俺の婚約者は普通じゃない

水無瀬雨音

文字の大きさ
5 / 5

しおりを挟む
「いやいやいや。いただくな! 助けてぇぇー!」

 恥とかどうでもいい。いただかれるくらいなら。
 みっともなく叫んだ口を、

「……んっ」

 あっという間に塞がれた。

「ん……は……っ」

 喉奥まで舌で犯されて、酸素を求めて開いた口を、再び修二にふさがれる。
 苦しい。でも、気持ちいい。
 好き勝手に口の中を蹂躙されているというのに。
 修二は片手で俺の手を、頭上でまとめ上げた。もう片方の手で、器用に俺のものを取り出す。

「あ!? ちょ……!」

 口づけの先は未知だ。抵抗しようとしたけれど、修二の力は強く、こいつは片手、俺は両手だというのに全く歯が立たない。
 
「ぐ……」

 萎えていたものを、するすると巧みに上下にこすり上げる。要所要所で強弱をつけたり、動きが予想できないせいか、自分でするよりも格段に気持ちがいい。
 出てきた先走りを、くちゅくちゅとまんべんなくまぶされる。
 体の奥から、覚えのある感覚が湧き上がってきた。

(まずい)

 このままではもう……。

(こいつには、絶対イカされたくないのに!)

 歯を食いしばって、別のことを考える。達しないようにと集中したけれど、

「あ……ん、あ、ああぁ……!」

 俺の努力もむなしく、あっという間に達してしまった。息の上がった俺は力が抜けて、修二にすがってしまう。抱きかかえられるようにされて、イラッとしたけど、そうされなければ俺は床に崩れ落ちてしまうだろう。

「ふふ。最近溜まってました? いっぱいでましたね」

 ちらっと見えた修二の手に、どろりとした白いものが広がっている。俺は慌てて目をそらした。

「うるせぇ! お前のせいだろ! お前が女の子と遊ぶの邪魔するから!」

 だから最近は右手が恋人状態だったのだ。基本的に自分でしたことのなかった俺にとっては味気なさ過ぎて、結果として溜まってしまっていた。

「だって、自分の婚約者が他の女の子と遊ぶところなんか、見過ごせるはずがないでしょう。ああ。もう泣いちゃうんですか? 可愛いですね」
「泣いてない!」

 視界がぼやけている気がするけど、断じて泣いてない!あんまり見えていないけど、ニヤニヤしているのが分かる。

「俺もいいですか?」
「何を? んぁ!?」

 聞き返すか聞き返さないかの間に、後孔に何か差し込まれる。恐らく修二の指。比較的スムーズに入るのは、さっき俺が出したものがその指にまぶされているからだろう。
 てか、いつの間にズボン下ろした!?

「ふ……ぐ……」

 一旦指が引き抜かれたと思ったら、再び突っ込まれる。今度は二本。
 指くらいでは痛みはないけれど、抜き差しを繰り返されてひたすら気持ちが悪い。
 だってここは、入れるようにはできていないからー!

「や、やめ……!」

 出されたのは自慰の延長だと思えば我慢できるが、入れられるのは無理だ!

 全力で抵抗すると、修二はちっと舌打ちした。

「面倒くさいなぁ。抵抗されると興奮しますけど」
「お前を喜ばせるために、抵抗してんじゃないんだけど!?」

 一瞬力が弱まったと思ったら、さっと、後ろ手にネクタイでひとまとめにされ、床にうつ伏せに押し付けられた。
 俺の上に、修二が馬乗りになる。

「ん……!」

 好きなやつにこんなことできるはずがない。俺のこと好きとか嘘だろ。男が珍しいからやってみたいだけだろ!

「男は初めてなので、痛かったらすみません」
「謝るなら入れんな!」
「ああ、でもさっき気持ちよくしあげたんだから、多少痛くても相殺されますよね」
「あんなん自慰に毛が生えたようなもんだわ! ぐ……、そんなんで痛さが無しになるかぁ!」

 十中八九指で終わるはずがない。未知だが、そんなもん入れたら俺の肛門裂けるんじゃねぇ? 先ほどの快感と引き換えにするには、あまりに大きい代償である。
 どんなにこいつのものが粗末なものだったとしても、指よりはでかいだろ。一般的に。

「は……、んっ」

 指が腹側の一点に触れた途端、俺の背中がびくりと跳ね上がった。

(な、なんだ?)

