魔法の呪文

のーまじん

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ヴィーナオーパンバル

魔法の呪文

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 穏やかに眠るフランクにメアリーは術式の成功を確信しました。

 フェネジはフランクに魔法をかけるメアリーが、ほんのチョッピリ可愛く感じた自分に驚きました。

 メアリーは、けちんぼではなかったんだ。

 フェネジは愛しそうにフランクを見つめるメアリーを見てそう思いました。

 「さあ、仕上よ。」
メアリーはそう言うと、目を閉じてベッドの横に膝まづくとガラスのベルのような澄んだ声で、天使召喚の祝詞のりとをあげました。

 すると、フランクの上に半透明の美しい青年が現れました。
 彼には、美しい翼も、純白の着物もありません。
 その代わり、少し日焼けした穏やかな笑顔で、誰かを癒すハーブの入った頭陀袋ずたぶくろを持っていました。

 メアリーは、その青年を見つめて、興奮したように嬉しそうに微笑み、両手を組んで見上げました。

 エマは、恐ろしげにフェネジの後ろに隠れ、
 フェネジは、立ち上がってその半透明の人物の名前を呟きました。

 「ラファエル様…」

 召喚されたのは、大天使ラファエル。
 癒しと旅の守護天使。

 メアリーは、ラファエルに祈りました。

 どうか、フランクに癒しを与えてください。と。

 ラファエルは、両手を広げてメアリーを祝福して消えました。

 メアリーは、天使の力を貰い、さらに呪文を唱えます。
 すると、フランクの胸の辺りから、美しいキラキラとした心が、宝石となって現れました。

 それは、美しいピンク色をしていましたが、メアリーをなくして、ガラスの破片のように鋭くいびつな形をしていました。

 メアリーは、どこまでも澄んだ美しい、それでいて、痛々しいフランクの心を具現化ぐげんかして、悲しい気持ちに襲われましたが、気を取り直して両手に魔力を込めると、幼い頃、二人で歌った山の歌を歌いはじめました。

 それは、アルプスの山が大好きなおじさんに教えてもらった歌で、エーデルワイスの悲しい伝説を美しくうたい上げたものでした。
 メアリーが歌うと、メアリーのフランクとの思い出が、ダイヤモンドの霧のようにフランクの傷ついた気持ちを優しくなでて行きました。

 霧がフランクの心を撫でる度に、メアリーの心はとても痛みましたが、
 それでも、フランクが苦悩するのを見るくらいなら、この方がずっと楽だと思いました。

 フランクの心は、メアリーの歌と気持ちに癒されながら、尖った部分を丸くして行きました。
 でも、代わりに、メアリーの体力を奪って行きました。

 疲れてきたメアリーを支えるように、エマが一緒に歌いはじめました。

 すると、メアリーは元気を取り戻し、少し時間がかかりましたが、フランクの心は、美しく磨かれてキラキラと輝きながら、フランクの体の中に戻って行きました。

 「ありがとうエマ。助かったよ。」
メアリーは、汗だくになりながら、床に座り込んでお礼を言いました。

「どういたしまして。少し疲れたけれど、私、とても楽しかったわ。決めたわ、私、魔法技師になるっ。
 メアリー、私にも魔法の呪文を教えてくれない?」
「はぁ?」
メアリーは、疲れもあってよく理解できませんでした。

 メアリーは、罰として魔法技師にされたのであって、魔法技師になる呪文なんて知りません。
 その様子を見つめながら、エマはがっかりしたようにため息をつきました。

 「ああ、ウイリーはダメなのね?魔法の呪文を使えないのね。」
「なんの話だい?頭の中がこんがらかって、わけが分からないよ。」
メアリーは、不服そうに呟き、エマは責めるようにメアリーを見つめました。
「魔法の呪文よ。トトに教えて、あなたをここにつれてきた、三つの願いを叶えてくれる。私はウイリーだから使えないのね。悲しいわ。」
エマは、本当に残念そうにもう一度ため息をつきました。

 「そんなことは無いよ。」
一瞬の沈黙を破ってフェネジが言いました。

「あれは、恋を知らない若い娘なら、誰でも唱えることが可能なんだ。と、思うけど…、やってみればいいじゃない。やってみなきゃ、わからないんだから。」
 フェネジの言葉をメアリーは呆れながら聞いていました。

 魔法の呪文を唱えて失敗したら、メアリーのように魔法技師になり、永遠の旅を続けないといけないのです。
 考えなしにやってみれば良いものではありません。
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