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終章【恋模様シーイング】

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 そうして迎えた、翌日の登校日。

 手を繋いで登校していた秋在と冬総の横に、季龍が並んだ。


「おっはよ~、お二人さん! いや~、進級早々イチャイチャするんじゃね~よって感じなんだが~?」
「はよ、四川。……なんだよ、嫉妬は見苦しいぞ」
「じゃあ冬総は、俺が春晴くんの手を握っても嫉妬しないんだな~?」
「は? するに決まってんだろ、なに言ってんだ」
「ハハハッ、サッサと爆発しろ~」


 そんな三人の横を、女子生徒が通り過ぎていく。


「おはよう、夏形くん!」
「同じクラスになったらよろしくね~!」
「おう。そんときは、よろしく」


 女子生徒に軽く挨拶を返すと、秋在がわざとらしいふくれっ面を浮かべた。

 が、そのことに気付いたのは季龍だけだったので……当然、閉口。

 そのまま雑談を交わしつつ、三人はクラス替えの一覧が載っている広場へと向かう。


「え~っと、二年生の欄は……っと?」
「「…………」」
「いや、二人とも~? そんなガチガチに緊張することないんじゃ~……?」


 クラス替えの表を眺めて、冬総と秋在はお互いの手を強く握っている。

 その様子に内心で呆れつつ、季龍は指を指した。


「ホラ、こっちの欄だって。……う~ん? オレたちの名前は……?」


 ゆっくりと、掲示板を眺める。

 ――そして。


「――ま~、そうだよな! うんうん、知ってた知ってた!」


 季龍が、呆れ返った様子で声を張り上げる。

 ……と、同時に。


「――ィヨッシャァアアッ!」


 冬総が、周りの目を気にすることなく、大声で叫んだ。

 三人が見た、クラス替えの一覧。

 ――そこには。

 ――同じクラスに、三人の名前が書かれていた。

 ガッツポーズをとっている冬総を見て、季龍は苦笑する。


「オイオイ、冬総~? もしかしてお前、入試合格より喜んでるんじゃないか~?」
「比にならねェってのッ!」
「お前らしいわ~」


 季龍に返事をした後、冬総は隣に並ぶ秋在を見た。

 秋在は、大きなクリーム色の瞳をパチパチと瞬かせている。


「秋在、秋在!」


 そんな秋在の名前を呼び、冬総は満面の笑みを向けた。


「また一年、よろしくな!」


 冬総からの、明るい声。

 その声に対し、秋在は……。


「…………っ」


 ムッと、不満そうな表情を浮かべた。

 素早く手を解かれ、秋在がそのまま立ち去ってしまう。

 愕然と、冬総は秋在の背中を眺めた。


「も、もしかして……秋在はヤッパリ、俺と一緒のクラスになりたくなかったのか……ッ?」
「いや、それはないだろ~?」
「ならどうして……ッ!」


 天国から地獄へと急転直下した友人を見て。

 季龍は不毛ながら、助け船を出す。


「あ~……浮かれまくって、失言したんじゃね? 例えば……今、冬総は【一年】って限定しただろ? それがイヤだったとか――」
「ハッ! あ、秋在ーッ! 違うッ、違うぞッ、秋在ーッ!」


 そう叫びながら、冬総は秋在を追いかける。


「や~い! リア充爆発しろ~!」


 慌ただしい二人を見て、周りの生徒は笑っていた。

 秋在と冬総は、校内でも有名な恋人同士。

 そんな二人がまた、同じクラスだというのなら……。

 ――きっと、騒がしくも目まぐるしい一年が、始まるのだろう。

 そんな予感を、季龍を含めた周りの生徒は……漠然と、抱いていたのだから。





終章【恋模様シーイング】 了




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