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第十九章 卒業できない
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留学を始めて幾星霜が経ち、エジンバラで獲得した単位をウィーンに持ち帰り、大使館でのインターンを終えてなお、僕の卒業は遠く難しいものでした。
卒業に関しては、高校の卒業式にも苦い思い出があります。
その日、僕は卒業証書を学長から受け取るために壇上に上がり、自分の名前が呼ばれるのを待っていました。
中高一貫校だったので、六年間お世話になった母校に別れを告げるとても感慨深い日でした。
壇上の端で待つ卒業生は自分の名前が呼ばれると、何かしらのショートパフォーマンスをしてから学長の元に向かいました。
もちろんマナー違反なのですが、生徒の中では「最後の日にそういうことのできるヤツがクール」とされていました。
マイケル・ジャクソンファンの僕はもちろん、ムーンウォークをして学長のところに行こうと心を決めていました。
しかし、いよいよ僕の名前が呼ばれると思ったら、壇上に立っている僕を差し置いて、まだ壇のしたで待機している次の生徒の名前が呼ばれました。
一年間留学していたからかも知れませんが、僕は六年間ずっと担任をしてくれていた恩師に存在を忘れられてしまったのです。
後日学校から送られてきた記念ビデオからも僕のシーンはカットされているため確認することは叶いませんが、その日どんなパフォーマンスをした生徒よりも、僕の『呼ばれないこと』の方が笑いを取ったのは事実です。
さて、僕の行っていたウィーンの大学の修士課程は最短で二年かかります。
最短です。
補習授業を担当していたエリートで、しかもハーフの先輩くらいしか、二年で卒業できる人なんていません。
現地生ですら何年もかかって卒業するのに、外国人の僕がたった二年で卒業できるわけがないのです。
そして、論文を提出して卒業に王手をかけても、僕の学科では残酷すぎる試練が待っています。
卒業試験。
三か国語の専門文書を翻訳するこの試験をパスしなければ学位をえることはできないのです。
そしてこの正真正銘最後の試験にも、最大受験回数が設けられています。
つまり、何年も努力してやっとつかみかけた栄光も、試験に四回落ちれば、『退学』という名のもとに一瞬にして幻と消え去ってしまうのです。
ウィーンという街は、音楽の都としても有名で、かつて名だたる音楽家たちがこの街に夢を抱き、終の棲家としてきました。
しかしその多くが、あのベートーベンやモーツァルトまで、ウィーンの冬の寒さと暗さに心を病んでいきました。
そしてウィーンの冬は僕の心も確実にむしばんでいきました。
癒しを欲してモルモットを飼っていたのですが、失恋と卒業試験の三度目の不合格でボロボロとなった僕の心の機微を感じたのか、僕を残しこの世を去りました。
生物学科の友だち曰く、モルモットもウサギと同じでさみしさゆえに死んでしまうらしいです。
四度目、つまり退学のかかった試験に申し込んだとき、僕の精神は完全に崩壊していました。
実はエジンバラ留学に出発する前日、つまり四度目の試験の約一年前、悪友が留学記念にと、合法ドラッグをくれて、オーストリアの白ワインを片手に、『チラックス』していました。
本当に悪い癖です、調子に乗った僕は、規定の量を超えてカプセルを摂取します。
合法と言えど、精神の弱い僕は最高にハイとなり、覚醒したままスコットランドへ向かうこととなりました。
それで終わっていれば若気の至りで済んだのですが、ハイになって一年以上が経ち、最終試験の勉強に追われ精神的にも消耗しきっていたころ、不幸な出来事が起きました。
大学のエレベーターに一人で閉じ込められたのです。
もともと閉所恐怖症だったのですが、狭い空間から出られなくなった恐怖と孤独感から、これまで経験したこともなかったフラッシュバックに襲われました。
数分後には外から開けてもらったのですが、そのころには僕の心は完全に折れ、試験のことを考えるだけでパニックになり、精神科医にも通う羽目になってしまったのです。
「心配なら勉強しろ」
高校の先生が期末テスト前に言っていたことを思い出し、パニックにならないよう、僕はひたすら勉強しました。
