夏の夜話 短編集

のーまじん

文字の大きさ
15 / 39
貧乏神と私

異物

しおりを挟む
 私は、いわゆる『捨てられない女』だ。

 それは、気が長く、諦めないと言う長所であり、
 ゴールがある場合は、強みになる。
 が、負け戦となると、人生を脅かす短所になる。
 終わりがないから、諦められないから、新しい何かを始める事が出来なくなり、いつか、また、始めるから…と、部屋にしまって捨てられないから、部屋が散らかるのだ。

 そんな私を片付けていたのは母だった。

 母は、なんでも捨てていった。
 教科書や鞄、学生時代の思い出の品から、大好きだった本まで。

 その度に泣いたし、恨んだが、母が死んでしまうと、今度は、母の品物で私の心も家の中も散らかったまま動けなくなった。

 しばらくして、散らかる部屋を見ていて、私は、自分がおかしい事に気がついた。

 そう、いつかは思いきらなきゃいけないのだ。

 死んでしまったら、私の宝物は誰かの異物となるのだ。

 異物…遺物と書くべきだろうが、実際に手にすると困るものだ。

 私の場合、大量に残るタオルだった。

 私の母がフリマに行っては5枚100円とかで、手拭い型の粗品タオルを見つけると買うのだ。

 そして、帰ってくるととても自慢げにそれを見せる。

 「すごいだろ?これは毛足が長くて丈夫なやつだよ。これで、5枚で100円は安いよ。母さん、買い物上手だろ?」

 母は、ドングリを貯めて喜ぶ野リスのように嬉しそうにしていた。

 かあさん……(>_<。)

 案外、こんな遺品が一番の厄介者だ。

 うちは貧乏とはいえ、3食はしっかりと食べてやって来た。
 いつもはそれほど感じることの無い貧相感が、母の小さな宝物を輝かせる。

 お母さん…
 働きずめに働いて、ほとんど娯楽なんてできなかった。
 宝飾品と言えば、父が結婚前に買ってくれたと言うトラメ石のペンダント。
 と、貰い物の数点。

 そんな母の大切にしていた宝物の粗品タオルを…

 どうして、簡単に捨てられるだろう?

 込み上げる感情に、掃除なんて出来はしないのだ。
 貧乏人は、こうして、貧乏神にとりつかれる。

 母のために仕事を辞めて同居した私に、意見をできる人物はなく、
 私は、母の異物に囲まれて、自分の生活を…
 自分らしさを失おうとしていた。


 そんな私を救ったのも、また、剛と言う名の貧乏神である。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

麗しき未亡人

石田空
現代文学
地方都市の市議の秘書の仕事は慌ただしい。市議の秘書を務めている康隆は、市民の冠婚葬祭をチェックしてはいつも市議代行として出かけている。 そんな中、葬式に参加していて光恵と毎回出会うことに気付く……。 他サイトにも掲載しております。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...