地獄への道は善意で舗装されている

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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5章【身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ】

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 返された言葉を聴き、今度は山吹が眉を寄せる番だ。


「……なんですか、その【方法】って?」


 途中で止められた、肝心の方法。まるでナゾナゾのような言い回しに、山吹の興味は悔しいことに向いてしまう。

 寝返りを打ったことにより、髪が顔にかかってしまった。桃枝は山吹の顔にかかった髪を指で払いながら、特にもったいぶることもなく答える。


「自分が信頼するんだよ。誰かのことをな」
「それ、矛盾していませんか?」
「だけど、道理だと思わないか?」
「……どう、でしょうね」


 それこそ、桃枝が自分に設定している座右の銘だろうか。なかなか前向きで、どこか桃枝らしい言葉な気もする。

 相手からなにかを与えられたいのならば、自分から相手に与えろ。砕けば、そういった意味の言葉だろう。

 普段の山吹なら、気に留めなかったかもしれない。さらに言うのであれば、あざとく上目遣いをしながら『でも、なにはともあれボクのことを先に信じてくれますよね?』などと言ってのけただろう。山吹は、そういう打算まみれの男なのだから。

 だが、しかし……。


「ボクはバカですし、仕事の要領も良くないですし、空気が読めないときもありますし、ついつい課長にイジワルしちゃいますし、そもそも課長と違って前も後ろも中古品ですけど。……でも、ボクのそばにいてくれて、ありがとうございます」


 今の山吹は、普段と少しだけ違った。
 笑うでもなく、怒るでもなく、泣くでもなく。山吹の瞳は、真剣そのもの。この反応は、桃枝にとっても予想外だったのだろう。


「なんだよ、いきなり?」
「ボクは課長と違って言葉足らずな男ではないので、気付いたら都度、感謝を口にしたいんですよ」
「へぇ、そうかよ」


 最近の自分が『おかしい』と、山吹は気付いていた。無意識のうちに、桃枝から与えられることを『当然』と思っていた節も否めない。
 桃枝に期待を向けて、応えられなくて。憤り、悲しんだこともあった。だが、それはお門違いだったのだ。

 そもそも山吹は、桃枝になにも与えていない。それなのに、桃枝にばかり期待を向けるのは酷薄な話だ。
 だから、今までの期待に対する謝罪の意も込めて。山吹から向けられた言葉をどう解釈したのか、なぜか山吹は、桃枝に頭を撫でられてしまった。


「俺はな、山吹。昨日の自分に、胸を張れるか。お前と出会って、お前と話すようになって……そんなことを思うようになった」
「課長……?」
「だから、なんだ。つまり……こちらこそ、ありがとな」


 早速、返されてしまったらしい。誰の名言かは知らないが、なかなかいい言葉だ。山吹は桃枝の手を頭から離しつつ、内心で深く頷いた。

 そこで、ひとつ。山吹は、大切なことを思い出した。


「……あの、課長。ひとつ、訊いてもいいですか?」
「なんだよ」


 訊くなら、今しかない。このままではきっと、いつまでもズルズルと引きずってしまいそうだから。
 そして、なによりも……。


「──バレンタインの日。どうしてボクのチョコを食べた後、課長はボクを睨んだんですか?」


 同じ失敗を、したくないから。
 山吹は桃枝の手を掴んだまま、その無垢な瞳に驚愕の表情を映した。




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