そして友だちと日本語学科の先生の支えを受け、四度目のトライにして、最後の最後になんとか卒業試験をパスすることができたのです。
卒業に関しては、高校の卒業式にも苦い思い出があります。
その日、僕は卒業証書を学長から受け取るために壇上に上がり、自分の名前が呼ばれるのを待っていました。
中高一貫校だったので、六年間お世話になった母校に別れを告げるとても感慨深い日でした。
壇上の端で待つ卒業生は自分の名前が呼ばれると、何かしらのショートパフォーマンスをしてから学長の元に向かいました。
もちろんマナー違反なのですが、生徒の中では「最後の日にそういうことのできるヤツがクール」とされていました。
マイケル・ジャクソンファンの僕はもちろん、ムーンウォークをして学長のところに行こうと心を決めていました。
しかし、いよいよ僕の名前が呼ばれると思ったら、壇上に立っている僕を差し置いて、まだ壇のしたで待機している次の生徒の名前が呼ばれました。
一年間留学していたからかも知れませんが、僕は六年間ずっと担任をしてくれていた恩師に存在を忘れられてしまったのです。
後日学校から送られてきた記念ビデオからも僕のシーンはカットされているため確認することは叶いませんが、その日どんなパフォーマンスをした生徒よりも、僕の『呼ばれないこと』の方が笑いを取ったのは事実です。
さて、僕の行っていたウィーンの大学の修士課程は最短で二年かかります。
最短です。
補習授業を担当していたエリートで、しかもハーフの先輩くらいしか、二年で卒業できる人なんていません。
現地生ですら何年もかかって卒業するのに、外国人の僕がたった二年で卒業できるわけがないのです。
そして、論文を提出して卒業に王手をかけても、僕の学科では残酷すぎる試練が待っています。
卒業試験。
三か国語の専門文書を翻訳するこの試験をパスしなければ学位をえることはできないのです。
そしてこの正真正銘最後の試験にも、最大受験回数が設けられています。
つまり、何年も努力してやっとつかみかけた栄光も、試験に四回落ちれば、『退学』という名のもとに一瞬にして幻と消え去ってしまうのです。
ウィーンという街は、音楽の都としても有名で、かつて名だたる音楽家たちがこの街に夢を抱き、終の棲家としてきました。
しかしその多くが、あのベートーベンやモーツァルトまで、ウィーンの冬の寒さと暗さに心を病んでいきました。
そしてウィーンの冬は僕の心も確実にむしばんでいきました。
癒しを欲してモルモットを飼っていたのですが、失恋と卒業試験の三度目の不合格でボロボロとなった僕の心の機微を感じたのか、僕を残しこの世を去りました。
生物学科の友だち曰く、モルモットもウサギと同じでさみしさゆえに死んでしまうらしいです。
四度目、つまり退学のかかった試験に申し込んだとき、僕の精神は完全に崩壊していました。
実はエジンバラ留学に出発する前日、つまり四度目の試験の約一年前、悪友が留学記念にと、合法ドラッグをくれて、オーストリアの白ワインを片手に、『チラックス』していました。
本当に悪い癖です、調子に乗った僕は、規定の量を超えてカプセルを摂取します。
合法と言えど、精神の弱い僕は最高にハイとなり、覚醒したままスコットランドへ向かうこととなりました。
それで終わっていれば若気の至りで済んだのですが、ハイになって一年以上が経ち、最終試験の勉強に追われ精神的にも消耗しきっていたころ、不幸な出来事が起きました。
大学のエレベーターに一人で閉じ込められたのです。
もともと閉所恐怖症だったのですが、狭い空間から出られなくなった恐怖と孤独感から、これまで経験したこともなかったフラッシュバックに襲われました。
数分後には外から開けてもらったのですが、そのころには僕の心は完全に折れ、試験のことを考えるだけでパニックになり、精神科医にも通う羽目になってしまったのです。
「心配なら勉強しろ」
高校の先生が期末テスト前に言っていたことを思い出し、パニックにならないよう、僕はひたすら勉強しました。
そして友だちと日本語学科の先生の支えを受け、四度目のトライにして、最後の最後になんとか卒業試験をパスすることができたのです。
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