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8章【未熟な社畜も伝えました】
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しおりを挟むカワイと過ごすようになって、俺の感情はかなり激しく動くようになったと思う。
ゼロ太郎と暮らすようになった際も、俺は同様の感想を抱いた。自分はこんなに感情を──主に、明るい意味での感情を強く抱ける男なのかと。俺は俺自身に、大層驚いたものだ。
それから、カワイと暮らし始めて。不思議と【なにも起こらない日】というものがなく、俺はカワイとゼロ太郎と毎日を嬉しい意味で慌ただしく過ごしていた。
……だが、分かっている。俺の中に生まれた【問題】が、なにも解決していないということを。
カワイから受け取った、告白のような言葉。その真意やカワイが望む未来を未だに確認できないまま、俺は日々の幸福に甘えまくっていた。
だが、このままではいけない。これは【俺がカワイに対する好意を自覚した時】とは、話が違う。これは【俺とカワイの問題】だ。
ということで、俺がすべきことはなんなのか。カワイが作ってくれた晩ご飯──カブと鶏肉のクリーム煮というお洒落な料理を食べながら、ずっと考えた。
ほんのり甘く、そして濃厚。それでいて、ご飯にも合う。カブと鶏肉のクリーム煮という料理は、すごくすごかった。また作ってほしい。
……などと、若干の脱線をしつつ。俺は割とマジの本気で、この状況をどうするべきなのか考えていたのだ。
そして辿り着いた、解決法。今の俺に足りていなかったものがなんなのかという、その答え。
そう、それは──。
「──マインドフルネス」
ということで俺は、フローリングの上にクッションを敷いて【瞑想】を始めた。
俺は目を閉じ、黙り込む。家事を終えたカワイは、不思議そうに俺を見下ろしていたことだろう。
「まい……。……なにそれ?」
思わずゼロ太郎に不安そうな声を向けてしまうほど、カワイには心配なのか不安なのか分からない感情を抱かせてしまったらしい。申し訳ない。
俺の突拍子もない行動なんて、最早慣れっこ。カワイの疑問に対し、ゼロ太郎は特に様子を変えることもなく返事をした。
[瞑想などを行い【今起きていること】に意識を向けることで不安やストレスの軽減を試みる取り組み……それが、マインドフルネスですね。過去や未来のことを考えすぎたり、様々な思考に囚われすぎたりすることを減らし、不安やストレスの軽減に役立つと言われています。なかなかどうして、奥が深いものです]
「よく分からないけど、今のヒトは【ゾーンに入っている】ってこと?」
[その解釈でも間違いはありませんね]
いやそれはちょっと違うと思うけど。ゼロ太郎はカワイに激甘だ。
……って、駄目じゃないか! 俺は今、瞑想をしているんだ! 二人の会話に聞き耳を立てて、あまつさえ意識を向けてしまうなんて言語道断! 集中しなくちゃ、己自身に!
「ヒトがマインドなんとかをしている時、ボクはどうしたらいい?」
[ジッと見つめるも良し、無視をするも良し、ちょっかいをかけるも良し……。これは主様自身の問題なので、特にカワイ君や私がすべきことはありませんよ]
「そうなんだ。だったらボクは、目を閉じて真剣な表情で座ったヒトをジッと眺める。……ジーッ」
[よろしいと思います。便乗して、私も主様を眺めようと思います。……ジーッ]
……き、気になる。実際に見て確認したわけじゃないけど、二人がそんなことを言うから視線がバシバシ刺さっているような気がするじゃないか。
だけど、我慢だ。ここで目を開けたら、なんのためにマインドフルネスを──。
「──ヒトを見つめるのは好きだけど、折角ボクと一緒にいるんだから、喋ったり遊んだりしてほしい……かも」
「──マインドフルネスやめるぅ~っ!」
そんなこんなで、今日も問題は解決できないのであった。
……えっ? これって、俺のせいなのかな? カワイの華奢な体をムギュッと抱き締めながら、俺は答えの無い自問をしたのだった。
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