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6章【未熟な社畜は悩みました】
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しおりを挟む草原君との会話でなにが解決したわけでもないけど、問題をひとつクリアしたような気持ちだ。
安定のサービスな残業を終えた俺は帰宅後、カワイとゼロ太郎が作ってくれた晩ご飯に舌鼓。それから就寝準備をアレソレと終えた後、俺はカワイに告げたのだった。
「──俺、当分はソファで寝るね」
俺とカワイはいつも、同じベッドでくっついて寝ている。保護をした初日から、一緒に寝ているのだ。
だから、続くカワイの問いは当然の内容だった。
「どうして?」
ピュアで、無垢。俺を見上げるカワイも俺と同様に就寝準備を終え、残すは寝室に向かうだけの状態だ。
純真で純粋な、俺への信頼。カワイの瞳と問いは、それを体現していた。
俺自身にそう伝わってしまうほど、カワイの気持ちは本物だ。だからこそ俺は、カワイの目を見つめ返せなかった。
「えーっと。……ソファで寝るのにハマったから、かな」
くっ、苦しいっ。この言い訳はあまりに苦しいぞ、俺!
しかし、カワイは優しい子だ。すぐに俺の言葉を「そうなんだ」と信じ、そして──。
「それなら、ボクもソファで一緒に──」
「──それは駄目だよ!」
俺としては非常に困る提案をしたのだった。
咄嗟に返してしまったのは、思っていた以上に強い声。俺はすぐに、ハッとする。
これでは、カワイを拒絶しているみたいじゃないか。そう気付くと同時に、俺は慌てて弁明を始めた。
「いやほらっ、ソファは狭いからさ! だから駄目だよ、カワイが落ちたら困っちゃうから……ねっ!」
「……そう」
しょもんと、カワイは落ち込む。眉尻をほんのりと下げ、それ以上に分かり易く尻尾を床に垂らしているのだ。
カワイは俯いて、自らが着ているシャツの裾をキュッとつまむ。それから、物悲しい声を口にした。
「……ボク、ヒトにとってジャマ? ヒトになにか、しちゃった?」
「なっ! そんなことないよっ! 有り得ない!」
すぐに俺は、俯いたカワイの肩を鷲掴みにする。
「カワイのおかげで、毎日が宝箱の中身みたいにワクワクで、すっごく楽しいよ! 本当だよ! だからつまり、えっと! ……いつも、本当にありがとうっ!」
「ヒト……。……うん」
俺の訴えが届いたのか、顔を上げたカワイは頷いてくれた。
それからカワイは、俺にとって不可解な言葉を口にする。
「ヒトはボクに恩を売っちゃったんだから、これからもボクにいっぱい奉仕される覚悟をしておいてね?」
……『恩』って、なんの話だ? 雪道の上で行き倒れていたのを保護した、って意味かな。
もしも、そうなのだとしたら。ヤッパリ俺は、カワイと同じベッドで寝ちゃいけない。
カワイの信頼を、裏切りたくないから。カワイの日常を、俺の恋情なんかで汚したくない。俺はカワイの薄い肩から手を離し、誤魔化すように「あはは」と笑った。
俺の接近になにを思ったのか、カワイはさらに一歩、俺との物理的な距離を詰める。
「じゃあ、今日はボクもソファで──」
「うっ、それは駄目だよ。駄目っ」
「……そう」
俺が両手でバツマークを作ると、カワイの尻尾がひょろ~んと力なく垂れた。
うぅっ、分かってほしい。カワイのためなんだよ~っ。俺だってカワイと一緒に寝たい! 本音を言っていいのなら、それはもう抱き合って寝たいよ!
だけど、それはできない。なぜなら……。
「……それじゃあ、おやすみ、ヒト」
「う、うん。おやすみ、カワイ……」
落ち込んだ様子のカワイは、今日も今日とて寝間着に俺のシャツ【だけ】を着ている。
あんなセクシーなカワイと一緒に寝て、なにもしないなんて誓約は結べない! 俺には【カワイの額に無断でキスをした】という前科があるのだから!
何度もチラチラと俺を振り返るカワイを見送った後、俺はその場に蹲り、声にならない呻き声を漏らした。
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