しました】
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しおりを挟むグロッキー、一歩手前。息絶えたセミの如く、俺は仰向けのままぐったりと脱力していた。
そんな俺を見下ろしながら、カワイはいつもと変わらない冷静な言葉を返す。
「手を離してくれないと、枕を取りに行けない。だからヒト、一回ボクの手を離して」
「水も、ください……」
「分かった。だから、手を離して。後でいっぱい繋ぐから、ね」
名残惜しい、名残惜しいよ。だけど俺は、カワイの手を離した。
すぐにカワイはパタパタと足音を立てながら、枕と水を用意してくれる。俺はぐったりと床に寝転んだまま、カワイが戻ってくるのを待った。
「はい、水だよ。飲める?」
「カワイの口移しがいいなぁ~」
[は?]
「ゼロ太郎って、まだ声、低くなるんだね……」
かなり低めの声に設定したつもりだったけど、底の見えない人工知能だ。
なんとか起き上がり、カワイが持って来てくれた水を飲む。……うん、おいしい。水道水、最高だ。
「枕も持ってきたけど、使う? それとも、起き上がったからもう必要ない?」
「カワイの膝枕がいいなぁ」
今度はゼロ太郎に凄まれたって引かないぞ! 俺は断固として絶対にカワイの膝枕を所望するんだいっ!
枕を両手で抱いたまま、カワイはコクリと縦に頷く。
「知ってる、膝枕。太腿の上に頭を乗せる行為だよね。なのに、どうして【膝枕】なんだろう」
「えっ、知らない、なんでだろう……。後でゼロ太郎に訊いてみて」
「分かった」
素直な返事をした後、カワイはその場にストンと座る。
「はい、ヒト」
「んん~、なにぃ~……?」
「──膝枕。してあげるから、頭乗せて」
「──えっ、マジで?」
キラリと輝く、俺の瞳。カワイは普段通りの無な表情で、ポンポンと自分の太腿を叩いた。
えっ、いいのっ? 本当にっ? これにはゼロ太郎も文句を言えないらしく、黙っている。
──ということは、膝枕されていいんだっ!
「お邪魔しまぁ~すっ!」
「ようこそ」
ほっ、ほわぁ~っ! スベスベ、ぷにぷに……! なっ、なんじゃこりゃっ! どんな高級枕だって勝てないぞ、この質感に!
最高がすぎる。本当にこれは合法なのか? そう疑い、俺は気付く。
「あっ、これ、夢か。つまり、そうか。俺、飲み屋で飲み過ぎて、そのまま寝ちゃったんだ」
「人間は現実か夢かを確かめるとき、頬をつねるんだよね。だからヒトの頬、つねってあげる」
ぷにっ。カワイが俺の頬を、つまんだ。
……うん。痛くない。つままれただけだから痛くないとか、そういう話かもしれないけどさ? でも、痛くないぞ。
ということは、つまり……!
「痛く、ない。……ヤッパリ夢だぁ~っ!」
カワイになにをしたって、これは夢! ヒャッホウ! 夢、最高っ!
俺は現状が夢だと理解した後、飛びつくようにカワイへと抱き着いた。
「はぁ~っ、カワイ! 細いねっ、華奢だねっ、可愛いね~っ!」
「ヒト、ちょっと苦しい」
「なんだようっ。夢なんだから、そんなつれないこと言うなよ~っ」
さては照れ隠しだな? クールなカワイもいいけど、ツンデレなカワイもいいと思うよ! むしろ、ありがとう!
カワイの可愛いを嗜んでいると、俺に抱き着かれたカワイがブツブツと考察を始めた。
「頬をつねったのに、ヒトは『夢』って言ってる。……つまりこれは、夢?」
[カワイ君、落ち着いてください。落ち着いて、主様をぶっ叩いて差し上げてください。先ほどよりも、力を十倍にして]
「十倍……。えいっ」
「いた可愛いっ!」
頬をスパンと叩かれ、文字通り現実を痛感させられる。残念無念、これは現実。
……いや、現実の方が大変ありがたい状況なのではないかっ? 俺の頭は既に、冷静且つ正しい判断ができなくなっていた。
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