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【初恋を食べる悪魔さん】
中
しおりを挟む目の前にいるのは、一人の青年だ。
服装は、スーツ。
整えられた髪形に、清潔感のある佇まい。
人間社会に詳しくはないが、きっと【会社】というところで女の視線を独り占めしているのだろう。そんな印象を、悪魔はこの男に抱いた。
……だが、悪魔は知っている。
──この男が、厄介な人間だということを。
「人間の初恋を食べてくれる悪魔さんって、あなたですよね?」
訊ねながら、男は椅子に座る。
「実は僕、好きになってはいけない相手に恋をしてしまったんです。こんなこと初めてで、苦しくて……っ。だから、お願いしますっ、悪魔さんっ! 僕の初恋を食べてくださいっ!」
そう言い、男は頭を下げた。
この言い回しを、悪魔は知っている。
なぜなら、この館を訪れる人間は全員同じことを言うからだ。
……しかし、違う。
そんな理由で、悪魔はこの男の言葉を知っているのではない。
「お前が好きな奴ってのは、いったいどんな奴なのだ」
悪魔は顔を引きつらせながら、男に訊ねる。
すると男は頬を赤らめて、途端にモジモジと恥じらい始めた。
「フワフワの髪で、色はピンク。額からはツノが二本生えているんです。口を開くと覗く八重歯はまるで牙のようで、だけどそんな獰猛さがとても魅力的で」
「──まるで悪魔のようじゃないか」
「瞳は青色で、なんて言うか宝石みたいで。人間界ではサファイアって言う宝石があるんですけど、それに凄く似ていて。僕のことを見つめるその目は凄く冷たいんですけど、それがまた魅力的って言うか」
「──実に親近感のある特徴だな」
「凄く可愛いのに、だけど男らしくてカッコいいところもあって……! 主食が人間の【初恋】ってところが、またキュンとするんですよねっ!」
「──完全に俺だな」
そう言うと同時に、悪魔はテーブルを強く叩く。
「──クソッ! またお前かッ!」
そんな言葉を添えて。
悪魔の反応を見て、男は小首を傾げた。
「なんですか、その言い方は? まるで、僕が何度もこの館に訪れたことがあるみたいじゃないですか?」
キッと、悪魔は男を睨み付ける。
そして、まるで声量だけで男を追い出そうとしているかのように、悪魔は腹の底から声を出し、怒鳴った。
「──『みたい』じゃなくてそうなんだよッ!」
「──えぇぇッ!」
悪魔は椅子に座り、テーブルを挟んで正面に座る青年へ指を指す。
「お前は憶えていないだろうがなッ、お前がここに来るのは今回で三十回目なんだよッ!」
悪魔の言葉に、青年は目を丸くしている。
その顔にすら腹を立てた悪魔は、指の先を男の額に押し付けた。
「──しかもッ! 全部【俺への初恋を消す】って目的でだッ!」
悪魔の言葉に、男は顔を真っ赤にする。
「えぇぇっ! 僕、三十回もあなたに恋をしているんですかっ! そんなのもう運命じゃないですかっ!」
「そんな運命嫌すぎるわッ!」
悪魔はそう吐き捨て、頭を抱えた。
──同じ人間に、もう一度恋をしてしまう。このパターンを、悪魔は何度も見てきた。
むしろそうなってくれた方が、人間の【初恋】を主食としている悪魔としては、万々歳な展開ですらある。
……だが、さすがにこの男は規格外だ。
何度気持ちを奪っても、何度でも舞い戻ってくる。この男の来館頻度は、他の人間よりも遥かに高かった。
三十回目ともなると、いっそこの男ごと平らげた方が早いのではと思うほどに。
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