129 / 322
5章【未熟な社畜は自覚しました】
22
しおりを挟む帰宅し、ゼロ太郎への弁明を終えたその後で。
「カワイ、すっごいね……。メチャメチャ気持ちいい……」
「ゼロタローの指示に間違いはないからね」
ゼロ太郎に指南を受けながら、カワイは俺にマッサージを始めてくれた。
すっごく、すっごい。ツボとかには詳しくないけど、なんだか気持ちのいいところを的確に突かれている気がする。あぁ~、すごい~っ。
「カワイならいけるよ、整体師路線。プロになれちゃうよ。……まぁ、俺以外にこんなことさせないけどね」
[なんなのですか]
誰がカワイを渡すものか。金を積まれたってカワイにマッサージはさせないぞ。俺はカワイの保護者だからな。
カワイはむぎゅむぎゅっと俺を押しながら、普段と同じ優しい声音で訊ねる。
「体重かけてるけど、重くない?」
「大丈夫大丈夫~っ。カワイの体重はリンゴ五個分だからね~」
すかさず、頭上からゼロ太郎のツッコミが入った。
[違います。リンゴ換算がお望みなのでしたら、カワイ君の体重は──]
「──やめろゼロ太郎! プライバシーだぞ!」
「──ボクの体重でそんなに盛り上がるんだね」
だが俺は、ゼロ太郎のツッコミを遮る。なぜなら【体重】という個人情報は、今の俺にとってデリケートなものだからだ。
しかし、カワイの体重か。俺はふと、同じ会社で働く悪魔──草原君のことを思い出した。
「あのさ、カワイ。悪魔ってみんな、カワイみたいに華奢で細身なの? うちの会社にいる草原君も細身なんだよね」
俺の疑問に、カワイは否定を返す。
「ううん、そんなことないよ。太る悪魔もいるし、筋肉いっぱいな悪魔もいる。おっぱいが大きい悪魔もいるし、まな板と見紛うくらいおっぱいが無い悪魔もいる。個体差があるのは人間と同じだよ」
「へぇ~、そうなんだ」
つまり人間と同じく、悪魔の体型も個人の努力次第ということか。悪魔と言えど、やはり生物ということ。なんでもファンタジーにはならないのか。
……いや、待てよ? 本人の努力次第でどうとでもなるのだとしたら? 俺は、とんでもないことに気付いてしまった。
もしもこのまま、カワイと運動を続けたとしたら。……そうしたら、カワイは!
──ムキムキのカワイがッ! 筋骨隆々なカワイが出来上がってしまうのではッ!
「──そんなの嫌だぁあッ!」
うつ伏せの姿勢で施術を受けていた俺は、大いなる気付きと損失と恐怖に、体をガクガクと震わせ始めた。
俺にマッサージを施してくれていたカワイが、ビクッと体を震わせる。手が俺の背中に触れているから、カワイの驚きは伝わってきた。
カワイは恐る恐るといった様子で、俺の顔を覗き込む。そして、すぐに天井を見上げた。
「ゼロタロー、どうしよう。ヒトの目が、またグルグルになっちゃった」
[平常運転です。元気で健康な証拠ですよ。マッサージが効いているのです]
「いやその返しはおかしいでしょうが!」
確かにマッサージは最高だけども! そこは否定しないけどもさ!
ゼロ太郎の言葉に納得したのか、カワイは揉み揉みと俺のマッサージを続ける。
「それで? いきなりどうしたの?」
優しい。優しくて、可愛い。このカワイが、もしも筋骨隆々な……それこそ、月君みたいに筋肉を育て始めたら、俺は……!
「カワイッ!」
「うん。……うん?」
即座に起き上がり、俺はマッサージを施してくれていたカワイの両手を握る。
そのまま、まるで恐怖心を打ち消すかのように大きな声で伝えた。
「──俺は今のカワイが大好きだよ!」
「──っ!」
伝えると同時に、カワイはプイッとそっぽを向いてしまう。
「いきなりそんなこと言われても、ビックリするだけだよ。……バカ」
「えぇええッ! どうしてッ! カワイが反抗期だぁあッ!」
後で気付いたけど、なんだか告白みたいなシーンになってしまったなぁ。
……なんて。告白はちゃんと、機が熟したらするつもりだけどね!
23
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【土壌改良】スキルで追放された俺、辺境で奇跡の野菜を作ってたら、聖剣の呪いに苦しむ伝説の英雄がやってきて胃袋と心を掴んでしまった
水凪しおん
BL
戦闘にも魔法にも役立たない【土壌改良】スキルを授かった伯爵家三男のフィンは、実家から追放され、痩せ果てた辺境の地へと送られる。しかし、彼は全くめげていなかった。「美味しい野菜が育てばそれでいいや」と、のんびり畑を耕し始める。
そんな彼の作る野菜は、文献にしか存在しない幻の品種だったり、食べた者の体調を回復させたりと、とんでもない奇跡の作物だった。
ある嵐の夜、フィンは一人の男と出会う。彼の名はアッシュ。魔王を倒した伝説の英雄だが、聖剣の呪いに蝕まれ、死を待つ身だった。
フィンの作る野菜スープを口にし、初めて呪いの痛みから解放されたアッシュは、フィンに宣言する。「君の作る野菜が毎日食べたい。……夫もできる」と。
ハズレスキルだと思っていた力は、実は世界を浄化する『創生の力』だった!?
無自覚な追放貴族と、彼に胃袋と心を掴まれた最強の元英雄。二人の甘くて美味しい辺境開拓スローライフが、今、始まる。
聖獣は黒髪の青年に愛を誓う
午後野つばな
BL
稀覯本店で働くセスは、孤独な日々を送っていた。
ある日、鳥に襲われていた仔犬を助け、アシュリーと名づける。
だが、アシュリーただの犬ではなく、稀少とされる獣人の子どもだった。
全身で自分への愛情を表現するアシュリーとの日々は、灰色だったセスの日々を変える。
やがてトーマスと名乗る旅人の出現をきっかけに、アシュリーは美しい青年の姿へと変化するが……。
fall~獣のような男がぼくに歓びを教える
乃木のき
BL
お前は俺だけのものだ__結婚し穏やかな家庭を気づいてきた瑞生だが、元恋人の禄朗と再会してしまう。ダメなのに逢いたい。逢ってしまえばあなたに狂ってしまうだけなのに。
強く結ばれていたはずなのに小さなほころびが2人を引き離し、抗うように惹きつけ合う。
濃厚な情愛の行く先は地獄なのか天国なのか。
※エブリスタで連載していた作品です
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
【完結】その少年は硝子の魔術士
鏑木 うりこ
BL
神の家でステンドグラスを作っていた俺は地上に落とされた。俺の出来る事は硝子細工だけなのに。
硝子じゃお腹も膨れない!硝子じゃ魔物は倒せない!どうする、俺?!
設定はふんわりしております。
少し痛々しい。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる