地獄への道は善意で舗装されている

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

文字の大きさ
284 / 466
9章【負うた子に教えられる】

19 *

しおりを挟む



 宣言通り、山吹の手が桃枝の脇腹を弄り始めた。
 こちょこちょ、さわさわ、こしょこしょ。山吹の指が、桃枝の上半身をくすぐる。

 ……おそらく、山吹の目には桃枝がくすぐったそうにしているとは見えていないだろう。当然だ。桃枝は全く『くすぐったい』と思っていないのだから。


「や、山吹、その……ッ」


 山吹が、抱き着いてくれている。山吹が、自らの意思で桃枝にじゃれついてきてくれているのだ。桃枝にとってむしろ、この状況は【ご褒美】だった。

 いけない。鎮まれ、心臓。上がるな、口角。桃枝は必死に、自分が持てる理性を総動員させる。

 やがて、山吹は『桃枝をくすぐっても意味がない』と察したのだろう。楽しそうに細められていた瞳はなぜか別の意味で細められ、挙句の果てに憐れみを含み始めた。


「課長って、こっちも鈍いんですね……」
「なんで俺は好きな奴から憐れむような目を向けられてんだ?」


 始めたのは山吹のくせに、その反応はあんまりである。悲しい気持ちになった桃枝は、この空しさこそがお仕置きなのかと思い始めた。

 山吹は桃枝にくっついたまま、ガッカリした様子でため息を吐く。……その時だ。


「まったく、課長は本当に──……って、あれっ? ごめんなさい、なにかが当たって……」

「──ッ!」
「──あっ」


 さて、不必要だとは思うが現状を説明しよう。

 桃枝は現在、紆余曲折を経てようやく両想いになれた恋人に密着されている。相手は自分からの接触を苦手とし、なかなか自分からは物理的に甘えてくれない相手だ。

 そんな恋人から密着され、体中をまさぐられ、駄目押しに魅力的な匂いまで感じて……。さて、健全且つ他称『むっつりさん』な桃枝はどうなる?

 答えは……山吹の、にまぁ~っとした笑顔だ。


「──ボクには敏感ですね、課長?」
「──うるせぇ……ッ」


 山吹の下半身を押しのけるかのように、桃枝の体のとある一点が存在を主張し始めた。硬いソレに気付いた山吹は、なぜかくすぐりをしていた時よりも満足そうだ。


「そうですよね、課長はこういうお仕置きの方が堪えますよね? 分かりました、切り替えますね。まったく、課長はむっつりさんなんですからっ」
「頼むから活き活きするんじゃねぇ……ッ」

「それでは期待に応えて、課長の素直なペニスにお仕置きしちゃいますね? あぁでも、それだとご褒美になっちゃうでしょうか? ……まぁ、いっか。失礼しまぁ~す」
「本当に失礼な──く、ッ」


 こうなると、山吹のペースだった。当然だ。桃枝とは経験値が違う。

 山吹はお仕置きの方向性を切り替えると、それはもう慣れた手つきで桃枝の下半身を攻め始めた。前を寛がせ、隆起した逸物をすぐさま取り出したのだ。

 こう言ってはなんだが、いっそ尊敬ものだった。こうもスマートに卑猥な空気を作り、あまつさえ行動に移せるとは……。現実逃避をしようとしているのか、脳内で呑気な桃枝が腕を組み、頷いている。

 しかし、前述した通り感心するのは【現実逃避】だ。


「ボクにくっつかれて、体をまさぐられて……コーフン、しちゃいました?」
「やめろ、山吹……っ。先端を、指で撫でるな……ッ」

「先走りの液がボクの指を濡らして、動かすとクチュクチュっていやらしい音が鳴りますね? 課長の、えっち」
「耳元で囁くな、エロガキ……ッ!」


 山吹が、桃枝のペニスを扱いている。僅かな現実逃避ではカバーしきれないほど、蠱惑的な状況だ。

 桃枝は必死に呼吸を整えようとしながら、無意識のうちに山吹の体を抱き寄せた。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

ただの雑兵が、年上武士に溺愛された結果。

みどりのおおかみ
BL
「強情だな」 忠頼はぽつりと呟く。 「ならば、体に証を残す。どうしても嫌なら、自分の力で、逃げてみろ」  滅茶苦茶なことを言われているはずなのに、俺はぼんやりした頭で、全然別のことを思っていた。 ――俺は、この声が、嫌いじゃねえ。 *******  雑兵の弥次郎は、なぜか急に、有力武士である、忠頼の寝所に呼ばれる。嫌々寝所に行く弥次郎だったが、なぜか忠頼は弥次郎を抱こうとはしなくて――。  やんちゃ系雑兵・弥次郎17歳と、不愛想&無口だがハイスぺ武士の忠頼28歳。  身分差を越えて、二人は惹かれ合う。  けれど二人は、どうしても避けられない、戦乱の濁流の中に、追い込まれていく。 ※南北朝時代の話をベースにした、和風世界が舞台です。 ※pixivに、作品のキャライラストを置いています。宜しければそちらもご覧ください。 https://www.pixiv.net/users/4499660 【キャラクター紹介】 ●弥次郎  「戦場では武士も雑兵も、命の価値は皆平等なんじゃ、なかったのかよ? なんで命令一つで、寝所に連れてこられなきゃならねえんだ! 他人に思うようにされるくらいなら、死ぬほうがましだ!」 ・十八歳。 ・忠頼と共に、南波軍の雑兵として、既存権力に反旗を翻す。 ・吊り目。髪も目も焦げ茶に近い。目鼻立ちははっきりしている。 ・細身だが、すばしこい。槍を武器にしている。 ・はねっかえりだが、本質は割と素直。 ●忠頼  忠頼は、俺の耳元に、そっと唇を寄せる。 「お前がいなくなったら、どこまででも、捜しに行く」  地獄へでもな、と囁く声に、俺の全身が、ぞくりと震えた。 ・二十八歳。 ・父や祖父の代から、南波とは村ぐるみで深いかかわりがあったため、南波とともに戦うことを承諾。 ・弓の名手。才能より、弛まぬ鍛錬によるところが大きい。 ・感情の起伏が少なく、あまり笑わない。 ・派手な顔立ちではないが、端正な配置の塩顔。 ●南波 ・弥次郎たちの頭。帝を戴き、帝を排除しようとする武士を退けさせ、帝の地位と安全を守ることを目指す。策士で、かつ人格者。 ●源太 ・医療兵として南波軍に従軍。弥次郎が、一番信頼する友。 ●五郎兵衛 ・雑兵。弥次郎の仲間。体が大きく、力も強い。 ●孝太郎 ・雑兵。弥次郎の仲間。頭がいい。 ●庄吉 ・雑兵。弥次郎の仲間。色白で、小さい。物腰が柔らかい。

欠けるほど、光る

七賀ごふん
BL
【俺が知らない四年間は、どれほど長かったんだろう。】 一途な年下×雨が怖い青年

処理中です...