上 下
66 / 183
4章【不時着サプライズ】

12

しおりを挟む



 放課後になると、秋在はバイト先まで冬総について来ていた。

 秋在の表情は、いつもと変わらず……どこか、ボーッとしている。

 だが。


(秋在……もしかして、寂しがってるのか……?)


 冬総から見ると、どことなく……寂し気に見えたのだ。

 バイトを始めたのは、秋在へのプレゼントを用意する為。

 そして、誕生日当日のデート費用も調達したいからだ。

 この行動は全部、秋在を想ってしていること。

 なのに……冬総はなんだか、悪いことをしている気分になっていた。


「今週でバイト終わるから。……な?」


 そう言い、冬総は秋在の首筋を撫でる。

 消えかけると、秋在は冬総に新しいキスマークを強請った。

 秋在の首には最近いつも、キスマークがついているのだ。

 首筋を撫でられた秋在はジッと、冬総を見上げる。


「もう一個つけて」
「……ここでか?」
「できないの?」


 【モラル】という言葉が未だに健在な冬総は当然、逡巡した。

 しかし、相手は秋在だ。


「分かった。……ちょっと痛いけど、我慢な?」


 秋在の首筋に顔を寄せ、冬総は唇をあてる。

 そして、痕を残すために……秋在の首筋を強く、吸った。

 一瞬の痛みにも、秋在は動じない。

 顔が離れると、秋在は冬総の腕を掴み、別のお願いを口にする。


「明日からは、毎日つけて」
「……気に入ったのか?」
「それは、分かんない。……初めてだから」
「そっか。……いいよ、分かった」


 約束を交わすと、秋在は満足したらしい。

 手を振って、帰路についた。

 秋在を見送った後、冬総は入り口からコンビニに入店する。

 すると……レジに立っていた先輩が、ニヤニヤとした笑みを浮かべて冬総を見ていた。


「よっ、夏形くん! 見せつけてくれるなぁ?」
「……お、お疲れさまです」
「どうせここのバイトも、あの子の為のプレゼント費用とかだろ? はぁ、ラブラブだな、このヤロウ!」
「あー……えっと、ありがとう、ございます?」


 なんとなく照れ臭くなり、冬総は頭を掻く。

 そんなウブな反応に気を良くしたのか、先輩は笑う。


「プレゼント、喜んでもらえるといいな?」
「……はい。本当に」


 ふと、冬総はついさっき見送ったばかりの秋在を思い出す。

 秋も深まり、外は涼しくなってきたというのに……秋在は、防寒をしない。


(せめて、もうちょっと……防寒っぽいことしてくれたらなぁ……)


 キスマークの付いた、秋在の首筋。

 付けたのが自分なだけに、そこが見える度に……冬総は、秋在を抱き締めたくて仕方なかった。


(抱き締めるだけで満足するのかって言うと、それはなんとも言えないけど……)


 これから毎日、キスマークを付ける。

 そう考えると……秋在から愛を求められて、大いに嬉しい反面。

 ……ちょっとだけ、気が重たくなった。




しおりを挟む

処理中です...