 一瞬気持ちよかった気がするけど、気のせいだろ。だって俺男だし、修二だし、尻に突っ込まれて気持ちいいとか。
 だが、めざとい修二が見逃すはずがなく。

「ああ、ここですか? すみません、初めてなので見つけるのに手間取りました」
「は……ん……もう……触んなくてイイ、からぁ……!」

 もちろん俺の意見など聞き入れるはずがない。
 修二がかぎ状に指を曲げ、先ほどのところを執拗にこすり上げる。
 あー、もう。しつっけぇな、こいつ……!
 感情とはうらはらに、強制的に湧き上がってくる快感。

「そこ、はだめだっつってんだろ! あ、ん、やぁ……!」

 口から勝手に漏れる声は、自分のモノだと思えないほど甘い。自分の声も、修二が俺の孔をこする水音も、聞きたくないのに耳をふさぐこともできない。

「や……、気持ちよく、なりたくないのに……! は、ん……」
「修二さんの声、めちゃくちゃかわいいですね」

 耳元で優しく囁かれて、

「や、ん、あああー……!」

 俺は再び達してしまった。
 二回もこいつにやられてしまうなんて、はずかしい。修二は一回も達していないのに。

「あー、イっちゃったんですね」
「うる、っせぇ! もう満足しただろ! これ、ほどけよ!」

 必死で縛られた腕を振り回す。
 ブツを入れられるなんて無理! 処女を失いたくない!
 だが、達していない修二がそれで許してくれるはずがない。

「満足? 冗談でしょ?」

 にいっと修二が笑った気配がした。

「ちょ、待て待て! 何でもする、手、なんなら口でするから! 入れんな!」

 手でするのも、ましてや口でするだなんて虫唾が走るけれど、修二のものを入れられるよりだいぶマシだ。

「んー。それも魅力的ですけど、今度お願いしますね」

 修二の心は動かなかったらしい。

「今度なんてあるはずねーだろ! ぶぁぁーか!」

 何で二度目があると思うの!? 強姦してきた相手と二度目なんかあるはずねーだろ。
 孔に指とは比較にならないほど、硬いものが押し当てられる。
 見えていないから分からないが、……でかそう。

「ちょ、落ち着け、冷静になれ」

 必死で説得を試みようとするが、修二は無情にもそれをぶすっと突き刺した。
 いってー!
 想像以上の衝撃。俺は傷みで悶えた。
 だからそこは出すところであって、入れるもんじゃないんだってー! ましてやそんな硬くてでかいもの!

「ん、あああー! いたっ痛いぃぃー! ぬい、抜いて!」

 ぐいっとあごを掴まれて、後ろを向かされる。顔がつりそうだ。
 いた! 顔も下も痛い!

「はは。顔、涙でぐっちゃぐちゃですね。可愛い」

 何回『可愛い』って言うんだよ、男が言われても嬉しくねーわ!
 てか、泣いてない!

 文句を言おうとする前に、唇をふさがれる。噛みつかれるみたいな口づけ。

「は……、ん……」

 幾度も唇を甘噛みされ、食われるんじゃないかと思った。
 修二の舌が、歯列をなぞり、俺の舌をこする。

(こいつのキス、やっぱ気持ちいい……)
 
 死んでも言わねーけど。
 キスに注意をそむけられ、後孔の痛みを一瞬忘れかけた。
 一旦ひいた楔が、抜けそうになるすんでのところで、再び奥に差し込まれる。

「ふ……すっごく、気持ちいいです」

 修二の額に汗が浮かんでいて、いつもの飄々とした表情は鳴りをひそめていて。
 こいつのこんな顔初めてみたかも。

(ちょっと可愛……。いやいやいや!)

