未熟な悪魔を保護しました

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

文字の大きさ
78 / 322
4章【未熟な悪魔の小さな初恋でした(カワイ視点)】

3

しおりを挟む



 朝ご飯を食べ終わって、ヒトは仕事着──スーツって衣装に着替える。

 ……さて、と。ボクにとってここからが、一日で一番の大仕事。


「着替えておいてなんだけど、ヤッパリ仕事には行きたくないんだよね。どうしたらいいと思う?」


 駄々をこねるヒトを、どうにか出勤させる。これが、ボクとゼロタローにとって最も大変なお仕事。

 本音を言えば、ボクは仕事になんて行ってほしくない。ずっと部屋にいてほしいし、ずっと目に見えるところにいてほしい。ヒトを見送るなんて、ボクもしたくない。

 でも、ゼロタローはヒトを仕事に行かせたいみたい。この部屋の一番の権力者はゼロタローだから、これに関してボクは従うしかない。

 先住民は大事にしないと、大変なことになる。どこだって、そういうもの。それに、ボクは好戦的タイプの悪魔と違って、争いは楽しくないから好きじゃない。

 ということで、ここからが大仕事。


「ヒト、行ってらっしゃい」
「うーん。カワイに『行ってらっしゃい』ってお見送りされるのは嬉しいけど、仕事に行くのは嫌だなぁ」

「でも、ヒトが仕事に行かないとボクはヒトに『行ってらっしゃい』って言えないよ」
「そうなんだよねぇ。そこが問題なんだよぉ」


 あれ? ヒトが、おかしな方向に話題を持って行き始めているような……。


「プチトマトは好き。だけど、色が赤じゃなくて黄色ってなると話が変わる。……この違いを説明しろ、みたいなことじゃん?」
[全く理解できません。例え話が下手すぎませんか?]

「ヒト、トマト嫌いなの?」
「ううん。俺に嫌いな食べ物はないよ」

[なおさらなんだったのですか、今の例えは]


 どうしよう。このままだと、ヒトの気持ちを全肯定したいボクが負けちゃうかもしれない。


「そうだ! カワイは前にスーツ姿の俺を褒めてくれたし、今日はこの恰好でケーキを買いに行こう! カワイ、俺とデートしよう!」
「でも、仕事は?」

「ふふふっ。社会人には【有給休暇】っていう素敵で無敵な隠し技があるのさ。だから問題ないよ~っ」
「有給休暇……」


 確かに、そうかも。……でも、それでヒトを仕事に行かせなかったらゼロタローがすっごく怒るのは明白。ボクは顎に指を当てて、考える。

 ボクも、ヒトに『行ってらっしゃい』って言うのは好き。一緒の空間にいるからこそ言える言葉だから、その言葉は好き。

 でも……。


「──ボクは、ヒトに『おかえりなさい』って言うのも好きだよ? ヒトとデートはしたいけど、それだと今日は『おかえりなさい』って言えなくなっちゃう……」


 ボクが呟いた、その瞬間。


「じゃっ、会社に行ってきます。帰りにケーキ買ってくるから、カワイはとびきりの可愛さで俺に『おかえり』って言ってね」


 敬礼をしてから、ヒトは目にも留まらぬ速さで玄関から出て行った。

 ……結果、オーライ? なのかな。


[素早く出勤したからといって、素早く退勤できるわけではないのですけどね]
「あんなに急がれると、ヒトが交通事故を起こさないか心配」
[分かりました。主様のことは、私がきちんとナビゲートいたします]
「うん。よろしくね、ゼロタロー」


 なにはともあれ、ヒトを出勤させることには成功したみたい。良かった良かった。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【土壌改良】スキルで追放された俺、辺境で奇跡の野菜を作ってたら、聖剣の呪いに苦しむ伝説の英雄がやってきて胃袋と心を掴んでしまった

水凪しおん
BL
戦闘にも魔法にも役立たない【土壌改良】スキルを授かった伯爵家三男のフィンは、実家から追放され、痩せ果てた辺境の地へと送られる。しかし、彼は全くめげていなかった。「美味しい野菜が育てばそれでいいや」と、のんびり畑を耕し始める。 そんな彼の作る野菜は、文献にしか存在しない幻の品種だったり、食べた者の体調を回復させたりと、とんでもない奇跡の作物だった。 ある嵐の夜、フィンは一人の男と出会う。彼の名はアッシュ。魔王を倒した伝説の英雄だが、聖剣の呪いに蝕まれ、死を待つ身だった。 フィンの作る野菜スープを口にし、初めて呪いの痛みから解放されたアッシュは、フィンに宣言する。「君の作る野菜が毎日食べたい。……夫もできる」と。 ハズレスキルだと思っていた力は、実は世界を浄化する『創生の力』だった!? 無自覚な追放貴族と、彼に胃袋と心を掴まれた最強の元英雄。二人の甘くて美味しい辺境開拓スローライフが、今、始まる。

聖獣は黒髪の青年に愛を誓う

午後野つばな
BL
稀覯本店で働くセスは、孤独な日々を送っていた。 ある日、鳥に襲われていた仔犬を助け、アシュリーと名づける。 だが、アシュリーただの犬ではなく、稀少とされる獣人の子どもだった。 全身で自分への愛情を表現するアシュリーとの日々は、灰色だったセスの日々を変える。 やがてトーマスと名乗る旅人の出現をきっかけに、アシュリーは美しい青年の姿へと変化するが……。

fall~獣のような男がぼくに歓びを教える

乃木のき
BL
お前は俺だけのものだ__結婚し穏やかな家庭を気づいてきた瑞生だが、元恋人の禄朗と再会してしまう。ダメなのに逢いたい。逢ってしまえばあなたに狂ってしまうだけなのに。 強く結ばれていたはずなのに小さなほころびが2人を引き離し、抗うように惹きつけ合う。 濃厚な情愛の行く先は地獄なのか天国なのか。 ※エブリスタで連載していた作品です

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

【完結】その少年は硝子の魔術士

鏑木 うりこ
BL
 神の家でステンドグラスを作っていた俺は地上に落とされた。俺の出来る事は硝子細工だけなのに。  硝子じゃお腹も膨れない!硝子じゃ魔物は倒せない!どうする、俺?!  設定はふんわりしております。 少し痛々しい。

処理中です...