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10章【生誕祭プロブレム】

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 バスに揺られながら、冬総は秋在にもたれかかっていた。


「あのさ、秋在。……お願いがあるんだけど、いいか?」


 もたれかかることはあっても、逆は初めて。

 秋在はピシッと背筋を伸ばしながら、冬総を見た。

 そのまま頷き、冬総からの言葉を待つ。


「……誕生日、おめでとうって言ってくんない?」
「うん。……フユフサ。誕生日、おめでとう」
「ん、ありがと、秋在」


 秋在の肩に、冬総はグリグリと額を寄せる。


「あー……ヤベェ。今日、一番嬉しい……」


 たまたま持っていたエコバックから、溢れんばかりに姿を覗かせるプレゼントの山。

 それらだって十分嬉しいが、冬総にとっては秋在からの言葉こそ至高。

 へらりと、弱々しい笑みを冬総は浮かべる。

 秋在は、人と話すことをあまり好まない。

 だからこそ、冬総が誕生日を祝福してくれた人全員へ丁寧にお礼を言う労力は、想像もできなかった。

 秋在は俯き、ポツポツと呟く。


「……プレゼント、なんだけど。……お願いされた通りに、してみた。……嬉しい?」
「ン?」


 冬総は顔を上げて、俯く秋在を見つめる。


(……俺、なんかお願いしたっけ……?)


 物が欲しいとは、言っていない。

 ましてやなにをしてほしいとも、言った記憶がなかった。

 冬総が小首を傾げると、秋在は続けて呟く。


「――悩むボクがいいって、言ってたでしょ? ……嬉しかった?」


 不安げに、秋在は冬総を見つめた。

 そこでふと、冬総は秋在とのやり取りを思い出す。


『【嬉しい】の中でも、上の方のものを教えて』

『しいて言うなら……そうやって、俺のために悩んでくれてる秋在、かな』


 まさか、と。

 冬総は内心で、盛大に驚く。


(あの言葉を……秋在は、そう受け止めたのか……?)


 勿論、プレゼントとして求めたつもりではなかった。

 冬総にとってあの言葉は、欲しいものではない。

 ただ、それだけで十分幸せだと。そういう意味で伝えた言葉だった。

 しかし、秋在との間に齟齬が生じていたのは事実。


「……ボク、うまくできてなかった……かな?」


 不安そうに、冬総を見つめている。

 この秋在の姿こそが、なによりの証拠だ。


(だから、秋在はずっと……ムッとした顔をしてたのか……?)


 そう考えると。


「――すげェ、幸せ……ッ」


 ――愛しさが、込み上げてきた。

 例え、勘違いだとしても。

 抽象的で、意味が分からなかっただろうに。

 秋在は冬総のため、忠実に遂行しようとしたのだ。

 そんな秋在に対して、呆れや落胆なんて感情が浮かぶわけがない。

 冬総は再度、秋在にもたれかかる。


「秋在、もう一個お願い。……好きって言ってくんないか?」
「フユフサ。大好き」
「ん、サンキュ。……俺も、大好きだ」


 体を密着させ。

 それでは足りないかのように、手を握り。

 冬総は、自分が向けられる最大の愛情を……愛しい恋人へ、贈り続けた。




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