 俺何を考えかけた!?
 この異常な状況に、頭がおかしくなったんじゃねーの?

「ん……!」

 くいっと楔が先ほど修二に責められた一点を突く。先ほどの快感を呼び起こして、びくっと体が震える。
 痛いだけの挿入だったのに、無理やりに与えられる京楽。
 それを俺に与えているのが、修二という屈辱。
 修二は上ずった声で、

「正人さん、気持ちいい?」
「ふ……ん、んなこと、聞くな!」

 なんでもいいから、もう終わらせてほしい。俺の男の尊厳がゼロになる前に。

「あ、ふ……やぁ……っ」
「ごめん、もうもちそうにない……」

 修二の抜き差しが激しくなる。俺の耳元で囁いた。

「正人さん。好き。好きです」
「……!」
(別に嬉しくなんかねーし!)

 ドキッとした気がしたけれど、気のせいだ、気のせい!
 俺が動揺しているすきに最奥に、熱いしぶきが放たれる。
 終わったとたん、安堵で互いに荒く肩で息をする。

(やっと、終わっ……た)

 俺はぐったりと床に頬をつけた。
 床が汚いとかもうそんなこと考える気力などない。

(てか)

 こいつ中に出した!

「おま、中に出すとか最悪だろ!」
「すみません。気持ち良すぎて無理でした」

 いつもの、ひょうひょうとした修二に戻っている。

「初めてやったわけじゃないくせに、無理とか言ってんじゃねーよ! もう終わっただろ!とっととほどけよ!」

 腕を振ると、修二はおとなしくネクタイをするっとほどいた。

「ああ、はい。そうですね」

 床に座り込むと、俺を抱き上げて自分の膝にかかえた。体制が変わると、中からどろっとしたものが流れ出てきて、気持ちが悪い。
 赤くなった手首を優しく撫でてくる。

「赤くなってしまいましたね。正人さんが暴れるから」
「俺がわりーの!? お前がそもそも縛るからだろ!」

 責任転嫁するな。
 
「用すんだだろ。帰るわ」

 あー。証拠探しに来たのとか、もうどうでもいいわ。疲労感がすげぇ。もう何もできない。

「そんな体で帰れるんですか?」
「こんな体にしたのはお前だろ!」

 歩くのは無理だが、車ならばなんとか帰れる。というか、これ以上なにかされたらたまらないので、一刻も早く帰りたい。
 修二は俺をソファーに座らせた。机の引き出しから取り出したものを、ぴらぴらと振った。

「あなたがお探しなのはこれですよね?」
「あ! それ!」

 証拠として突き出してきた、手紙の束。
 さっきは見つからなかったのに、いったいどこに?
 取り返そうと立ち上がりかけて、よろめく。
 くそ! 想像以上に腰に損害が!

 びり!

 修二が手紙をびりびりと破き始める。

「お前何を……?」

 俺としては願ったりかなったりだが。
 こんなにしてしまっては、脅す材料がなくなるのに。
 手紙のかけらがごみ箱にひらひらと落ちていく。どんどん細かくなった手紙は、もはや修復不可能だろう。

「もう、婚約者ごっこは終わりです」
「は?」
 
 俺はぽかんと口を開けた。
 やったから満足したってこと?
 こいつもごっこ遊びのつもりだったんだな。
 俺のこと「きになってた」だの「好き」だの言っておいて。
 
「俺に付き合ってくれて、ありがとうございました。だから婚約はもう……」

 なんでお前はそんなに、悲しそうな顔をしているんだよ。

「お前人の処女奪っといて……! やったらぽいってか」
「そんなわけじゃ……。婚約解消したがってたじゃないですか。正人さんは俺と結婚したいんですか?」

 寂しそうな顔で、修二がふっと笑う。

「んなわけねーだろ。だれがお前なんかと!」

 ただ、

「お前に捨てられるのが、癪なだけだ!」

 できたとしても、修二と結婚なんかしたくない!
 こいつのことなんか好きではないから。
 不思議そうな顔をした修二がつかつかと歩いてきて、俺の隣に座る。

「じゃあ、まだ俺はあなたの婚約者なんですか? 不貞の証拠ももう俺は持ってないのに?」
「……当面な。そのうち捨ててやる。その紙屑みたいにな」
「そうならないように、頑張ります。毎日中に出したら子供ができるかもしれませんしね」

 自分の手に俺の手をのせると、甲に軽い口づけをしてきた。

「できるか! 男同士で! てか俺はまだ二度目をするなんて……」

 見てろ、もっと俺のこと好きにさせたらみっともなく捨ててやるからな!


