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3章【一直線ネゴシエーション】

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 そして、放課後。


「――ごめん」


 秋在の部屋に入るや否や。

 冬総は秋在を、強く……抱き締めた。


「今まで、本当に……ごめん。ごめん、秋在……」


 抱擁だけでは足りないのか、謝罪の言葉も浴びせながら。

 突然抱き締められた秋在は、当然……キョトンとしている。


「どうして謝るの? なにも悪いことはしてないのに」
「秋在を、傷つけたから……ッ」


 冬総の言い分が、秋在には理解できないのだろう。

 それでも冬総は、秋在に謝りたかったのだ。


「さっき……秋在は俺をいい人みたいに言ってくれたけど、実際は違う。俺は、優しさで嘘を吐いていたんじゃない。……俺は、自分の保身だけで……秋在と付き合ってないって、嘘を吐いた」


 ――ただただ、自分が『正常だ』と思われるために。

 ――秋在への迷惑を、一切考慮せず。

 秋在を抱き締める腕に、冬総は力を込めた。

 そうすると、秋在がくぐもった声を漏らす。


「――これからは?」


 秋在の声に。

 冬総は、秋在の顔が見えるように、距離を開く。


「これからは、ウソ……吐くの?」


 責めている目では、ない。

 かと言って、悲しんでいる目でもなかった。

 ――純粋な、興味。

 夏形冬総という男が、今後……どう振る舞って、どう生きるのか。

 そこに対する、曇りのない疑問をたたえた目だ。

 大きなクリーム色の瞳から、冬総は目を逸らさない。

 ハッキリと、真っ直ぐに。


「――吐かない」


 冬総は、答えた。


「俺はこれから、嘘を吐かない。秋在を一番大切にするし、秋在を好きな俺も大切にする。……ずっと、秋在と一緒にいられる俺を。俺と一緒にいてくれる秋在を、大事にしたい」


 お互いの顔を、しっかりと見つめたまま。

 冬総は茶化す様子を見せず、真剣に伝える。


「秋在、大好きだ。これからは……これからこそ、秋在を守りたい。秋在を、絶対に守る。一番大切にする。だから……だから俺と、付き合ってほしい」


 秋在の表情は、感動している様子ではない。

 怒っているわけでも、喜んでいるわけでもなく。

 いつもと同じ……無表情に近い表情だ。


「ボクはこれからも、変わらないよ。きっと、フユフサはボクを理解できない。……そしてボクも、フユフサのことを分からないままだと思う」


 そこで言葉を区切り。

 秋在がおもむろに、冬総へ抱き着く。


「――それでも、ずっと……変わらず、一緒にいてほしいな」


 秋在が変わってしまったら、冬総はどう思うのだろう。

 きっと……それは悲しいのかもしれない。

 だけど、それでも……。

 ――冬総は変わらず、秋在が好きなままなのだろう。

 そのことに気付いているのか……秋在は『変わらない』と言ってくれた。

 冬総以外の人からすると、些細な言葉だったかもしれない。

 だが、その言葉は。

 ――冬総が秋在に惚れ直すのには、十分すぎる言葉だ。

 小さな体を、冬総は抱き締め返す。


「……こっちの台詞だっつの」


 だらしなくゆるんだ口角を、見られないために。




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