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優しい光

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人攫い騒動に巻き込まれ、一晩帰らなかったクロードの家に戻ると
ホッとした気分になる

ティアリアは
クロードが温めてくれた昨晩の料理を
噛みしめた

「んー美味しい!」

野菜と鶏肉がたくさん入ったポトフ
とパン、玉ねぎグラタン、サラダにアップルパイ

ティアリアは真剣に思った
「お嫁さんに欲しい」

パンをちぎって咀嚼するクロードが
「?なんか言いました?」

と、こちらを向いたがティアリアは
なんでもない
と、食事を食べすすめる

塔で世話をしてくれるベッキーの用意してくれる食事より美味しい

「今日はロイド医師も忙しいだろうしティア様もここでゆっくり休養をとってください」

食べ終わり二人で食器を片付けているとクロードがそう言う

「わかってる、私は工房で寝るから、クロードもちゃんと寝て?」

「はい」

お風呂に入るとティアリアは中庭から工房へ入り

前から作っていた魔法器具の作業を開始して、昼になる頃

試作品が一つ完成した


朝早くご飯を食べたためか、お腹が空いて集中力が切れてしまった

ティアリアは中庭を抜けて、家に入る

食卓には昼食はなく

クロードもいない

「まだ寝てるか」

ティアリアは捕まっていた時ぐっすり眠れたので、そこまで眠くはない

それより空腹だった

「よし、なんか作ろう」

料理などあまり作らないけど、ティアリアには唯一、作れる食べ物があった

食卓の椅子に上がり
テーブルに材料と器にナイフ、まな板を並べ

ジャガイモを取り出してナイフで器用に皮を剥く

剣は得意なので、野菜の皮剥きはできるのだ

ゴロゴロと10個ほど皮を剥き

器に入れ
手をかざすと、水魔法で薄くジャガイモを覆い、同じく魔法で高温の蒸気を送り込む

あまり加減を間違えると芋がなくなるので気をつけて

「このくらいかなー」
ふっくら蒸し上がった芋を潰して
大きく
何個か丸く平べったく
成形し、、、多めの油で焼く、、、

焼くのだが、、

なんと、コンロに火をつけようとして、
かろうじて、魔法コンロのひねるスイッチに手が届くが、フライパンが見えない

背が低いせいだ

仕方なくティアリアは大人の姿に戻った

朝ごはんをたくさん食べたので魔力はだいぶ回復している

油をフライパンに流し、芋を焼いていく
何度か繰り返し、大量に揚げ焼きポテトが完成した

「そうだベーコンも焼いてみよう」
切ったベーコンも焼く

カリカリに焼く

昔、貧乏で芋しかなかった時、よく食べていた揚げ焼きポテト

それにサッと塩を振る

「いつも塩だけでたべてたけど、、」

クロードが作ったトマトソースが瓶に保存してあるのを見つけた

「今日はこれをかけよう」

焼き上がった芋を
皿に並べてトマトソースを添える
「お、美味しそう」

「うーん、緑の野菜がないな」

クロードはいつもバランスよくサラダも作ってくれる

「ま、いっか」

りんごを見つけ
想像する
(朝のアップルパイ、美味しかったな、、、)

朝出されたアップルパイはあまりの美味しさに全て食べてしまった

「また、アップルパイ食べたい、、!」
作った事ないけど

パイ生地などどうやって作るのかもわからない
りんごも甘く煮ないといけないし
やり方わからない

仕方ない、また、クロードに作ってもらおう


「あとは、クロードが焼いたパンが少し残ってたから、、、」

「あ、お鍋に朝食べたポトフ残ってる!」
これもあたためよう







「クロード」

自分を呼ぶ声がする

「おーい、クロード」

いつもは凛とした透き通るような声だったような、知っている声

誰だったか、、

「お昼ごはん作ったぞ」

ゆるゆると肩を揺らされ
クロードは瞼を開く

オパールのように輝く、瞳と美しいプラチナの流れる髪がクロードの頬に触れた

サラサラとくすぐったい

目を開けるとかなり近い距離にティアリアの顔がある

「!」

「あ、起きた」
ふわりと微笑む彼女はやはり
女神のようだ

「お昼ごはん作った!一緒に食べよ」

ティアリアはスッとかがめていた上体を起こすとドアから部屋を出ていく

クロードは自分の顔が熱くなり
赤くなっていくのを感じた

「なんで、大人な姿に、、、!?」

心を落ち着け、部屋を出ると

こうばしい匂いがした

食卓にティアリアが料理を並べていく

「お腹減ったー」

テーブルには、パンの皿、
ポトフ、りんご(丸ごと)、水の入ったグラス
最後に丸いポテトとベーコン
を焼いたもの(大量)が出された

「いい匂いの正体はこれですか」
クロードがトマトソースを添えられた皿を見る

「うん、昔よくこれ食べてたの
これしか作れないけど」

「そうか、コンロの位置が高かったのでその姿に?」

「うん、そー」

クロードは納得して席につき
フォークを手にする

「いただきます」

自分の取り皿にポテトとベーコンをもらい、焼いたポテトを一口食べた

「美味しい」

「ほんと?良かった」
ティアリアはまた、花が咲くように笑う

クロードがティアリアの
その顔をみた時
心臓のあたりがドクドクと音がなったような気がした
「、、?」

「すいません、昼を過ぎていたのに寝過ごしてしまって」

「昨日、寝ずに探してくれたんだし!眠いのは当たり前だよ」

パクパクと食べすすめ、
あっという間に料理はなくなる

「夜は何が食べたいですか?」
クロードが聞くとティアリアは迷う事なく答える

「ステーキとアップルパイ!」




ティアリアは試作品の魔法器具を中庭に持って行き
空を見上げる

日当たりのいい場所にそれを置くと
よし、と頷き

工房の外のベンチに座った
ポシェットの空間魔法から魔法書を取り出し、しおりの位置からパラパラと読み進める

ポカポカと暖かい日差しにだんだん眠くなってきた

お腹がいっぱいで幸せだ
魔力が回復していくのを感じる

家の中でアップルパイを焼いているのか甘い匂いが漂ってくる

「いいにおい、、」

瞼が下がり眠気に抗えない
ここに座るとだいたいこうなる

うとうととティアリアの頭が上下して
ガクッと落ちる寸前で、クロードが抱き止めた

分厚い魔法書が足元に落ちる

家の窓からティアリアの様子を見て駆けつけたクロードはホッとため息をついた

ゆっくりと自分もベンチに座り、彼女の頭を自分の肩へもたれさせる

クロードは落ちた魔法書を
拾おうとしたが

肩にもたれかかっていた彼女の体がズルっと滑り、慌ててクロードは体勢を戻そうとした

しかし
滑り落ちたティアリアの頭は
クロードのふとももを枕に
スウスウと気持ち良さそうに眠っていた

大人のまま眠る彼女の顔にかかった綺麗な髪を耳にかけると

少しくすぐったそうに目尻が動く
その様子をクロードは柔らかい眼差しで見ていた


やがて夕方になり、夕闇がせまる頃

クロードがそろそろ
ティアリアを起こそうとした
その時

中庭がポッと光った

「?」

中庭にはガラスに覆われた魔石が組み込まれた魔法具があり、それが光っていた

暗い中庭が銀色の光に照らされて
明るい

「すごい」
まるで、ティアリアのような優しい光

クロードは驚いて、ティアリアを起こした

「ティア様!これは、ランプですか?」

ティアリアは眠そうに瞼を擦り、クロードの太ももから起き上がる


「あ、ちゃんと光ってる」
実験は成功だ








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