エゴイスティックだっていいじゃない!

食欲の赴くままに

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想定外の事実

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会いたくなかったと言えば噓になる。
 久しぶりに見たあいつは、昨日も会っていたかのように強烈な既視感を与えた。
 小さな体に、細い手足、それなのに質のいい筋肉が所々に垣間見える。
 紫外線によって茶色がかった、少し癖のある肩に切りそろえられた髪も、きりっとした目も、季節関係なく陶器のように白い肌も、大人しい胸も、鮮明に覚えている。
 出来ないことは出来るまでやる頑固さも、上手くいった時はまるで赤ん坊のように無邪気に笑うことも、逆に上手くいかない時は唇を噛みしめて涙を我慢することも。
 何だって知っていた。いや、お互いに知り合っていただろう。
 なんせ毎朝のように会っていたから。
 それなのに、俺は逃げた。
 自分の都合で、何も告げずに。
 だから会いたいとかそんなことではなく、会わなければならなかった。
 伝えなければならなかった。
 「・・・・・・・・・・えっ。」
 俺の頬に生暖かい水が1滴流れる。
 謝らなければ、何か言わなければならなかった。
 それなのに俺から出たものは卑怯な涙。逃げの涙。
 最低だ・・・・。
 「おいっ!こっち来い!」
 そう言って俺の手を掴みつかつかと勢いそのままにどこかへ引っ張られる。
 俺の手を引っ張るフウの背中あの時よりも大きく見えた。





 俺たちは3階、2階、1階と階段を降り、どんどん人気の少ない方へ方へと歩き、1つの寂れた小屋の中へと入る。
 この学園に不相応なほどにボロく、錆だらけの鉄筋造り。
 公立中学の部室の様なそんな雰囲気を醸し出している。
 そんな小屋の中は外観とは正反対に清潔で、土足で上がるのも申し訳がないほどだった。
 「ちょっと!土足厳禁なんだけど!」
 「ご、ごめん。」
 どうやら土足はダメなようです。
 「どう?いいでしょここ。あたししか知らないんだ!言うなれば秘密基地?あとそれと、誰かに教えたら分かってるよな。」
 ヒェッ!教えたらどうなるんだろう・・・・。怖っ。
 「そ、そうだね。すごくいいよ。中は綺麗だし。」
 「あたしはこのギャップが気に入ってるんだけどなー。」
 「外観掃除が面倒だっただけじゃ・・・・。」
 「ありゃ、見抜かれちったか。」とニコッとはにかむ。
 こういう面倒くさがりな所も変わっていないんだな。
 「まぁ、そんなことは置いておいて、あたし、実を言うと結構怒っています。勿論理由は分かってるよね?」
 さっきまでのおちゃらけた空気から一変、ピリッとした空気が流れる。
 「勿論・・・・、その本当にごめ・・・・」
 「謝らなくていい、理由も言わなくてもいい。何があったか知りたくないってのは嘘になるけど、でももういい。だってまたこうして会えたんだし。また話せるし、一緒にサッカーだってできる。でも・・・・次は無いから。」
 その時のフウの笑顔は、俺の知ってる無邪気な笑顔ではなく、心の底からの笑顔なんかでもなく、まるで悪魔のようだった。
 「はい。」
 俺の返事はその脅威に惨敗し、のどから出るような弱いものになってしまった。
 「ずっと待ってたんだからね・・・・。」
 「えっ、何かおっしゃいましたか?」
 「なーんにもなーーい。」




 その後、俺たちにはゆっくりする余裕は無く、休み時間の終わりを告げるチャイムの音と同時に小屋を出て、教室に向かう。
 まぁ当然間に合わず、少し遅れての入室となった。
 そんな俺たちをクラスの女の子たちは、スキャンダルを見つけたマスコミの様に野性的な視線を送る。
 だが、その野性的な視線を遥かに凌駕するフウの獰猛な視線でそれらを打ち消した。
 話さずとも、「何も聞くな。」「こちらに触れるな。」という事が分かる。
 そんな事をされればどんな人間でも萎縮するわけで、俺たちに向けられた好奇な視線は一瞬にして消え去った。
 「え、えーと、もう話させて頂いてよろしいんですよね?じゃあ話しますね。怒らないでくださいよ。」
 担任兼5時間目の時にお世話になった先生による終礼が始まる。
 こんな遠慮がちな1言目から・・・・。
 




