同僚の片思いの相手の情報が少なすぎ

豆腐屋

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片思い⑨

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 武田(22歳)は、自身が働いている居酒屋の予約を高校時代の先輩から頼まれた。
 男二人のくせに、カップル用の個室を指名してきたので、やんわりと別の席を勧めたら、次に会ったら命がないんじゃないか、というぐらいの圧をかけられた。
 怖かった。電話越しなのに。

 とりあえず、どんな人連れてくるのか、めっちゃ見たい!!

 そして、当日。

 思ってたのと違う・・・。

 武田は、健生にエスコートされるようにして来店した金井を見て少々驚いた。

 SNS映えする個室を面白がって指名するチャラついた男達は少数ながらいるが、金井はそうは見えないし健生もそういったことに興味のあるタイプではない。

 いったい、何のためにその個室を・・・と思わずにはいられなかった。

 あの人、辻さんとどういう関係なんだ?真面目そうだし、優しそうだし、何か良い匂いした・・・。
 職場の人かな・・・。 

 武田は、二人を個室に案内した際に金井からふわりと香った匂いを思い出す。優しい柔軟剤の香りが、彼の柔らかい笑顔に良く似合っていた。

 「失礼します、生搾りグレープフルーツサワーとアイスルイボスティーです。」

 金井の前にグレープフルーツサワーを置く。健生が、めったなことでは飲まないのは、よく知っている。
 そして、過去にそれを利用しようと、酔った勢いや演技で彼に介抱されようとして、撃沈した女性も何人か知っている。
 もれなくタクシーにぶち込まれていた。
 
 この人は、そういったこととは無縁そうだ。人に迷惑をかけるほど飲むなんてことしそうにないし、あざとい企みをしかけるとも思えない。

 「ありがとう。」

 金井の口から自然に発せられた礼の言葉、明らかに年上であるのに、まったく威圧感のない柔らかな声に、武田はときめきそうになる。
 日々の接客業の中でストレスにさらされ、少し疲れた心に染み渡るようだ。

 声が、めっちゃ癒やし系・・・。めっちゃ質のいい睡眠に誘ってくれそう。辻さんと、どういう知り合いなんですか・・・。

 「・・・武田・・・」

 散々聞き慣れた低音に名前を呼ばれる。背筋に寒気が、ゾワッと走った。
 過去に暴力を振るわれた経験もないのに、何かとんでもなく怖い。

 「先輩、ルイボスティーっす・・・」
 
 「あぁ、わりぃな。」

 怖い・・・辻さんの言うとおりに、この個室の予約をとったのに・・・。
 見ず知らずの連れの人の方が俺に優しい。
 その人と、この部屋入って何がしたいんすか・・・。

 「辻くんの後輩なの?辻君が言ってた知り合いって・・・?」

 「あぁ、こいつです。」

 「そうだったんだね。今日は、可愛い部屋を用意してくれてありがとう。」

 「いえ、そんなっ!!」

 そこで、武田はハッする。

 辻さん、めっちゃ嬉しそう!!なんか、ちょっとデレてる!!

 「金井さん、可愛いの好きなんスか?さっきから、何回も可愛いって言ってる。」

 えっ、辻さん、女子がこの個室のSNSの写真見せて『次は一緒にこの個室使いたいアピール』しても、冷めた相槌うってただけでしたよね?
 あの子らの方が、あほ程『可愛い』連呼してましたよ?
 俺、めっちゃ気ぃ使って、『予約が必要な時はいつでも言ってくださいね!!』って話ふったりしたし!!
 いや、覚えてたから予約入れろって言ってきたんだ、この人!!

 「そんな何回も言ってた?」

 「言ってましたよ。気に入ってくれたんなら、嬉しいッス。季節やイベントに合わせてディスプレイ変えるらしいし、また付き合って下さいよ。」

 「そんな申し訳ないよ、・・・」

 「これっきりなんて、寂しいじゃないですか・・・」

 それ!!いつも!!女子が!!あんたに言ってるやつ!!
てか、完全に引き際のがしたわ・・・

 「あの・・・先輩、追加注文あるならついでに聞いてくんで言って下さい・・・。」
 
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