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4章【未熟な悪魔の小さな初恋でした(カワイ視点)】
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しおりを挟む頭の中でエツの情報をまとめていると、エツは変わらずニコニコしたまま、ボクに話題を振った。
「ところで、カワイさんって追着さんと同居してるんすか~?」
どうやら、エツはヒトとも知り合いらしい。隠す必要もないから、ボクはエツを見てコクリと頷く。
「うん。エツはヒトと知り合い? 友達?」
「駐車場に向かう姿を時々見かける程度の知り合いっすね~」
[それは【知り合い】ではないのでは?]
我が家でツッコミ役を担当しているゼロタローが喋った。
思わず、ボクは驚いてしまう。ゼロタローが他人の前でも喋るなんて、初めてだから。
だけど、エツはゼロタローとも知り合いらしい。
「あれ~? 今の声って、もしかして追着さんの人工知能っすかね~?」
「うん、そう。ゼロタロー」
「そうなんすね~。ジブンの子は【んーちゃん】っす」
「ンーチャン」
人工知能の【ん】かな? どうして【じ】じゃないんだろう。……おじいちゃんみたい、だからかな。
でも、これで確信。このマンションは部屋に必ず人工知能が搭載されているから、エツはこのマンションの住人だ。つまり、ご近所さん。お付き合い、大事にしなくちゃ。
エレベーターが一階に向かう中、エツはのんびりと喋る。
「一緒にお出掛けするなんて、仲良しっすね~。この間も、裏庭でお花見してましたよね~。楽しそうだったから混ざろうかと思っちゃったんすよ、実は」
「ダメ。あの日は家族サービスだったから、家族以外はダメ」
「よく分かんないっすけど、仲良しっすね~」
「うん。ボクとヒトとゼロタローは仲良し」
そっか。裏庭だから、マンションの住人からは丸見えなんだ。
じゃあ、ヒトに膝枕したのも見られたのかな。……ちょっと誇らしいかも。
「エツはンーチャンと外に出ないの?」
「そっすね~。んーちゃんは他の皆さんが一緒に暮らしている人工知能とは違うので、ゼロ太郎さんみたいにスマホに移す~とかができないんすよ~。……いや『できない』じゃなくて『できなくした』の方が正確っすかね? とにもかくにも、そんな感じっす」
ゼロタローとは、違う? 部屋毎に人工知能のタイプは違う、ってことかな。だとしたら、このマンションを作った人間は面白いかも。
お喋りをしていたら、エレベーターが一階に到着。扉が開いて、ボクとエツはエレベーターを降りた。
そのままマンションから出ると、エツはボクが向かう方向とは逆の向きを指で指し始める。
「それじゃあ、ジブンはこっちなんで。カワイさん、またスーパーで~」
「うん。仕事、頑張って」
手を振られたから、手を振り返す。エツはヤッパリずっとニコニコしたままボクを見て、それからホームセンターに向かって歩き始めた。
エツと別れてから、ボクはスマホをポケットから取り出す。それから、スマホを耳に当てた。
こうすると、ゼロタローと喋っていても『電話をしている』ように見える。外でゼロタローとお喋りするときはこうした方がいいって、ゼロタローに教わった。
「ヒトはエツのこと知らないの?」
[会ったことはあるのですが、主様が覚えているかどうかは分かりません]
「ヒトは人間の顔を覚えるのが苦手?」
[そういうわけではないのですが、タイミングがあまりよろしくなかったのですよ]
大勢の人間の中でエツを見た、とかかな。
よく分からないけど、ゼロタローがハッキリ言わないことはきっと深く訊いちゃダメな話だ。それがヒトのことなら、ボクは深追いしない。
ボクは「そうなんだ」とだけ返事をして、スーパーに向かって歩き出した。
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