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ドール(助手1)と助手2と3

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肌に似た質感の瞼がゆっくりと開くと

オパール色の義眼が辺りの様子を映し出した

そこはガラスケースの中で
壁は白く明るい

動くものを感知して義眼が動く先に
美しいプラチナの髪、オパールに輝く瞳

最後の記憶で鮮烈に刻まれた美しい魔法使いの顔がそこにあった

「あ、目覚めた」

にこりと微笑むティアリアの表情に
娘は安心した

(ああ、もう大丈夫)

「ロイド、目が覚めた、見てくれる?」

「はーい」

少し気の抜けた声がしてメガネをかけた青年が傍にきた

「わぁー、、こうして見ると学園に通ってた頃のティアに似てるね」

「そうなんだよね、アデラによると魔力の媒介に使った私の髪が影響しているとか、アデラがモデルにしたのが、城で会った私の小さくなった時の姿だって言っていたから?必然的に?そうなったみたいだよ」

「納得だな、ティアの要素しかない」

ロイドと呼ばれたメガネの青年が頷く

「あれ?動かないの?」

「ティアから採取した魔力を慣らすために少しづつケースの中に流しているからね」

体に行き渡り馴染むまで時間がかかるという

「それなら、その間に買い物してくる。この子に合う服を見て、、あと、家具屋とか、いろいろ見てくるから、、」

「ああ、この子は僕がみてるよ。いってくるといい」

ティアリアはそう言って部屋を出て行った

娘はまだ体も動かず、声も出せなかった
しかし、目から見える風景と
耳から音は聞こえる

知ってかしらずか、ロイドは話し始めた

「びっくりしただろう?」

「目覚めたら知らない場所で、」

『、、、、、。』


「ティアも、、あ、さっきまでいた君のご主人さまティアリアっていうんだけど」

(ティアリア、、って言うのか、、綺麗な名前だ)

「あんなだけど、昔はすごい貧乏で早くに両親も亡くして、きょうだいとかもいなかったから、ずっと一人だったんだよ」

「それでも努力して、知識を身につけて剣も人より多く鍛錬して、魔力があるとわかったら魔法を学び、いまは城にある高い塔の最上階に居を構える大魔法使いになった」

「引き篭もり気味なんだけどね」

クスクスと笑う青年、ロイドは側の作業スペースで何か作っているようだ

娘は彼の心地いい声に耳をすまし
ティアリアの話しを聞いていた

「君を見て、昔の自分を思い出したんじゃないかな?」

「君の元の体は無くなってしまったけど、ティアは君の意識を自分の指輪の魔石に大事に保管していたんだ」

「アデラっていう、ちょっと変な錬金魔法士が研究している中に魔力で動く人形があるってティアは知っていたから君を作るように頼んだんだ」

(ああ、体に心地いい力が満ちていく)

これが、ティアリア、、、
主の魔力なのだろう

死んで屍として蘇った時に感じた飢えや渇きは無い

あるのはただ、温かい魔力
それがあれば心も体も満たされる

どれくらい経っただろう
もう身体中に魔力が行き渡っている

ロイドがガラスケースを開き、外気が人工的に作られた肌に触れた
匂い、や温度も感じる

多分動けそうだったが娘はじっと横たわっていた

廊下を走る足音が近づいて
扉が開いた

「ただいまー」

「おかえりー」

「ロイド、アスアのオレンジパン買ってきたよ!あと焼き鳥!」

「なんだか、あわなそうなメニューだね」

ティアリアはどこからともなく
紙袋を出してくる

大きめの袋を漁り
「ジャーン」
と服を広げて見せた

「行きつけの服屋で買ってきた!」
ハイゼルのおねーさんの服屋はなんでもある

「え?それって侍女が着ているやつ?」

「そう!でも普通のと違ってデザインがかわいいでしょ?きっとこの子にピッタリよ!似合う!絶対」

そう言って、ティアリアの動きがピタリと止まる

「どうかした?」

「うん、この子では不便ね」

ティアリアの美しい顔がドールに近づく

「もう動ける?」

(人形の中にいる私に語りかけている)

『はい』

そう言って人形は上体を起こす
思ったとおり意思のまま自由に体は動く

「え、喋った!」

ロイドは驚いた

「アデラが言っていたの、構造上
口の動きが遅いからゆっくりだけど話せるって」

「あのおじさん、やっぱり天才なのかもね」ロイドはアデラを見直した

もう一度、ティアリアはドールに向き直る

「名前は覚えている?」

(覚えている)

でも

『あなたがつけてください』

「私が?」

(あなたに助けられた、この体はあなたの魔力で動く、だからあなたのために生きたい)

