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9.5章【未熟な大家のハイスペ披露です(エツ視点)】
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しおりを挟む──どうも、お久し振りのジブンっすよ~。
……えっ? ジブンが誰か、ですって? イヤっすねぇ。糸場エツっすよ。マンションの管理人っす、大家っす。
はてさて、そんな小粋すぎるトークはこの辺りにして。……さぁ! ついに、この日がやって来たっすよ!
「──どうもぉ~。ゼロ太郎さんの定期点検に来ましたよぉ~」
そうっす! ゼロ太郎さんの【定期点検日】っすね!
……おっと。ちゃんとしたご紹介が遅れてすみませんっ。ジブンは糸場エツ、しがないフリーターっす。
子供の頃にちょこぉ~っと機械やらシステムの組み立てやらに熱中しすぎちゃって、気付けば【世界最高峰の人工知能】なんてレッテルが付いちゃうような開発に成功しちゃって。気付けばマンションの大家的ポジションになっちゃってはいますけど、しがないフリーターっす。
[──全然しがなくないですよ、オーナー]
「──ゼロ太郎さんは心を読むことができる、っと」
まさか、玄関で靴を脱ぐと同時に心を読まれるとは。ジブンで作っておいてなんですけど、ゼロ太郎さんはすごいっすね~。
しかし、っす。こうして会話ができたとしても、相手は結局のところ【機械】でして。ジブンはこの子たちを【自分と対等な存在】として扱いたいのですが、悲しきかな、やはり機械は機械。
と言うことで、定期的に各部屋の人工知能さんたちを点検する日が必要になるって話です。……ここまでの流れ、ご理解いただけたっすかね?
[それは誰に向けての説明なのですか? ……と。一応、そんなツッコミを入れた方がよろしいでしょうか]
「あっ、要らないっす。なぜだかこう、無性に悲しくなるので」
ゼロ太郎さんって、こんな感じの子でしたっけ? これはなかなか、今日の点検は楽しいことになりそうっすね。
予想外にも、家主より先に人工知能とトークをすることになるとは。そんな驚きを抱きつつ、ジブンは目の前にいる家主を見上げたっす。
「こんにちは、大家さん。今日はよろしくお願いします」
「追着さん、こんにちはっす。こちらこそ、今日はよろしくお願いしまっすよ~」
ゼロ太郎さんの主こと、追着陽斗さんっすね。いつも遠目にお姿を拝見するだけっすけど、ヤッパリ近くで見るとこう……整ったお顔立ちっす。
追着さんは爽やかな笑顔をジブンに向けてくれた後、眉尻を下げて申し訳なさそうな笑みを浮かべたっす。
「無理を言って午後からの点検にしてもらってすみません」
「あぁ、全然いいっすよ~。午前中だと予定が合わない方もいるので、えぇ」
「うっ、胸が痛い……」
[そうですね。主様の場合、予定はガンガン合いますものね]
むむ? 今、追着さんとゼロ太郎さんがコショコショとなにやら話していたような……? 気にしない方が良さそうっすかね。
そこで、ヒョコッとリビングから姿を現した子が一人。
「エツ、いらっしゃい」
「こんにちは、カワイさん。お邪魔するっすよ~」
「なんだか、エツが部屋にいるのって変な感じ」
追着さんと絶賛同居中の悪魔さん──カワイさんっす。
実は不思議なことに、追着さんよりもカワイさんと会う機会の方が多いんすよね。追着さんとは定期点検の時に会うことはあっても、それ以外は窓越しや遠い距離にお姿を見かけるだけなので。
ですが、カワイさんとはよく会うっす。多いと、週に五回は会うっすね。
それもこれもジブンが、しがないフリーターだからっす。バイト掛け持ちしまくりなので、カワイさんとの遭遇率が上がっているのかと。
実はこちらのカワイさん、家事全般を担っているとか。そういう経緯もあって、カワイさんはお買い物に出る機会が多いんすよね。
[いえ、ですから。しがないフリーターは人工知能の点検はおろか、そもそも私のように有能な人工知能を開発できないですよ]
「ゼロ太郎さんは己が有能だという自覚があるんすね! 嬉しいっす!」
[──どうしましょう。もしかして今日は、ボケ三人に対してツッコミが一人ですか?]
「「「──どういうこと?」」」
よく分かりませんが、なんとなく不名誉な発言を受けたような気がするっすよ。人工知能がそんなこと言うはずないのに、不思議っす。
えーっと、なにはともあれ……コホン! そんなこんなで、今日はゼロ太郎さんの定期点検日っす!
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