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9章【未熟な社畜と未熟な悪魔は不慣れでした】
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しおりを挟むしかし、おのれゼロ太郎めぇ~! もう少しで愛しのマイダーリンからほっぺにチューをしてもらえる大チャンスだったのに!
ゼロ太郎にイチャイチャキャンセルをされ、俺はガクリと肩を落とした。……というのは、数日前までの俺だ!
だがしかし、今の俺は今までの俺とは違うぞ。なぜなら、今の俺は【カワイの彼氏】なのだ。ゼロ太郎になんと言われようと、カワイさえ許可してくれるのなら存分に駄々をこねて──違う、イチャイチャを希望してもいいはず!
俺がカワイにとってそれだけの関係性なのだという自覚と自負があるのだから、試さない手はない。早速、俺は行動を始める。
「あー、駄目だ。お布団が俺を離さない。だからもう動けないや。うん、俺のせいじゃない。お布団が離してくれないからさ、うんうん」
と言うわけで、試しに毛布を羽織ってみた。ゼロ太郎が[小癪な]とか言っている気がするけど、気にするものか。
俺に抱き締められていたカワイ諸共、毛布の中に没入。こちらの構えは盤石だろう。
さぁ、ゼロ太郎はどうする? どうにもできないだろう?
ならば、カワイはどうする? きっと俺の彼氏になったカワイは、駄々をこねる俺に大いなる包容力を見せ──。
「──ベッドから降りてくれたら、毛布じゃなくてボクがヒトをギュッとするのに……」
「──おはよう、カワイ。素敵な朝だね」
えっ、なにっ? どうして俺、フローリングの上で正座をしているんだっ? あれっ? さっきまで毛布に包まれていたはずなのに……あれれ~っ?
カワイが呟いた言葉を頭で理解するよりも先に動いた、俺の体。つまり、カワイの声を理解した時にはもう、俺の体はベッドの上にいなかった。
……結論。俺の彼氏が強すぎる。なんと言うか、それ以外の言葉が出てこないほどに。
理解が及ばずとも、俺の体は既に起床スタイル。さすがにここまで動いたのに『ヤッパリ二度寝します』とは言えない。俺にだって、その辺りの矜持はある。
[『矜持』ですか。まったく、どの口が……]
「もしかしてゼロ太郎、怒ってる?」
と言うわけで、起床だ。約束通りカワイにハグをしてもらった後で、俺とカワイは寝室から出た。
「今日は、初めてアサヅケを作ってみたよ」
「浅漬け? って、どうやって作るの?」
「ポリ袋に入れて出来上がり」
「す、すごくザックリ……」
カワイが作った浅漬け、楽しみだなぁ。気付けば、憂鬱だったはずの気分がルンルンに変わっている。ヤッパリ、家族ってすごいや。
食卓テーブルを見てみると、カワイが言っていた浅漬けを発見。えーっと、これは白菜と……?
[白菜と柚子の皮が入っています]
「初めましての料理だね!」
なるほど、この黄色い物体は柚子の皮か。いつも思うけど、ゼロ太郎はどういう経緯でこういう料理のレシピを見つけてくるんだろう。食べたことのない料理に、俺のワクワクが止まらないじゃないか。
「今日のご飯もおいしそうだね」
「ありがとう。見た目だけじゃなくて、味も込みで自信作」
うんうん、カワイのドヤ顔も込みで最高の気分だ。俺は椅子に座り、早速カワイを見つめる。
そして……。
「……ヒト? どうして、口を開けて待ってるの?」
「あーっ」
「うん。……ヒト?」
「あーっ」
「……あっ。もしかして、あーん?」
ただジッと、カワイからの『あーん』を待つ。このくらいは許されるだろう、ゼロ太郎に。
俺が口を開けてカワイを見つめる意図にカワイ本人が気付いてくれると、魅惑の時間が始まった。
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