「うーん、、、。」

「じゃーミリア、、、ミア、、」

「うん、あなたはミリア」

『ミリア』

「私はティアリア、少し私の名前を入れてみたよ」

『うれしい』
ミリアは心の底からそう思った
(わたしに心があるのかわからないけど)

「よかった、気に入ってくれて
わたし、昔よく名前を略して呼ばれていたの」

「そうだね、僕はティアって呼んでたけど、リアって呼ぶ子もいたよね」

「私はミリアのことミアって呼ぶね」

「え?真ん中略すの?」

「いいじゃない、かわいいから」

ニコニコ笑うティアリアにミリアは服を渡された

「着てきて、あっちに個室あるから」

今着ている白い薄い施術服を見下ろして
ミリアは渡された服を持って個室に入って行く

待っている間
二人は紙袋をあけてパンと焼き鳥を食べる事にした

「でも、本当にすごいね、よく見ないとドールだってわからないかも」

人形を作ったのはアデラで

魔力回路を構築し定着させたのはロイド

最後にティアリアが保管していた魂と意識を人形に定着させる

3人によって生み出されたミリアというドールは人の意識を移し替えた初めての人形だろう

アデラが長年一人で研究していた完成形がミリアであった

「あのおじさんが見たらミリアを奪われそうだね」

「そんなの、無理に決まってるでしょ。アデラが私に勝てるわけないし」

「それに、アイツの研究を手伝ってあげたんだよ、レシピ渡せばまた、自分で完成させるでしょ」

「何年かかることやら」

ロイドの技術とティアリアの無尽蔵な魔力があってこその実現だ

一人ではなかなか難しいだろう
とロイドは思った

昼食も終えて、着替えたミリアを連れて城に戻ると

クロードにバッタリ出会った

「ティア様!その人は?」
ティアリアにそっくりな15歳くらいの少女にクロードは目を見張った

「ああ、この子はミリア。私の新しい助手だよ」

「ミリアさん、、、似てますね」

無表情が少し崩れて面白い

「今からハイゼルの所に行って助手の契約してくるからまたね」

同じ髪色の美女と美少女が歩いて行くと
みんな振り向き見惚れている

セノビオがクロードのうしろから声をかけた
「姉妹か?」

誰もミリアが人形だと気づかない

第二王子の執務室に入ると
ハイゼルもトラビスも息をのんだ

「学園の頃の先輩にそっくりじゃないですか」

「妹がいたのか?」
二人は交互に聞いてくる

「ドールよ、先日森で見つけた魂を宿したの私の新しい助手だよ」

ハイゼルにミリアの雇用契約書を作成させて部屋をでた

満足げなティアリアにミリアは言葉を発する

『おかねなんていりません』

「いーえ、必要だよ、無かったら困る。でもあっても困らないでしょ?貰えるものは貰えばいい」

廊下を進み、長い螺旋階段を登っていく

階ごとに踊り場があり、いっぱい部屋があるようだ

だいぶ登って現れた扉はティアリアの魔力で閉ざされているが

本人と、ティアリアの魔力を持っていれば簡単に入れる

扉が開くとそこは物で溢れかえっていた

「明日あと2人くるから頑張ろ!」

「私はちょっと仕事するから奥のベッドで休んでね」

しかし、主人が仕事をしているのに休むわけにはいかない

奥にあるベッドは新品で使った形跡はなく

ティアリアは朝方まで執務机で仕事をして、そのまま寝入ってしまった

ミリアはかけてあったローブを手にすると静かにティアリアにかけた




そして翌朝




魔法使いの塔の最上階にある
大魔法使い専用の工房に

2人の新たな助手が到着した

広いフロアは研究に必要な器材や試作の魔法具、材料、貴重な素材など
ありとあらゆる魔法書や、書類が山積みに整理(乱雑に置かれている)されていた

「これでも片付いたほうなのよ」

真ん中には執務机に椅子

応接テーブルやソファがあるが
書類や書物、魔法書で座る場所もない

そもそもここに来客を招き入れた事も無い

引き篭もり、常に魔力で閉じられ、自身と助手のベッキー限定で扉を開けることができるようにしていたくらいだ

あと
なぜか奥に新品の浴槽と、真新しいベッドがあったがまだ、使われた形跡はない

本棚は空きが足らず
食器棚にも本が並べられていた

「ひどいな」

カルシア(助手2)が
呆れた声で一言もらす

『ものがたくさんありますね』

魔力で動くドール、ミリア(助手1)
は構造上ゆっくり言葉を発した

「はー、これを片付けるのか?」
時間かかりそうと、カイ(助手3)が
ティアリアを見た

ティアリアはへヘッと笑い

「さぁこれが最初の仕事だよ」と
叫んだ

