地獄への道は善意で舗装されている

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

文字の大きさ
214 / 466
7章【過ちて改めざる是を過ちと謂う】

37

しおりを挟む



 黒法師だけではなく、山吹にも衝撃が奔る。


「ちょっと、えっ? 課長、なにを言って?」
「お前がアイコンタクトを送ったんだろ。『コイツに見せつけてくれ』って」
「ボクそんなアイコンタクトは送っていないです」


 受信失敗。鈍感と天然を組み合わせた桃枝のトンデモ発言により、山吹の顔はみるみるうちに赤くなっていく。

 だが、この場にいるのは山吹と桃枝だけではない。黒法師は一度、手のひらを二人に向けた。

 熟考すること、数秒。ようやく、黒法師が口を開く。


「……あぁ、なるほど。そう言うことやったんやね。だから僕が年末に聞いたお見合いの詳細を、年始に帰省した白菊は聞いてないんやな」
「どういう意味だよ、それ」
「先手を打ってカミングアウトされたら、絶句してお見合いの話なんてしてられへんやろが」
「なんだよ、その解釈。俺の家は同性とかそういうのに偏見がないんだぞ。いいことだろうが」
「そういう意味の【絶句】とちゃうわ」


 なにやら、黒法師は納得したらしい。未だに平然としている桃枝に、軽快なツッコミを入れられるくらいには。

 となると、この場で依然として狼狽えているのは山吹だけだ。


「課長、あのっ。ボクのこと、ご家族に話したんですかっ?」
「あぁ、話したぞ。『部下と真剣に交際中だ』ってな。相手が年下なことも、男だってことも全部話した」
「正直すぎますって!」


 まさか、知らない間にそこまで話されていたとは。友人一人にカミングアウトされるぐらい、可愛い話ではないか。

 そっと、山吹は桃枝から距離を取る。唐突に恥ずかしさが胸を締め、くっついていられるような精神状態ではなくなったからだ。


「もう離れるのか?」
「離れますよ、バカ……っ」
「昨日からお前は俺のことを蔑みすぎじゃねぇか?」
「だって、ご家族に話すなんて。そんなの、まるで……っ」


 交際を越えた関係性を、示唆されているようで。山吹は俯き、二人からプイッと体を背けた。


「とっ、とにかくっ! 話が脱線してしまいましたが、黒法師さんを駅までお送りしましょうっ!」
「あっ、ええの? おおきにーっ」
「ただし! 課長にガソリン代と手間賃は払ってください!」
「しっかりした子を彼氏にしたなぁ、白菊?」
「だな」


 今は、保留にしよう。両親に存在を明かされただけで、なにも紹介をされたわけではないのだ。山吹はそそくさと、桃枝が車を停めた地点まで歩き始める。

 分かっていたようで、分かっていなかった。桃枝がどれだけ、山吹に対して本気なのかを。図らずも知ってしまい、山吹は気持ちの整理がつけられなかった。

 自分はまだ、桃枝に言葉を返せていないのに。それなのにどんどん、桃枝は先に進んでいってしまっている。


「山吹、待て。そんなに急ぐと転ぶかもしれねぇだろ」


 隣に並び、桃枝は厳しい表情を向けてきた。山吹は顔を上げて、すぐにその仏頂面を見つめる。
 早く、早く。この人に、自分の気持ちを……。


「なに見つめ合っとるん? せめて、僕を送ってからイチャついてくれへん?」
「見世物じゃないです」
「山吹君の嫌そうな顔、ホンマそそるわぁ~っ」


 こうして焦ってしまっているのも、まさか黒法師の術中なのか。八つ当たりのようにそんなことを考えながら、山吹は助手席の扉を開いた。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

女子にモテる極上のイケメンな幼馴染(男)は、ずっと俺に片思いしてたらしいです。

山法師
BL
 南野奏夜(みなみの そうや)、総合大学の一年生。彼には同じ大学に通う同い年の幼馴染がいる。橘圭介(たちばな けいすけ)というイケメンの権化のような幼馴染は、イケメンの権化ゆえに女子にモテ、いつも彼女がいる……が、なぜか彼女と長続きしない男だった。  彼女ができて、付き合って、数ヶ月しないで彼女と別れて泣く圭介を、奏夜が慰める。そして、モテる幼馴染である圭介なので、彼にはまた彼女ができる。  そんな日々の中で、今日もまた「別れた」と連絡を寄越してきた圭介に会いに行くと、こう言われた。 「そーちゃん、キスさせて」  その日を境に、奏夜と圭介の関係は変化していく。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

ヤンキーDKの献身

ナムラケイ
BL
スパダリ高校生×こじらせ公務員のBLです。 ケンカ上等、金髪ヤンキー高校生の三沢空乃は、築51年のオンボロアパートで一人暮らしを始めることに。隣人の近間行人は、お堅い公務員かと思いきや、夜な夜な違う男と寝ているビッチ系ネコで…。 性描写があるものには、タイトルに★をつけています。 行人の兄が主人公の「戦闘機乗りの劣情」(完結済み)も掲載しています。

処理中です...