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1.これは三角関係というのだろうか
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僕は裕福な家に生まれた。
一応家にはそれなりの身分というものもあった。貴族ではないが、それに準ずる程度である。
小さい頃に隣家の、一歳年下の少年とすぐに仲良くなり、隣家の使用人の子どもも交えて三人でよく遊んでいた。
幼なじみ三人組。僕は端正な顔をした隣家の少年をすぐに好きになった。
茶色い髪に茶色い目の僕は平凡顔で、身体はそれなりに鍛えていたけれども背はあまり伸びなかった。そのせいか年頃になっても縁談らしい縁談はこなかった。
優秀な兄がいるおかげで、僕は28歳になって独身のままでいても誰も何も言わなかった。言ってもしょうがないと諦められていたのかもしれない。
僕は、隣家の青年がずっと好きだった。隣家の青年は僕より一歳年下ではあったけど、背は僕より高く、端正な面をしていた。
髪はブロンドで目は青く、誰がどう見ても彼はハンサムだった。そして彼の視線はいつも、使用人の子であるアロー(ブロンドの髪に茶色の目をしている。それなりに顔もいい)に向けられていた。
幼なじみではあったけど、その頃にはもうそれほど交流はなかった。
いくら彼と家柄が釣り合っていたとしても、僕のような容姿の者が彼と結婚したいと思うなんておこがましい。だから僕は一生一人で生きていくのだと思っていた。
隣家の青年――トラッシュに結婚を申し込まれるまでは。
「リューイ、結婚しよう」
「ええっ? なんの冗談だい?」
僕は動揺を抑えて聞き返した。彼が僕に結婚しようと言うなんてありえないと思っていた。内心はとても嬉しくて胸が踊ったけど、それを表には出さないようにはできたと思う。
トラッシュはため息をついた。
「……冗談じゃない。親にいいかげん誰かと結婚しろとせっつかれているんだ。早く跡継ぎを作れとな」
「ああ、そういう……」
トラッシュは隣家の長男だった。確かに彼のところには縁談が沢山持ち込まれていると、隣家の使用人であるアローも言っていた。アローはお使いでよく僕の家に顔を出す。僕はたまにアローを見つけると、トラッシュの様子を聞いたりしていたのだった。
「沢山縁談が来ているんだろう? その中から選べばいいじゃないか」
「……いや、一番いいのは君と結婚することだ」
また胸の内が跳ねた。
「跡継ぎさえ作ればいいんだ」
続いた言葉を聞いて、やっぱりと思った。
「……トラッシュが産むのかい?」
「まさか! 結婚したら俺が君を抱いてやるよ。だが子を産んで初乳をあげたら離婚してほしい。そうすれば俺はアローと結婚できるしな」
「……君は僕をバカにしているのか?」
よくも悪くもトラッシュは正直だった。
「バカになんかしてないよ。君は俺のことが好きだろう? 離婚したって乳母としてうちにいればいいじゃないか?」
悪びれもせず、自分に都合のいいことを言うトラッシュに呆れてしまった。僕の想いなんてとっくに彼にはバレていたらしい。
「……いくらなんでもそんなことはできないよ。彼(アロー)が気を悪くするだろう?」
「君相手に?」
トラッシュが不思議そうな顔をする。
こんなひどいことを言うトラッシュだが、悪気はないのだ。その歯に衣着せぬ言い方も嫌いではない。
なんでそんな奴が好きなのかと自分でも思う時はある。
だけど、僕はトラッシュが好きなのだ。
小さい頃、僕の手をためらいもせず取ってくれた彼が忘れられない。あの時、僕は間違いなく彼に恋をしたのだと思う。
まるで動物の擦り込みのように、あの日から僕はずっとトラッシュのことを想い続けている。
「もう家には連絡してあるから、とっとと嫁いできてくれ。一週間後に結婚パーティーだ。服も全部手配してあるからそれを着てほしい」
トラッシュはすでに家同士で話をつけてしまったらしい。僕は苦笑した。
「僕には拒否権もないのかい?」
「そんなものあるわけないだろ。君は俺のことが好きなんだから」
「……ああ、そうだね」
悔しいと思ったが、それは事実だった。そして僕はトラッシュに嫁ぐことになった。
胸の痛みを抱えながら。
トラッシュに嫁ぐことが決まったのは、アローにもすぐに伝わったらしい。
「リューイ様、トラッシュ様と結婚なさるなんて本当ですか?」
僕はアローの想いなんて全く知らなかったから、アローに詰め寄られた時どう受け答えをすればいいのかわからなかった。
「……リューイ様はトラッシュ様がお好きなのですよね?」
「うん……でも、子を産んだらアローに返すから少しの間だけ貸してほしい」
「は? いったいなんの話ですか?」
アローは詳しい話をトラッシュから聞いていなかったみたいだった。僕から話すのは違うと思ったから、「なんでもない、ごめん。変なことを言って」と手を振った。幸いアローはいぶかしげな顔はしたけれどその時は追及してこなかった。
「……悔しいです。トラッシュ様に貴方を奪われてしまうなんて……」
え? と思ったけど聞き間違いだろう。こんな平凡顔でなんの取柄もない僕のことなんて、誰も好きになるはずがない。