一体と二人はそれぞれ作業を開始した


部屋の主であるティアリアは
奥に進み、空間魔法から先日買ってきた資材を取り出して仕切りを作り
寝室をあつらえた

そこにベッドを置く

空間魔法からまた、
薄い石板を大量にとりだし、
繋げて真四角の部屋を作る

それを窓際に設置した

中にバスタブを置き、浴室をつくる

「よし、あとはー」

城下の家具屋で買ったカウンターを出して、自分で作った魔法具のコンロを置き、流し台を設置して簡易的なキッチンを作る

これでだいぶ快適になるはず

「ねー誰か料理は作れる?」

カルシアはカイを見る

カイは
「簡単なものなら作れはする」と頷いた

ティアリアも頷き、さらに仕切りを作っていく

助手の個室を3つ

生活に必要なものを設置していった

「それにしても広いな、、。」
それゆえか、物も多いのだが
カルシアはティアリアを見る

あの女が大魔法使いだと聞いた時はまさかと思っていたが
こうして見ていると納得だ

無詠唱で息をするように魔法を使い
魔力も底なしのように
ありとあらゆる属性を使いこなす

今はその能力と魔力をフルに活用し部屋を作り替え、整理や掃除をしている

「なんて、もったいない」

目の前を動くドールもそうだ

可愛らしい人形の中には若い娘の魂が組み込まれていて、動力は大魔法使いの魔力で動かされているという

見た目はティアリアを少し若くした感じだ

中身は自分たちを襲った動く屍だと聞いた

憤りもあったが、事情を聞き
同情もした

なぜ、ドールを作り、娘の魂を宿らせたのか。なぜ犯罪を犯した自分たちを助けたのか。ずっと考えていたけど

この状況を見る限り
本気で人手が欲しかっただけなのかもしれないと
カルシアは思った。


昼にさしかかる頃
大魔法使いの部屋の扉がノックされた

ここに人が尋ねてくるなんて
一体誰なのか、

ティアリアは自ら部屋の扉を開ける

「はいどなた?」

「失礼します」

そこには真面目な無表情
クロードが立っていた

「クロード!どうしたの?」

「今日は大仕事だとハイゼルさんに聞いたので」

ずいっと
ティアリアの目の前に三段に積み重ねられた大きな箱が押し付けられた

「いい匂いがする」
食べ物のようだ

ティアリアは扉を大きく開けてクロードを中に招き入れた

「よかった、テーブルが片付いてる」

真ん中の応接セットに積み上げられていた書類や本類は片付けられ、ソファも人が座れるようになっていた

「どうぞ、座って」

クロードは促され、部屋に入っていく

「部屋の中はこんなになっていたんですね」

クロードからすれば、よくわからない器具や魔法具、素材に大量の本があり

それらを助手になったカルシアとカイ、
ミリアがせっせと片付けていた

「ティア様、昼になりましたし休憩にしたらどうですか?」

クロードはテーブルに箱を置くと一番上の蓋をパカッと開ける

中には揚げた鶏肉や、焼いた卵、野菜を薄い肉で巻いて甘辛く焼いたものなど
ティアリアの好きなおかずがたくさん入っている

「!」

一段目の箱を横に置くと
二段目には色々な具が入ったサンドイッチが
三段目にはフルーツが

「作ってきてくれたの?」
ティアリアの瞳が輝く

「あ、フルーツを入れた紅茶とコーヒーも持ってきました」

下げていたバックの中から瓶を取り出す

「よし、すぐ食べよう!」

ティアリアは作業していた助手たちに声をかけて、食器棚(綺麗に片付いていた)からグラスと皿、カトラリーを取り出してテーブルに並べた

「昼ごはんにしよう」
ティアリアが一番喜んでいる

「ティア様、冷やしてください」

クロードからコーヒーと紅茶を受け取り
魔法で程よい冷気を流す

一瞬で冷やす
瓶が割れないように、中身が凍らないように。なかなか繊細な魔力制御なのだ

便利なのに使い方間違っている気がしてならない。大魔法使いの魔法の使い方

なんだかもったいない
とカイとカルシアは心の中で思った

冷えた飲み物をグラスに注いで
食事が始まる

「う?!、うまーい!」
カイが叫んだ

カルシアも美味しそうに食べ進めている

カイがクロードに作り方を聞いている

ミリアは食べれないから少しかわいそうかとティアリアが見ると

カイとクロードの話を真剣に覚えている

『わたしも、りょうりおぼえたい』

みんなで美味しくご飯を食べ終えると
クロードはまた、仕事へ戻って

部屋の中では片付け作業が再開された




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