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8章【未熟な社畜も伝えました】
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しおりを挟む休日出勤をこなしつつ、俺は考えていた。日曜日の夜になるまで、ずっとずっと考えていたのだ。
俺は、カワイから言葉を受け取った。そしてその言葉はきっと──確実に、俺にとって都合の良い解釈で間違いが無いものだろう。こう思うのは【自惚れ】ではない。むしろ、こう思わないのは失礼に当たる気さえする。そのくらい、確信めいたものがあった。
だけど、カワイはどうだろうか? カワイはあの言葉を俺にくれてから、どんな気持ちで俺と過ごしてくれていたのだろう?
「電子レンジで作った、酢豚と肉じゃが。……おいしい?」
「メチャメチャおいしいよ、大好き」
家族お手製晩ご飯に舌鼓を打ちつつ、カワイが嬉しそうに尻尾を振っている様子を眺めながら、それでも俺は考え続ける。
もしもこれが、逆の立場だったなら。俺がカワイに告白をして、だけどカワイからはイエスともノーとも言われなくて……。その場合、俺はどう思うだろう。
実際にそうなってみないと分からないけど、俺はきっと、不安になる。『イエス』をくれないということは、つまり……。俺は自分に関してあまりポジティブな思想を向けてやれないから、悪い方にどんどん考えてしまいそうだ。
だったら、カワイはどうだろうか。
「明日はシャケと、なんとかってキノコのチーズ焼きを作る予定」
[マッシュルームですね]
「長い名前、覚えられない。でも、人間界で暮らすなら覚えなくちゃ」
[カワイ君は物覚えの良い方です。主様と違って]
二人の会話に苦笑いを浮かべつつ、俺は晩ご飯を完食する。
なんだか、不思議だ。こんなことを考えていても、周りは普通に日常として進んでいるのだから。こんなに……俺にとっては大きな決断をしようとしているのに、世界は普通なんだ。
カワイはもしかすると、俺に伝えて満足しているのかもしれない。俺が『ノー』と言わないならそれで良いと、そう思っている可能性だってある。
それでも、ゼロじゃない。カワイが俺と同じ思考回路に陥る可能性は、ゼロじゃないんだ。
「……ねぇ、カワイ」
なら、俺が取るべき行動なんて決まっている。むしろ、どうしてこう気付くのにこんなにも時間がかかったのか不思議なくらいだ。俺が俺を殴りたい、とすら思う。
しかし、今は俺を殴っている場合ではない。それも大事かもしれないけど、もっともっと大事なことがあるのだから。
「どうしたの、ヒト? もしかしてご飯、足りなかった?」
「ううん、そんなことないよ。今日も大満足だし、チップを払いたいくらい」
「チップ? よく分からないけど、なにも要らないよ?」
「じゃあ、チップはまた今度ってことで」
カワイが「ヒトの目、本気っぽい……」と言いながら、なぜか怯えているような顔をしている。なぜだろう、チップは紳士的な文化だというのに。
……って、違うよな。いつも通りの日常も大切だけど、今の俺がすべきなのはそれじゃない。気持ちを切り替えるために俺は一度、深呼吸をした。
突然深呼吸を始めた俺を見て小首を傾げるカワイに、俺は顔を向ける。それから俺は、体を動かした。
「今から一緒に、マンションの屋上に行かない?」
カワイに手を差し出して、俺は笑う。
努めて優しく、柔らかく。キョトンと目を丸くするカワイに、俺は笑顔を向けた。
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