魔法の呪文

のーまじん

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ヴィーナオーパンバル

エーデルワイス

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 雪の降る道をメアリーは歩いていました。
 これから、ハーブの専門店に向かうのです。

 魔法が上手く使えるのか、現在の自分の状況が分からないメアリーは、ハーブティを使うことで、一定の効果を狙うことにしました。

 これなら、メアリーの魔法が効かなくても、ハーブの効果で、フランクもゆっくり眠れ、元気になるに違いありません。

 お店につくとメアリーはひととおり珍しい商品を見つめ、それから目当てのラベンダーを買い求めました。

 ラベンダーを枕に忍ばせようと思ったのです。

 その時、メアリーは、ふと、隣の可憐な白い花の絵に目を止めました。

 カモミール?

 メアリーは興味をもって、カモミールのハーブの箱をとりました。

 箱を手にしたとき、メアリーの頭に、子供の頃のフランクとの思い出が、こみ上げてきました。

 それは、スイスの本を読んでいた時の事でした。
 エーデルワイスと言う花の物語がそこには書いてありました。

 昔、一人の山男がアルプスの山頂で天使に出会います。
 男は天使に恋をしましたが、
 天使は人を愛することは出来ません。

 その関係に辛くなった山男は、天使に言いました。
 「あなたの姿を見つめるのは、私には辛いのです。どうか、もう、この山には来ないで下さい。」

 天使は身を切られるような山男の願いを聞き入れました。

 そうして、別れ際に白く可憐な花を残したのです。
 その花がエーデルワイス。



 ふふっ。

 メアリーは、久しぶりに優しい気持ちで微笑みました。

 考えてみれば、何年も思い続けた相手にあっけなくふられ、

 自分の失踪に混乱するフランクに心を乱され、

 踏んだり蹴ったりで、心が休まる時はなかったのですから。

 小さなカモミールの箱は、フランクとの可愛い思い出を語ります。

 エーデルワイスの物語に、この白い花が欲しくなったメアリーは、フランクにとってきて、と、ワガママを言いました。

 でも、エーデルワイスは、アルプスの山奥に咲いていて、乱獲のために今では現地でも見るのが難しいのです。

 困ったフランクは、メアリーにカモミールの花束を渡したのでした。

 小さかったメアリーは、しばらく、それがエーデルワイスだと信じていましたが、後で違うと知り、フランクを責め立てたのでした。


 「ごめんよ。でも、大人になったら、きっと、本物をとってきてあげる。」

 フランクは、泣きながら約束してくれたのでした。

 その約束は叶えられませんでしたが、今のメアリーなら、できるかもしれません。

 カモミールの効能は…リラックス効果。
 使えるわね。

 メアリーは、カモミールを買うことにしました。

 カモミールの小さな思い出が、フランクの傷を癒してくれるに違いありません。
 すくなくとも…、今日はお酒に頼らなくても、フランクは優しい眠りにつけるでしょう。

 メアリーは、カモミールを手にお店の主人のところへ行きました。

 ここの主人は、人間以外の者にも品物を売り買いしてくれます。
 少し、値段が高いですが、メアリーは値切ることなく買い求めました。

 丸眼鏡をかけた、小柄の男は、言い値で買って行くメアリーを驚いた顔をしながら、
 「アンタの願いが叶いますように。」
と、ピンク色の祝福の言葉をかけてくれました。

 メアリーは満足そうにカモミールをポケットにしまうと走り出しました。

 店の店主も昔、魔術技師で、彼の呪文(スペル)は、ハーブの効能を高めてくれるはずです。

 でも、フランクたちはそれどころではありません。
 雪の中で倒れたままのフェネジは、精気を吸いとる妖精ウィリーに見いられて踊るフランクを見ながら焦っていました。

 このままじゃ、フランクは精気を吸われて死んじゃうよ。

 なんとか、メアリーに知らせなきゃ。

 フェネジは、必死で腕を動かしました。
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