お願い乱歩さま

のーまじん

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活動開始

経験

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 秋の爽やかな空の下、屋上に男女3人何やら深刻に話している。

 「検索って……図書館使いなさいよ。」
秀実が責めるように遥希に言う。
 そう、郷土資料部の部室は図書館なのだから、あまり、学生が使わないと嘆く先生の為にも本を借りれば良いのだ。
「だって、楽だろ?それにデビュー作なんて背表紙みても分からん。」
ふて腐れる遥希と秀実を見ていると、なんだか漫画の痴話喧嘩ちわげんかを見ているような気がして葵は、なんだかワクワクしてきた。

 「あの話…『二銭銅貨』は確かに、江戸川乱歩のデビュー作よ。
 そして、短編ではあるけど…って、大川くん、あれ、読んだの?」
「いや、まだだ。」
秀実の疑念は的中する。
 それを聞いて、秀実はヤレヤレ顔で遥希を憐れむ。
 「大川くん、まずは本を読むことを勧めるわ。
 あれは、Web小説で流行りの箇条書き風味の作風は合わないわよ。」
秀実に言われて、遥希は心配になる。
「そうなのか?」
「そうよ。私だって、アレを、Web小説の読者に説明するのは難しいわ。」
秀実の難しい顔を見て、葵も心配になる。

 遥希は、やめたければやめられるけど、葵は、奈穂子がいるからやめられない。
 まだ、読んだことはないけど、乱歩、面倒な話なのだろうか?

 「本が難しければ、ドラマとか、漫画を参考にしたら…どうかな?」
葵の提案に遥希の気持ちも明るくなる。
 が、秀実の顔は益々渋くなる。

 「それ、それは地雷よ。」
秀実の言葉に葵と遥希はギョッとなる。
「地雷って…」
葵は、祖母の薫のドラマコレクションをあてにしていたので暗くなる。
「いい?著作権が切れたのは、江戸川乱歩先生のみ、他の書き直した作家さんや脚本家、漫画家さんの著作権は生きてるのよ。
 これは、私たちが作る作品も、オリジナルの要素については守られるんだから、文句は言えないわ。
 だから、使えないのよ。」
秀実の言葉に葵は絶望した。
「えー、車でドカンとか、花火でどんとか、ダメなんだ。」
思わず口をついて出た言葉に、遥希も秀実も不思議顔をしている。

 「分からないわ…そんなシーン、乱歩作品にあったかしら?
 私達が勝手に書くだけなら、少しくらい引っ掛かっても、優しいおじさま達が指摘するくらいで済むと思うけど、商店街が絡むなら、危ない表現は使わないに越した事、ないわ。

 ところで、あなたたち、Web小説って書いたことあるの?」
秀実の台詞に二人は首を横に振った。
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