彩師 ある夏休みの物語

のーまじん

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アレグロ・ノン・モルト

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 それは一年で一番、日の長くなる日の事だった。
 夏至と呼ばれるこの日の夜に、妹がゲリラ雷雨のように車で現れた。
 そして、玄関先にファンシーなボストンバックを置き、不安そうに玄関の闇を纏(まと)い戸惑う姪を力づくで光の世界に引っ張り混むと私に叫んだ。

 「お姉ちゃん、お願い、しばらくこの子を預かって!」
「え?」
混乱する私を無視して妹は自分のストレスを連発する。
「え?じゃないわ、私、財産放棄したのよっ、協力してよ。もう、私、どうにもならないのっ、ショウくんの気持ち、もうわからないんだもん。もう、限界なのっ、死んでしまいたい…
 こんな気持ちで子供の世話なんて無理だから、お願い、迎えにくるまで預かって!」

 妹は泣き叫び、姪は気丈に涙をこらえて立ち尽くしていた。

 私に…何が出来たと言うのだろうか…
 呆然とするなかで妹は車で走り去った…

 残された私と姪はしばらく玄関で虚脱するしかなかった。
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