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第二王子と幼女な大魔法使い

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ココーンと小粋な音のノックが響き
トラビスは顔を上げる

「誰だ」

執務に追われる第二王子トラビスは不機嫌そうに返事をした

バンと勢いよく第二王子の執務室のドアが開くが誰がいるということもない

「いたずらか?」

額に怒りの筋が入り執務室にいた片腕のハイゼルにドアを閉めるように指示しようとして固まった

チョコチョコとコチラに歩く見事なプラチナ色髪の頭が見えたからだ

机の近くに小さな頭がヒョコヒョコ動く

「ちょっとトラビス、城の門番に私1人でも入城できるように言っといてよ」

幼い子供の声が聞こえる

言ってる言葉はいつものティアリアのようだ

机の上から覗き込むと幼女になった大魔法使いがそこにいた

背が低すぎて見えなかったぞ

「おまえ、まだその姿なのか、、てゆーか入院してるんじゃないのか?」

「まだ魔力が不安定なの、回復するのに時間がかかるのよ」

可愛らしいシンプルなワンピースにいつものローブに似た子供用のものを身につけて幼女がプンプン吠えている

「かわいい」

頭に浮かんだ言葉が口に出てしまったかと口元を押さえたトラビスだったが

しゃべったのはハイゼルであった

「ハイゼル久しぶりね」

「ティアリア先輩、本当に小さくなってしまったんですね」

ハイゼルは学園のひとつ後輩で今はトラビスの補佐をしていた

ヒョイと持ち上げられハイゼルに抱っこされる大魔法使い

「あの大魔法使いがこんな幼女でふらふら歩いていたら誘拐されてしまうのでは?」

「大丈夫よわたし強いんだから」

勝ち気な幼女は得意げにドヤ顔をキメる

「かわいい」

またしてもハイゼルはかわいいというとティアリアを抱きしめた

「ちょっと子供扱いしないでよね」

「こんな姿で魔法はちゃんと使えるのか?」

トラビスがじっとりとした目をハイゼルに向けティアリアに問う

「う、使えなくもないような使えないような」

魔力は回復しつつあるがなかなか安定しないのでしどろもどろな回答となった

「城にきて何するつもりだ、魔力が回復しないと何もできないだろう」

「塔が私の家なんだよ?あんたについて行く前に封印しちゃったから開けにきてるんじゃん!開くかどうかわからんけど」

「そうだったな、城の余ってる部屋用意するか?」

「やだ、落ち着かない」

「昨日は治療院にいたのか?部屋開かなかったら、お、俺の部屋でも、、、」

少し赤い顔をしてトラビスが言うと幼女はピッと小さい手のひらを見せた

「大丈夫、クロードんとこに厄介になってるから」

お構いなくとハイゼルの腕からするりと降りる

「じゃあ、私が歩き回れるように城の人に言っといてね」

スタスタ歩き大魔法使いの幼女は第二王子の執務室を後にした

「は?」

誰のどこに厄介になってるって?

トラビスはハイゼルへ向き「クロードって、、、たしか、?」

「ああ、氷の騎士のクロードでは?」

とハイゼルは整然と答えた

ティアリアは学園では男女どちらからも憧れの的だった

平民出身ではあるが飛び抜けた魔力量で魔法を操り、学園の教師よりも正確に、強力に魔法を使いこなす天才的な才能と美しい容姿、僻むものもいたがそれを実力でねじ伏せ正々堂々生きていた

頼まれごとは最終的には断れずお人好し

だが決めたことはやり通す

そんなティアリアにその頃から好意を抱いていた

それは今も同じで今回国境の戦いに連れて行ったことをトラビスは後悔した

一度相殺された魔法障壁が無くなったあとトラビスを庇い傷ついたティアリアは
2度目の障壁を作った時、より強固な防壁を構築し、それは内からも外からも干渉できないものだった

助けに外に出ることを許さない

おまえたちは足手まといだと

結界の外で繰り広げられる戦いをただ見ていることしかできない

自分の代わりに矢を受けた傷を見た時

敵の攻撃が全てを焼き尽くした時

敵の魔法使いの歪んだ顔でこの完璧な魔法障壁を見た時

力を使い果たした女の姿を見た時

何度も、なぜ連れてきたのかと

ティアリアは言っていた人間相手の戦なんてくだらない

魔物の討伐の方が単純で簡単だと

ティアリアの作った障壁の中でギリギリと奥歯を噛み締める


しかし、彼女がいなければ誰も生きて帰れなかっただろう

障壁が解けたのはティアが気を失った時
トラビスは低い声で騎士に命じる

「殺せ」

敵の魔法使いが絶命するまで冷めた目で確認し

騎士に抱えられた力尽きた少女を自分の腕に受け取る

軽い

このまま消えてしまいそうな危うさがあった

「治療魔法を使える魔法使いをここに、、いや連れて行くどこにいる」

「魔法使いはいません、看護士のところへ、回復薬があります」

ティアが回復魔法を使えるため
ここに回復魔法を使える魔法使いは連れてきていない

すぐに別働隊の治療院の看護士を探して彼女を見せる

「魔力と気力、体力がほとんど残っていません、生命を保つギリギリで回復薬は使えません」

回復薬は生命力を活性化して傷を治す

言いながら魔法使いは彼女の腕と足に応急処置であるが血止めの魔法をかけ包帯で傷を縛っていく

回復薬は本人の生命力を活性化させる
この状態でそれを使うと生命力が先に尽きるかもしれない

魔法使いが自分の首かけている魔石をティアの口に含ませる

「このまま王都の治療院にはこびます」

幼くなったが美しい顔はまるで人形のように生気が薄い

「傷を回復しようと少しづつ魔石の魔力がティアリア様の体に流れています」

急いで運びましょうと

第二王子用の馬車に看護士が抱いてティアリアを運ぶ

ロイドのいる王都の治療院に着くまで生きた心地がしなかった

ロイドはティアリアの子供の頃からの幼馴染で治療魔法の天才だ

回復魔法は本人の生命力を頼りに修復を促す

治療魔法は空気中の魔力や薬草、魔道具や他者の魔力を使って修復していく
ロイドが編み出した魔法だった

ティアリアをみたロイドは一瞬、蒼白になったがすぐに意識を引き締めた

「必ず助ける」

そう言って奥の施術室へティアリアを連れて入っていく

トラビスは両手で顔を覆う

ティア同様ロイドも決めた事をやり遂げる人間だ

今は自分ができる事をやるしかない

治療院の外に出ると騎士が1人立ち尽くしていた

トラビスは彼の肩に手を乗せた

「ティアリアの加勢によく走った。おまえのおかげで彼女を失わずにすんだよ
ありがとう」

彼は無表情で俯く

それが氷の騎士と言われていたクロードだったと

トラビスは思い出した
自分と護衛騎士がティアの魔法障壁で守られる前の一瞬に飛び出して敵の大剣を
クロードが抑えて、ティアを庇った
氷の騎士

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