未熟な悪魔を保護しました

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

文字の大きさ
226 / 322
8章【未熟な社畜も伝えました】

2

しおりを挟む



 さて。こんな俺でも、実は悩みがあった。
 それはあの日──俺が【不調】に悩んでいた、とある日のことだ。


『ボクはずっと、ヒトのことが好き。性欲とか恋愛とか、そういう意味で。ボクはずっと、ヒトが好きだよ』

『もしもヒトの言う通り、ヒトが悪い男だったとしても。それでもボクは、ヒトを好きになったよ』


 ……なんてことを、俺はカワイから告げられた。

 無論、これは妄想でもなければ都合の良い夢でもない。驚愕すべきことに、これは現実として起こった事実なのだ。

 つまり、つまりだよ? 俺はスーツに着替えながら、ゼロ太郎と会話を始めた。


「ゼロ太郎、単刀直入に訊かせてほしい」
[はい。なんでしょう?]

「──俺とカワイの関係って、なに?」
[──本人に訊いてください]


 なっ、なんて薄情なんだ! ゼロ太郎のことだから、こっちがどれだけ恥を忍んでこんな話題を打ち明けているか分かっているくせに!

 ちなみに、カワイはキッチンで俺のお弁当を用意してくれている。つまり、この会話は聞こえていないのだ。

 だから俺は、堂々とゼロ太郎に訴える。


「言えないだろこんなこと! 仮にカワイから『恋人同士じゃないの?』って言われたらカワイを傷付けたことになる! 逆に『ただの同居人』って言われたら俺が傷付く!」
[前者には同意いたしますが、後者は知りませんよ]

「この薄情者! 悪魔!」
[私はただの人工知能です。そして、悪魔はカワイ君ですよ]


 たぶんこれ、ゼロ太郎に顔があったら『ツーン』って効果音が付いていたぞ! 絶対、絶対だ!

 しかし、こんなことを相談できるのはゼロ太郎だけ。俺はモジモジと指先を合わせつつ、相談を続行した。


「確かに、俺はただの【保護者】かもしれないよ。でもさ、ほら。カワイは俺に『好き』って言ってくれたし、俺もカワイのことは好きだしさ? だったら、つまり……ねっ?」
[そうですね]

「分かってくれたんだねっ! 察してくれたんだねゼロ太郎ぅ~っ!」
[えぇ、まぁ……]


 ヤッパリ、なんだかんだでゼロ太郎は俺とカワイの味方だ! 俺の──と言うより、俺とカワイの悩みには全力で寄り添ってくれているじゃないか!

 まったくもうっ、このツンデ──。


[──【保護者】という単語の意味を考えるのは、疾うの昔にやめました]
「──カワイを保護してからまだ日が浅いのに?」


 あっ、分かっちゃった。たぶん今、ゼロ太郎は俺の言葉を【妄言】として捉えている。つまり、俺になにかをどうこう説くというやり取りを諦めているのだ。

 違う、そういう【察し】じゃない。俺が求めたのは、そういう意味の理解じゃないんだよ。

 などと嘆いたところで、色々と遅い。ゼロ太郎はおそらく、俺から目を逸らしている。それはもう、全力で逸らしているのだ。


[あぁ、まったくもう。カワイ君ったら、今日もあんなに熱心な様子で家事に励んで……。愛おしいですね]
「よくこのタイミングでその話題と言葉を選んだね!」


 くっ、くそぉ~っ! 俺はくじけない、くじけないぞ! そんなことを思いつつ、俺は手早く着替えを終えた。

 ……なぜかって? 家事に励むカワイを眺めたいからだよ!




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【土壌改良】スキルで追放された俺、辺境で奇跡の野菜を作ってたら、聖剣の呪いに苦しむ伝説の英雄がやってきて胃袋と心を掴んでしまった

水凪しおん
BL
戦闘にも魔法にも役立たない【土壌改良】スキルを授かった伯爵家三男のフィンは、実家から追放され、痩せ果てた辺境の地へと送られる。しかし、彼は全くめげていなかった。「美味しい野菜が育てばそれでいいや」と、のんびり畑を耕し始める。 そんな彼の作る野菜は、文献にしか存在しない幻の品種だったり、食べた者の体調を回復させたりと、とんでもない奇跡の作物だった。 ある嵐の夜、フィンは一人の男と出会う。彼の名はアッシュ。魔王を倒した伝説の英雄だが、聖剣の呪いに蝕まれ、死を待つ身だった。 フィンの作る野菜スープを口にし、初めて呪いの痛みから解放されたアッシュは、フィンに宣言する。「君の作る野菜が毎日食べたい。……夫もできる」と。 ハズレスキルだと思っていた力は、実は世界を浄化する『創生の力』だった!? 無自覚な追放貴族と、彼に胃袋と心を掴まれた最強の元英雄。二人の甘くて美味しい辺境開拓スローライフが、今、始まる。

聖獣は黒髪の青年に愛を誓う

午後野つばな
BL
稀覯本店で働くセスは、孤独な日々を送っていた。 ある日、鳥に襲われていた仔犬を助け、アシュリーと名づける。 だが、アシュリーただの犬ではなく、稀少とされる獣人の子どもだった。 全身で自分への愛情を表現するアシュリーとの日々は、灰色だったセスの日々を変える。 やがてトーマスと名乗る旅人の出現をきっかけに、アシュリーは美しい青年の姿へと変化するが……。

fall~獣のような男がぼくに歓びを教える

乃木のき
BL
お前は俺だけのものだ__結婚し穏やかな家庭を気づいてきた瑞生だが、元恋人の禄朗と再会してしまう。ダメなのに逢いたい。逢ってしまえばあなたに狂ってしまうだけなのに。 強く結ばれていたはずなのに小さなほころびが2人を引き離し、抗うように惹きつけ合う。 濃厚な情愛の行く先は地獄なのか天国なのか。 ※エブリスタで連載していた作品です

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

処理中です...