297 / 466
10章【疾風に勁草を知る】
3
しおりを挟む山吹とは対照的にどこか楽しそうな青梅は、コテンと小首を傾げた。
「ってか、随分と印象変わったな。なにその髪色? ハデすぎない? アンタ、確か事務職に就いてなかったっけ? なに、人間関係でトラブッた?」
「オマエには関係ない。……あと、学生の頃と比べて変わったのはオマエだって同じでしょ。耳が可哀想」
「マジ? アンタがオレに同情するとか、天変地異の前触れじゃね?」
「誰がいつオマエに同情したんだよ。オマエを育ててくれたご両親に同情したつもりなんだけど」
なかなか、青梅は去りそうにない。山吹はふいっと視線を外し、全身で『拒絶』のオーラを放ってみる。
「アンタ、この辺に住んでんの? 電車苦手だったし、乗って来たとは考え難いっつぅか……もしかして、誰か待ってる感じ?」
だが、効果はなかったようだ。
青梅はキョロキョロと辺りを見回し、山吹が待っていると思しき人物を探し始める。
青梅のわざとらしい動きにはツッコミを入れず、山吹はツンとした態度を示し続けた。
「ボク、さっきも『オマエには関係ない』って言ったはずなんだけど。いいから、早くどっか行ってよ」
「……アンタ、もしかして電車に乗った? 顔色、すっげぇ悪いけど」
「っ。……放っておいてよ、どっか行って」
腹立たしいことに、青梅はいつだって目敏い男だ。不愉快極まりないが、巧くかわせそうになかった。
仕方なく、山吹は青梅に視線を向ける。ここは素直に会話をし、早急に満足してもらった方がいいと踏んだからだ。
「オマエこそ、誰かと約束してたんじゃないの。サッサと合流したら?」
「や、ぜーんぜん。ちょっとブラついてただけー」
「サイアク……」
「そりゃ良かったな。今が最悪なら、後は良くなる一方ってことじゃん」
こうなると分かっていれば、休憩なんてせずにすぐさまスーパーへと向かったのに。自らの選択を悔やみながら、山吹は青梅を睨んだ。
「──言っておくけどボク、もう不特定多数の男女と寝るつもりはないから」
触れたくない話題だが、きっと青梅がしたいのはこの手の話題に決まっている。山吹は眉を寄せながら、青梅を睨み付けた。
「分かったなら、サッサとどっか行ってよ。ボクの顔色、悪く見えてるんでしょ? だったら空気読んでよ」
「まるでオレがアンタを抱くために声を掛けた、みたいな言い回しに聞こえなくもないけど……。まぁ、それはどうでもいっか」
ガリガリと後頭部を掻きつつ、青梅は山吹を見下ろす。
「っつぅか、なんじゃそりゃ。随分とお高く止まったじゃん? ワンナイト至上主義~みたいなアンタらしからぬ発言だけど、頭大丈夫? それとも、心境の変化でもあったわけ?」
「……まぁ、ちょっとね」
「はぁ? ナニソレ、ジョークにしては全然振るってないんじゃないの?」
すると、次の瞬間。
「──今さらなにカマトトぶってんだよ、クソビッチが」
青梅に、肩を掴まれた。なかなかに、強い握力で。
「別に要件はセックスじゃなかったけど、なんか面倒臭いからそれでもいいや。……あのさ、山吹。アンタはずっと、オレの性処理玩具でいたらいいんだっての。分かるっしょ、それくらい?」
「なに──」
「──アンタ、自分がどんな育ち方したのか忘れたわけ?」
なぜ、そんなことを青梅から言われなくてはならないのか。
……たかが、高校時代のクラスメイトのくせに。山吹は肩を掴まれたまま、怯まずに青梅を睨み続けた。
20
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!
中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。
無表情・無駄のない所作・隙のない資料――
完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。
けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。
イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。
毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、
凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。
「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」
戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。
けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、
どこか“計算”を感じ始めていて……?
狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ
業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!
ハイスペックED~元凶の貧乏大学生と同居生活~
みきち@書籍発売中!
BL
イケメン投資家(24)が、学生時代に初恋拗らせてEDになり、元凶の貧乏大学生(19)と同居する話。
成り行きで添い寝してたらとんでも関係になっちゃう、コメディ風+お料理要素あり♪
イケメン投資家(高見)×貧乏大学生(主人公:凛)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる