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色褪せない夢

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「いっくぞぉあ――魔王、覚悟!」

 何千年も昔から変わらぬ――いや、かわってはならぬ勇者のかけ声。

 そう、この異世界では毎日のように決戦が行われていると錯覚されがちだ。

 実際は、数ある魔王と数ある勇者との闘いが、何百年かごとに繰り返されている。

「ハッ! 死ね、勇者」

 かたちばかりのかけ声。その表情は無表情。瞳は沈んでいる。そこには一片の光すらない。どっちらけな剣先が、どういうわけか勇者にヒットする。

「ぐはっ! ……なぜだ! なぜオレが負ける……」

 ふいに顔をゆがませる勇者。

 そのそばにはトラップによってくたばった王の私兵隊たちが無様に転がり、勇者を支援するすべての者たちがかき集めた、精鋭部隊の踏みにじられた誉れの姿。

「答えは、おまえが独りだからだ……勇者よ。おまえという希望を失うまいと、おまえを庇って倒れた人の数だけ、おまえはひき裂かれるのだ!」

 踏みにじったのは私だ。

 しかし勇者よ、選んだのは貴様だ。

「勇者よ。貴様、この私に逆らったが最後、生きては返さぬよ……」

 その声は魔王の玉座に無機質に響いた。

 ――貴様は、私の贄なのだから。

 
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