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王宮の一室。
崩壊寸前の扉と、床に散らばった瓦礫。
そしてその中心には、破天荒な母と、沈黙する娘と、頭を抱える王太子がいた。
「……まったく。漸く戻ってきたと思ったら、何をやっているんだ、マティルダ」
その低く渋い声が響いた瞬間――空気が引き締まる。
バサリ、と軍服を思わせる黒の礼装をまとい、完璧に整えられた銀縁の眼鏡。
背筋を伸ばし、威厳そのものを具現化したような男が、扉の残骸を踏み越えて入ってきた。
彼こそ、レティシアの父――クラウス・アルディネ侯爵。
王国軍元帥を経て現侯爵となった、完璧主義の堅物貴族。
「あなた、来てたの」
マティルダはくすりと笑う。
「来てたの、じゃない。君が王宮の扉を吹き飛ばしたというから飛んできたのだ」
「まぁまぁ、いいじゃない。ちょっと娘に会いたかっただけよ?」
「“会い方”の問題だと言っている」
クラウスは額に手をやりつつ、ちらりと娘に視線を送る。
「……レティシア、母に迷惑をかけられていないか?」
「迷惑どころか、私より存在感あるんだけど……」
「それは……うむ、いつものことだな」
クラウスは深くうなずいた。
アレクシスが小声でつぶやく。
「(なんか……すごい人たちだな)」
そして――不意に、マティルダがクラウスの腕に絡みついた。
「でもぉ~、クラウスぅ~。私寂しかったのよぉ?
こんなに長いこと離れ離れなんてぇ、。ねぇお姫様抱っこ、して?」
「……ここは王宮だ。やめなさい。非常識だ」
「してくれないの?」
「……わかった、後でな」
「うふふ、好き」
「……君には敵わん」
レティシアは冷めた目をしていた。
「……父、威厳……」
「それどころか、母に骨抜きでは……?」
「やめてくれ。言われなくとも分かっている」
堅物であるはずの父は、妻の前ではもはや“召使い”。
だが、その目に宿る愛情だけは、確かに本物だった。
***
その夜、王宮の一室にて。
クラウスは真剣な顔で、レティシアとアレクシスに向き合っていた。
「……お前の婚約の件だが、私はまだ許可した覚えはない」
「うっ……」
アレクシスが姿勢を正す。
「陛下からのお達しではあっても、娘の将来を預けるには、私自身が納得せねばならん。
王太子としてではなく、“一人の男”として、私の娘を守れるのか?」
アレクシスは、正面からその瞳を受け止めた。
「はい。命に代えても、レティシアを守ります」
「……それでこそだ」
クラウスはわずかに口元を緩め、そっと娘の肩に手を置く。
「レティシア。お前は、母譲りの力を持ち、父譲りの理性を持つ。
この国で誰よりも自由でいて、誰よりも誇り高くあれ」
レティシアは、少しだけ驚いたように目を見開いたあと――
「……うん、わかってる。ありがとう、父様」
マティルダがそこに割って入る。
「さっすが、うちのクラウス~! 素敵~!」
「やめろ、話が締まらん……」
アルディネ家――最強にして、最高にカオスな家族が、ついに再集結を果たした。
だが、その裏で。
“封印の地”で、再び蠢く“魔王の片鱗”が――静かにその目を開いていた。
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