そう自分でも思いながら、勝手に僕は傷ついた。
そうして結婚パーティーの日を迎えた。
一応家にはそれなりの身分というものもあった。貴族ではないが、それに準ずる程度である。
小さい頃に隣家の、一歳年下の少年とすぐに仲良くなり、隣家の使用人の子どもも交えて三人でよく遊んでいた。
幼なじみ三人組。僕は端正な顔をした隣家の少年をすぐに好きになった。
茶色い髪に茶色い目の僕は平凡顔で、身体はそれなりに鍛えていたけれども背はあまり伸びなかった。そのせいか年頃になっても縁談らしい縁談はこなかった。
優秀な兄がいるおかげで、僕は28歳になって独身のままでいても誰も何も言わなかった。言ってもしょうがないと諦められていたのかもしれない。
僕は、隣家の青年がずっと好きだった。隣家の青年は僕より一歳年下ではあったけど、背は僕より高く、端正な面をしていた。
髪はブロンドで目は青く、誰がどう見ても彼はハンサムだった。そして彼の視線はいつも、使用人の子であるアロー(ブロンドの髪に茶色の目をしている。それなりに顔もいい)に向けられていた。
幼なじみではあったけど、その頃にはもうそれほど交流はなかった。
いくら彼と家柄が釣り合っていたとしても、僕のような容姿の者が彼と結婚したいと思うなんておこがましい。だから僕は一生一人で生きていくのだと思っていた。
隣家の青年――トラッシュに結婚を申し込まれるまでは。
「リューイ、結婚しよう」
「ええっ? なんの冗談だい?」
僕は動揺を抑えて聞き返した。彼が僕に結婚しようと言うなんてありえないと思っていた。内心はとても嬉しくて胸が踊ったけど、それを表には出さないようにはできたと思う。
トラッシュはため息をついた。
「……冗談じゃない。親にいいかげん誰かと結婚しろとせっつかれているんだ。早く跡継ぎを作れとな」
「ああ、そういう……」
トラッシュは隣家の長男だった。確かに彼のところには縁談が沢山持ち込まれていると、隣家の使用人であるアローも言っていた。アローはお使いでよく僕の家に顔を出す。僕はたまにアローを見つけると、トラッシュの様子を聞いたりしていたのだった。
「沢山縁談が来ているんだろう? その中から選べばいいじゃないか」
「……いや、一番いいのは君と結婚することだ」
また胸の内が跳ねた。
「跡継ぎさえ作ればいいんだ」
続いた言葉を聞いて、やっぱりと思った。
「……トラッシュが産むのかい?」
「まさか! 結婚したら俺が君を抱いてやるよ。だが子を産んで初乳をあげたら離婚してほしい。そうすれば俺はアローと結婚できるしな」
「……君は僕をバカにしているのか?」
よくも悪くもトラッシュは正直だった。
「バカになんかしてないよ。君は俺のことが好きだろう? 離婚したって乳母としてうちにいればいいじゃないか?」
悪びれもせず、自分に都合のいいことを言うトラッシュに呆れてしまった。僕の想いなんてとっくに彼にはバレていたらしい。
「……いくらなんでもそんなことはできないよ。彼(アロー)が気を悪くするだろう?」
「君相手に?」
トラッシュが不思議そうな顔をする。
こんなひどいことを言うトラッシュだが、悪気はないのだ。その歯に衣着せぬ言い方も嫌いではない。
なんでそんな奴が好きなのかと自分でも思う時はある。
だけど、僕はトラッシュが好きなのだ。
小さい頃、僕の手をためらいもせず取ってくれた彼が忘れられない。あの時、僕は間違いなく彼に恋をしたのだと思う。
まるで動物の擦り込みのように、あの日から僕はずっとトラッシュのことを想い続けている。
「もう家には連絡してあるから、とっとと嫁いできてくれ。一週間後に結婚パーティーだ。服も全部手配してあるからそれを着てほしい」
トラッシュはすでに家同士で話をつけてしまったらしい。僕は苦笑した。
「僕には拒否権もないのかい?」
「そんなものあるわけないだろ。君は俺のことが好きなんだから」
「……ああ、そうだね」
悔しいと思ったが、それは事実だった。そして僕はトラッシュに嫁ぐことになった。
胸の痛みを抱えながら。
トラッシュに嫁ぐことが決まったのは、アローにもすぐに伝わったらしい。
「リューイ様、トラッシュ様と結婚なさるなんて本当ですか?」
僕はアローの想いなんて全く知らなかったから、アローに詰め寄られた時どう受け答えをすればいいのかわからなかった。
「……リューイ様はトラッシュ様がお好きなのですよね?」
「うん……でも、子を産んだらアローに返すから少しの間だけ貸してほしい」
「は? いったいなんの話ですか?」
アローは詳しい話をトラッシュから聞いていなかったみたいだった。僕から話すのは違うと思ったから、「なんでもない、ごめん。変なことを言って」と手を振った。幸いアローはいぶかしげな顔はしたけれどその時は追及してこなかった。
「……悔しいです。トラッシュ様に貴方を奪われてしまうなんて……」
え? と思ったけど聞き間違いだろう。こんな平凡顔でなんの取柄もない僕のことなんて、誰も好きになるはずがない。
そう自分でも思いながら、勝手に僕は傷ついた。
そうして結婚パーティーの日を迎えた。
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