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第十五話 ドーパミンの崩壊と女王の“破産清算”
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「面白いわね……本当に、面白い。」
カミラは深く息を吐き、ギロチンを消し去る。
その瞳からは、先ほどまでの侮りが消え、獣のような危険な光が灯っていた。
「そこまで言うなら――とことん遊んであげる。」
「全員、引き上げ。」
一声の命を受けて、全てのテーブルが床下へ沈む。
代わりに、巨大な円卓がせり上がってきた。
卓上に展開されたのはカードではない。
複雑極まりない魔法ホログラムの“経済シミュレーション盤”だった。
「ルールは単純。《精神力バカラ》よ。」
「互いの精神力をこの盤面に流し込み、バーチャルカジノを運営する。」
「どちらが脳が焼き切れるまでに、より多くの《欲望ポイント》を稼げるか――それで勝敗を決める。」
「賭けるのは、この第六十六層の支配権。」
カミラは血のような唇を舐め、尖った犬歯を覗かせる。
千年を生き、幾多の王と富豪を破滅させてきた吸血鬼。その特技は、人心の弄び方そのものだ。
「いいだろう。」
リンは席につき、指を組んだ。
「なら、こちらからもレイズしよう。」
「あなたが負けたら――領地に加えて、この《終身労働契約》にサインしてもらう。」
「身の程知らずね。」
ゲームが始まった。
カミラの精神力が紅い糸の束になってホログラムへと注ぎ込まれる。
たちまち、盤面には絢爛豪華な仮想都市が立ち上がった。
溢れ返る酒。
美貌の男女。
金貨の山。
欲望の全てを詰め込んだ箱庭に、シミュレーション上の住民たちが殺到し、《欲望ポイント》が爆発的な勢いで積み上がっていく。
「見える? これが人間の本性よ。」
カミラは高笑いする。
「誰も、こういう快楽には抗えない!」
一方その頃、対面のリンは――片肘をついて、露骨にあくびをしていた。
「稚拙だね。」
その口からこぼれたのは、二文字の評価。
「カミラ、君の“快楽”の概念は、中世で止まってる。」
「じゃあ、教えてあげようか。」
「現代心理学における《スキナー箱》――“オペラント条件づけ”ってやつを。」
リンの指先が、そっと盤面に触れる。
【スキル発動:《深層心理アーキテクト》】
世界の様相が一変した。
リンは、仮想住民たちに直接快楽を与えなかった。
代わりに、「ランキング」を実装し、「デイリーミッション」を実装し、「期間限定ガチャ」を実装し、「初回チャージ特典」を実装した。
終わりなき焦燥と比較と、自己否定と承認欲求。
埋まることのない穴だけを、精密に設計して詰め込んでいく。
単純な享楽に溺れていた住民たちは、瞬く間にそちらへと流れていった。
もはや「快楽」そのものには興味を失い、「順位」と「限定スキン」のためだけに、自ら進んで消耗していく。
カミラ側の《欲望ポイント》は、崖から落ちるように減衰を始めた。
対して、リン側のメーターは、指数関数的なカーブを描いて跳ね上がっていく。
「な、何よ……これ、何なのこれは……?」
カミラは、ホログラムの中で起きている現象に戦慄した。
自分が組み上げた甘美な楽園は、音を立てて崩れ落ちてゆく。
住民たちは全員、リンが作った地獄の方へ走っていく。
口では「運営はクソ」「開発は鬼」などと罵りながら、財布の紐は自分から千切っている。
「これが《サンクコスト効果》だ。」
「これが《ランダム報酬システム》だ。」
リンは立ち上がり、汗だくになって膝をつく吸血鬼女王を見下ろす。
「君がやっているのは、ただの賭博だ。」
「俺がやっているのは、ビジネスモデルだよ。」
「――勝負はついた、カミラ。」
「ぶはっ……!」
ホログラムが砕け散ると同時に、激烈なフィードバックがカミラの精神を襲った。
鮮血を吐き出した彼女は、玉座にもたれかかったまま力を失う。
千年の知恵を誇った吸血鬼女王は、現代心理学とマーケティングの前では、あまりにも脆かった。
リンはゆっくりと階段を上がり、崩れ落ちた女王の前に立つ。
殺しはしない。
代わりに、《終身労働契約》の紙を、震える彼女の手元にそっと置いた。
「精神力のポテンシャルは高い。素材としては悪くないよ。」
「うちの診療所、ちょうど数字に強いCFOが欲しかったところでね。」
「センスはちょっと古いけど――俺の研修を受ければ、優秀なスタッフになれる。」
カミラは顔を上げ、目の前の男を見つめる。
自分の全てを破壊した相手。
だが、その手は、次のステージへの扉として差し出されている。
恐怖。
畏敬。
そして――自分より高い次元から世界を見下ろす、この男への、抗い難い服従心。
彼女は震える指でペンを取り、契約書にサインした。
「わ、私は……従います。」
【全域システムアナウンス】
【プレイヤー《リン》は、《物理的M&A》により第六十六層の買収に成功しました】
【新規事業《永夜メンタルリカバリーセンター》を獲得】
【S級スタッフ《鮮血大公カミラ(CFO)》を獲得】
リンはネクタイを整え、カメラに向かって完璧な笑みを浮かべる。
「これで第六十六層の不良債権は、一通り整理完了ですね。」
「それと――」
「さっきからチャット欄で、“ガチャ”に興味津々な方が多いようなので。」
