未熟な悪魔を保護しました

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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3章【未熟な悪魔をレベルアップさせました】

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 とにもかくにも、二人とは和解だ。俺は後ろ髪を引かれるような気持ちで出勤し、今日も今日とてバリバリッと仕事をこなす。

 すると、隣のデスクに座る月君がググッと体を伸ばした。どうやら、仕事に一区切りが付いたらしい。


「あー……。今日を頑張れば、明日は休みッスねぇ……」
「そうだね。だいぶ温かい日が増えてきたし、過ごしやすい休日になりそうだね」


 俺は明日も休日出勤をして、他の子が使っているデータの気になる部分を修正するつもりだけど。……でも、そう言ったら月君は『ならオレも出ます!』って言いそうだから、言わないでおこう。

 背もたれに体重を預けた月君の方からギッ、と、椅子の軋む音が聞こえた。


「そうですねぇ。気付けば、もう春ですもんねぇ」


 ボーッと天井を見上げているのか、どこかアンニュイな様子だ。会話にしばらくの間ができた後、月君は独り言のようなテンションで呟いた。


「春と言えば、筋肉ですよねぇ……」
「えっ? ……えッ?」


 まずいよ、これがジェネレーションギャップってやつなのかなっ? 全然ピンとこないんだけどっ?

 い、いや、落ち着くんだ、俺。クールになって、冷静に話題を返そう。折角、後輩が振ってくれた話題なんだから。

 頭の片隅で[いえ、今のは独り言だと思いますが]とツッコミを入れるゼロ太郎がいる気もするけど、ここで引くわけにはいかない。


「そう言えば今まで聞いたことなかったけど、月君って、どうして体を鍛えるようになったの?」


 というわけで、なかなかどうして上等な返事ではないか。内心でドヤリとしつつ、返事を待つと……。


「それはまぁ、強い方がいいからに決まってますよ!」
「あっ、なるほど。とってもシンプル」


 思っていた以上に、脳みそが筋肉──いっ、いやいやっ! 俺は後輩に対してなんて失礼なことをっ!

 内心で激しい葛藤を続ける俺には気付かずに、月君はポツリと呟いた。


「まぁでも、本当の理由は別にあるんスけどね」


 なん、だと。これは聞き捨てならない。
 月君の素晴らしい筋肉と、デスクの引き出しからファイルを収納する隙間すら与えないほど潤沢に揃ったプロテイン。これにはいったい、どんなドラマがあるんだ。

 ということで、訊いてみよう。


「なになに? そう言われると気になるなぁ~?」
「それはまだ秘密ッス」

「なるほど。月君との友好度が足りない、と」
「センパイって、稀によく分からないこと言いますよね」


 玉砕。きっ、気になりすぎる。

 いやしかし、いつか知れたらそれで良いではないか。俺は気持ちを切り替えて、月君に別の話題を──。


「……ところで、センパイ」
「なに?」


 振る前に、月君から呼ばれた。
 それから月君は、妙に『うんざりです』と言いたげな様子でぼやいたのだ。


「──オレと会話しつつ猛スピードで数式打ち込むの、若干怖いッス」
「──えぇっ? ひっ、酷いっ!」


 まさかそんな気持ちで俺と筋肉の話をしていたなんて。キーボードをダカダカッと叩き続ける俺は、大きなショックを受けたのだった。




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