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8.5章【未熟な悪魔と甘い時間です(カワイ視点)】
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しおりを挟む今日は、十一月二十三日。とても、すごく、大事な日。
だって今日は……。
「──ヒト、誕生日おめでとう」
ヒトが、生まれた日。年に一度の、ヒトの誕生日だから。
ベッドで寝転んだヒトに馬乗りして、ボクはヒトの誕生日を祝った。
正直に言うと、ボクにはあまり【誕生日イコールめでたい】って感覚が分からない。魔界にはそういう文化が無いから。
だけど、人間界では【誕生日イコールめでたい】が主流らしい。だからヒトにとっても、今日と言う日は嬉しい日のはず。
枕に頭を預けているヒトは、目をパチパチッと瞬かせた。驚いた顔のヒトも、カワイイ。誕生日のヒトも、大好き。
「えっ。……えっ! なっ、なんで俺の誕生日を知ってるのっ?」
「ゼロタローが教えてくれた」
「そっ、そう、なんだ。……えっと、ありがとう?」
お礼を言われた、けど。
「嬉しく、ない?」
今のヒトは、あまり嬉しそうに見えない。ビックリしているから……って、そんな理由にも見えなかった。
ボクはきっと、ヒトの上でシュンとした様子で落ち込んでしまったのかも。慌てて、ヒトがフォローの言葉を入れたから。
「そんなことないよ! ビックリしただけで、メチャメチャ嬉しいよっ!」
「でも、歯切れが悪い」
「いやほら、俺もう三十目前だからさ? アラサーってさ、誕生日で喜ぶような年齢じゃないんだよね」
「なるほど」
人間界は、年齢にデリケート。特に、女。人間の女は、ある一定の年齢を超えると『何歳?』って訊くと、危ない目に遭わせてくる生き物らしい。気を付けなくちゃ。
「でも、ヒトの主張は分かるかも。悪魔は人間界の生物に比べて長生きだから【年齢】って概念が無い。だから、誕生日を祝われてもピンとこない。そもそも悪魔は、自分の誕生日を知らない」
「へぇ、悪魔ってそうなんだ? でも、それじゃあ俺はカワイをお祝いできないね……」
ヒトにならいつお祝いされても嬉しい、けど。そういうことじゃないのかな、きっと。誕生日、まだ難しい……。
「でもまさか、誰かから『おめでとう』って言われると思ってなかったよ。なんだか照れくさいね」
「そっか。ヒト、友達いないもんね」
「ここ数年ゼロ太郎以外に祝われた記憶が無いだけに、否定材料がなにひとつ出てこない」
ツキと兄にも祝われていないのかな。……たぶんヒト、自分の誕生日を周りに言ってないんだね。
ヒトは、自分が生まれたせいで母親を苦しめたと思っている。だからきっと、ヒトは誕生日が好きじゃない。それくらい、ボクだって容易に推測できた。
それでもボクは、ヒトに『おめでとう』って伝えたかったから。こんな一言でなにが変わるかは分からないけど、それでも『ヒトが生まれてきたのは嬉しいこと』って伝えたかった。
「ありがとう、カワイ。最初はビックリしちゃって反応が遅れちゃったけど、今は本当に素直に嬉しいよ。……ちょっと、照れちゃっているくらい」
そしてボクの気持ちは、伝わったみたい。照れ笑いを浮かべるヒトを見て、ボクは満足だった。
「……ところで、カワイさんや」
「なぁに、ヒトさんや」
「──お祝い自体は嬉しいんだけど、十二時だからそろそろ寝ない?」
「──そうだね」
今日は、十一月二十三日。
……に、なったばかりの時間。ボクは頷いた後、すぐにヒトの隣に寝転んだ。
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