 「それではこれで終礼を終わります。引き続き皆さん、頑張ってくださいね。」
 先生の話が終わるのと同時に、クラスメイト達は一斉に教室を出る。
 まるで全員が何か共通の予定があるかのように。
 皆、部活にでも入っているんだろうか。
 教室に残ったのは、俺と先生と影山だけだった。
 「それじゃあ渡辺君は先生と行こっか。影山さんも着いてきてね。風上さんは・・・・まぁいっか。」
 



 俺たちはどんどん階段を降り、外に出て、さらに学園の奥深く、あまり人のいない場所へと連れていかれる。
 そんなところへ連れていかれると不安がるわけで、影山はビクビクしていた。
 もちろん俺もビクビクしている。
 だがそのビクビクは、どこに連れていかれるんだろうという不安からくるものではなく、ある恐怖からくるものだった。
 「先生、あのーどこに向かってるんですか?」
 「あれ?総帥から聞いてなかったんですか?今、あなたの部の部室へ向かってるんですけど・・・・。」
 はぁ?俺の部?何言ってんだ?俺はサッカー部のコーチをするはずなんじゃ・・・・。
 こんなところにサッカー部の部室無かったはずだけど。
 「あのーうちもなんも・・・・何も聞いていなかったんですけど。」
 「そうだったんですね。でも安心してください。もう着きましたから。」
 そう言って先生はある建物の前で止まる。
 その建物は、不格好で、無駄にゴツゴツした鉄づくりの・・・・、説明はもういいだろう。
 俺の予想は的中、そしてそれにより、俺の死は確定した。
 「うわー、何ここー。これが部室?豚小屋と勘違いしてるんじゃないですかー?」
 「中はすっごい綺麗なんだぜ・・・・。」
 「そんなわけないないやん!バカにしてるん!?」
 そう、ここは影山が俺以外の人間の前で関西弁を言ってしまうくらい外観が汚い。
 これでそれが証明できたはずだ。
 「それでは皆さん入りましょうか。」
 「ちょっと待ってください!今日はやめにしませんか?皆、色々あって疲れてるだろうし。」
 今この状況でここに入れば、間違いなく俺がこの場所を教えた感じになる。
 「何言ってるんですか!我が学園の生徒は部活をしに学園に来ていると言っても過言ではないんですよ!疲れなんて関係ありません!」
 おいっ、先生!それは教育者としてどうなんだ!
 だが、そういう考えは俺だけのようで、影山はうんうんと頷いている。
 この学園はやばい所だったのかもしれない。
 「渡辺君、顔色が悪いですよ。もしかして何かやましいことでもあるんですか?ま、まさかここをエッチな本の隠し場所にしているんですか!?入学1日目にして大胆な行動。やはり前科があるのでは!」
 「してないです!それに前科もないです!」
 「なら早く入りましょう。やましいことがない事の証明もかねて。」
 だ、だめだ。止まらねぇ。せめてフウがいないことを祈ろう。
 先生は勢いそのままにガタガタの鉄扉を開ける。
 そこに広がっている光景はまさに絶景。
 フワフワモコモコ、まさに羊って感じの純白の絨毯、部屋の真ん中には丸い木のテーブル、そのテーブルの眼前にはこの部屋のサイズにぴったりな大きさのテレビ、この部屋唯一の窓には薄ピンクのカーテンが掛けられてあった。
 ついさっきも入ったが、やはり驚く。
 この外観からは想像できないほどに中は綺麗だ。
 まるで、1人暮らしの女の子の部屋って感じ。
 とのうのうと感想を述べているが、俺の汗腺からは人間離れした量の冷汗が滴り落ちていた。
 フウおるやん・・・・。
 フウはドッキリを仕掛けられた女優を彷彿させるかのような驚き顔で固まっていた。
 「あら、風上さん。来てたんですねって何ですかこの部屋は!」
 「うわー綺麗ねー。っげ、フウシンおるやん。」
 「あのー先生、土足厳禁ですよ・・・・。」
 俺は右手にある靴箱を指さす。
 「あら、ありがとう。」
 先生は靴を脱ぎ、靴箱に入れる。
 その後俺たちは全員その部屋に入り、平然とした態度でその場に座る。
 あたかもここの住人であるかのように。
 「・・・・・バカヤローーーーー!!」
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