 これからのことは、また別の話。


     ++++


「優しくて残酷な」のラストに伏線があったので、回収するために書きました。姉が百合カップルなので、弟がBLカップルなのはもともと決めていました。どっちも自分が一番の腹黒カップル。バカな正人可愛い。

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

第一王子は王位継承権を放棄するそうです。

なつか
BL
第一王子、エリアスの護衛を務めるアルフォンスはある日、「第一王子が王位継承権を放棄する」という話を聞き、慌てて第一王子を問いただしに向かう。 護衛×王子の主従BLです。

彼女のお見合い相手に口説かれてます

すいかちゃん
BL
カラオケ店でアルバイトしている澤木陸哉は、交際している彼女から見合いをすると告げられる。おまけに、相手の条件によっては別れるとも・・・。見合い相手は、IT関連の社長をしている久住隆一。 だが、なぜか隆一に口説かれる事になる。 第二話「お見合いの条件」 麻里花の見合い相手と遭遇した陸哉。だが、彼には見合いをする気はないらしい。おまけに、麻里花に彼氏がいるのを怒っているようだ。もし、見合いが断られたら・・・。 第三話「交換条件」 隆一と食事をする事になった陸哉。話しているうちに隆一に対して好感を抱く。 見合いを壊すため、隆一が交換条件を提案する。 第四話「本気で、口説かれてる?」 ホテルの部屋で隆一に迫られる陸哉。お見合いを壊すための条件は、身体を触らせる事。 最後まではしないと言われたものの・・・。 第五話「心が選んだのは」 お見合い当日。陸哉は、いてもたってもいられず見合い会場へと向かう。そして、自分の手で見合いを壊す。隆一にも、2度と会わないつもりでいたが・・・。

逆バニーの呪いにかかった上官をペロペロする部下

ミクリ21 (新)
BL
軍の上官が逆バニーになる呪いにかかって部下にペロペロされる話。

親友の息子と恋愛中です

すいかちゃん
BL
親友の息子である高校生の透と、秘密の恋愛しているピアニストの俊輔。キスから先へ進みたい透は、あれこれと誘惑してくる。 誘惑に負けそうになりながらも、大切過ぎてなかなか最後までできない俊輔。だが、あるスキャンダルが透を不安にさせ・・・。 第一話は俊輔目線。第二話は透目線です。

隊長の胸筋でパイズリしてもらう部下

ミクリ21 (新)
BL
部下×隊長。

真っ黒でごめんなさい。

香野ジャスミン
BL
僕を優先して。 その一言が言えたら、こんな真っ黒な感情はなかったんだろう。 ※ムーンライトノベルズ、エブリスタでも同時公開。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

英雄の帰還。その後に

亜桜黄身
BL
声はどこか聞き覚えがあった。記憶にあるのは今よりもっと少年らしい若々しさの残る声だったはずだが。 低くなった声がもう一度俺の名を呼ぶ。 「久し振りだ、ヨハネス。綺麗になったな」 5年振りに再会した従兄弟である男は、そう言って俺を抱き締めた。 ── 相手が大切だから自分抜きで幸せになってほしい受けと受けの居ない世界では生きていけない攻めの受けが攻めから逃げようとする話。 押しが強めで人の心をあまり理解しないタイプの攻めと攻めより精神的に大人なせいでわがままが言えなくなった美人受け。 舞台はファンタジーですが魔王を倒した後の話なので剣や魔法は出てきません。

処理中です...