「近日中に、当院の《会員ポイントシステム》をリリース予定です。楽しみにお待ちください。」
カミラは深く息を吐き、ギロチンを消し去る。
その瞳からは、先ほどまでの侮りが消え、獣のような危険な光が灯っていた。
「そこまで言うなら――とことん遊んであげる。」
「全員、引き上げ。」
一声の命を受けて、全てのテーブルが床下へ沈む。
代わりに、巨大な円卓がせり上がってきた。
卓上に展開されたのはカードではない。
複雑極まりない魔法ホログラムの“経済シミュレーション盤”だった。
「ルールは単純。《精神力バカラ》よ。」
「互いの精神力をこの盤面に流し込み、バーチャルカジノを運営する。」
「どちらが脳が焼き切れるまでに、より多くの《欲望ポイント》を稼げるか――それで勝敗を決める。」
「賭けるのは、この第六十六層の支配権。」
カミラは血のような唇を舐め、尖った犬歯を覗かせる。
千年を生き、幾多の王と富豪を破滅させてきた吸血鬼。その特技は、人心の弄び方そのものだ。
「いいだろう。」
リンは席につき、指を組んだ。
「なら、こちらからもレイズしよう。」
「あなたが負けたら――領地に加えて、この《終身労働契約》にサインしてもらう。」
「身の程知らずね。」
ゲームが始まった。
カミラの精神力が紅い糸の束になってホログラムへと注ぎ込まれる。
たちまち、盤面には絢爛豪華な仮想都市が立ち上がった。
溢れ返る酒。
美貌の男女。
金貨の山。
欲望の全てを詰め込んだ箱庭に、シミュレーション上の住民たちが殺到し、《欲望ポイント》が爆発的な勢いで積み上がっていく。
「見える? これが人間の本性よ。」
カミラは高笑いする。
「誰も、こういう快楽には抗えない!」
一方その頃、対面のリンは――片肘をついて、露骨にあくびをしていた。
「稚拙だね。」
その口からこぼれたのは、二文字の評価。
「カミラ、君の“快楽”の概念は、中世で止まってる。」
「じゃあ、教えてあげようか。」
「現代心理学における《スキナー箱》――“オペラント条件づけ”ってやつを。」
リンの指先が、そっと盤面に触れる。
【スキル発動:《深層心理アーキテクト》】
世界の様相が一変した。
リンは、仮想住民たちに直接快楽を与えなかった。
代わりに、「ランキング」を実装し、「デイリーミッション」を実装し、「期間限定ガチャ」を実装し、「初回チャージ特典」を実装した。
終わりなき焦燥と比較と、自己否定と承認欲求。
埋まることのない穴だけを、精密に設計して詰め込んでいく。
単純な享楽に溺れていた住民たちは、瞬く間にそちらへと流れていった。
もはや「快楽」そのものには興味を失い、「順位」と「限定スキン」のためだけに、自ら進んで消耗していく。
カミラ側の《欲望ポイント》は、崖から落ちるように減衰を始めた。
対して、リン側のメーターは、指数関数的なカーブを描いて跳ね上がっていく。
「な、何よ……これ、何なのこれは……?」
カミラは、ホログラムの中で起きている現象に戦慄した。
自分が組み上げた甘美な楽園は、音を立てて崩れ落ちてゆく。
住民たちは全員、リンが作った地獄の方へ走っていく。
口では「運営はクソ」「開発は鬼」などと罵りながら、財布の紐は自分から千切っている。
「これが《サンクコスト効果》だ。」
「これが《ランダム報酬システム》だ。」
リンは立ち上がり、汗だくになって膝をつく吸血鬼女王を見下ろす。
「君がやっているのは、ただの賭博だ。」
「俺がやっているのは、ビジネスモデルだよ。」
「――勝負はついた、カミラ。」
「ぶはっ……!」
ホログラムが砕け散ると同時に、激烈なフィードバックがカミラの精神を襲った。
鮮血を吐き出した彼女は、玉座にもたれかかったまま力を失う。
千年の知恵を誇った吸血鬼女王は、現代心理学とマーケティングの前では、あまりにも脆かった。
リンはゆっくりと階段を上がり、崩れ落ちた女王の前に立つ。
殺しはしない。
代わりに、《終身労働契約》の紙を、震える彼女の手元にそっと置いた。
「精神力のポテンシャルは高い。素材としては悪くないよ。」
「うちの診療所、ちょうど数字に強いCFOが欲しかったところでね。」
「センスはちょっと古いけど――俺の研修を受ければ、優秀なスタッフになれる。」
カミラは顔を上げ、目の前の男を見つめる。
自分の全てを破壊した相手。
だが、その手は、次のステージへの扉として差し出されている。
恐怖。
畏敬。
そして――自分より高い次元から世界を見下ろす、この男への、抗い難い服従心。
彼女は震える指でペンを取り、契約書にサインした。
「わ、私は……従います。」
【全域システムアナウンス】
【プレイヤー《リン》は、《物理的M&A》により第六十六層の買収に成功しました】
【新規事業《永夜メンタルリカバリーセンター》を獲得】
【S級スタッフ《鮮血大公カミラ(CFO)》を獲得】
リンはネクタイを整え、カメラに向かって完璧な笑みを浮かべる。
「これで第六十六層の不良債権は、一通り整理完了ですね。」
「それと――」
「さっきからチャット欄で、“ガチャ”に興味津々な方が多いようなので。」
「近日中に、当院の《会員ポイントシステム》をリリース予定です。楽しみにお待ちください。」
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