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「いやいやいや。いただくな! 助けてぇぇー!」
恥とかどうでもいい。いただかれるくらいなら。
みっともなく叫んだ口を、
「……んっ」
あっという間に塞がれた。
「ん……は……っ」
喉奥まで舌で犯されて、酸素を求めて開いた口を、再び修二にふさがれる。
苦しい。でも、気持ちいい。
好き勝手に口の中を蹂躙されているというのに。
修二は片手で俺の手を、頭上でまとめ上げた。もう片方の手で、器用に俺のものを取り出す。
「あ!? ちょ……!」
口づけの先は未知だ。抵抗しようとしたけれど、修二の力は強く、こいつは片手、俺は両手だというのに全く歯が立たない。
「ぐ……」
萎えていたものを、するすると巧みに上下にこすり上げる。要所要所で強弱をつけたり、動きが予想できないせいか、自分でするよりも格段に気持ちがいい。
出てきた先走りを、くちゅくちゅとまんべんなくまぶされる。
体の奥から、覚えのある感覚が湧き上がってきた。
(まずい)
このままではもう……。
(こいつには、絶対イカされたくないのに!)
歯を食いしばって、別のことを考える。達しないようにと集中したけれど、
「あ……ん、あ、ああぁ……!」
俺の努力もむなしく、あっという間に達してしまった。息の上がった俺は力が抜けて、修二にすがってしまう。抱きかかえられるようにされて、イラッとしたけど、そうされなければ俺は床に崩れ落ちてしまうだろう。
「ふふ。最近溜まってました? いっぱいでましたね」
ちらっと見えた修二の手に、どろりとした白いものが広がっている。俺は慌てて目をそらした。
「うるせぇ! お前のせいだろ! お前が女の子と遊ぶの邪魔するから!」
だから最近は右手が恋人状態だったのだ。基本的に自分でしたことのなかった俺にとっては味気なさ過ぎて、結果として溜まってしまっていた。
「だって、自分の婚約者が他の女の子と遊ぶところなんか、見過ごせるはずがないでしょう。ああ。もう泣いちゃうんですか? 可愛いですね」
「泣いてない!」
視界がぼやけている気がするけど、断じて泣いてない!あんまり見えていないけど、ニヤニヤしているのが分かる。
「俺もいいですか?」
「何を? んぁ!?」
聞き返すか聞き返さないかの間に、後孔に何か差し込まれる。恐らく修二の指。比較的スムーズに入るのは、さっき俺が出したものがその指にまぶされているからだろう。
てか、いつの間にズボン下ろした!?
「ふ……ぐ……」
一旦指が引き抜かれたと思ったら、再び突っ込まれる。今度は二本。
指くらいでは痛みはないけれど、抜き差しを繰り返されてひたすら気持ちが悪い。
だってここは、入れるようにはできていないからー!
「や、やめ……!」
出されたのは自慰の延長だと思えば我慢できるが、入れられるのは無理だ!
全力で抵抗すると、修二はちっと舌打ちした。
「面倒くさいなぁ。抵抗されると興奮しますけど」
「お前を喜ばせるために、抵抗してんじゃないんだけど!?」
一瞬力が弱まったと思ったら、さっと、後ろ手にネクタイでひとまとめにされ、床にうつ伏せに押し付けられた。
俺の上に、修二が馬乗りになる。
「ん……!」
好きなやつにこんなことできるはずがない。俺のこと好きとか嘘だろ。男が珍しいからやってみたいだけだろ!
「男は初めてなので、痛かったらすみません」
「謝るなら入れんな!」
「ああ、でもさっき気持ちよくしあげたんだから、多少痛くても相殺されますよね」
「あんなん自慰に毛が生えたようなもんだわ! ぐ……、そんなんで痛さが無しになるかぁ!」
十中八九指で終わるはずがない。未知だが、そんなもん入れたら俺の肛門裂けるんじゃねぇ? 先ほどの快感と引き換えにするには、あまりに大きい代償である。
どんなにこいつのものが粗末なものだったとしても、指よりはでかいだろ。一般的に。
「は……、んっ」
指が腹側の一点に触れた途端、俺の背中がびくりと跳ね上がった。
(な、なんだ?)
一瞬気持ちよかった気がするけど、気のせいだろ。だって俺男だし、修二だし、尻に突っ込まれて気持ちいいとか。
だが、めざとい修二が見逃すはずがなく。
「ああ、ここですか? すみません、初めてなので見つけるのに手間取りました」
「は……ん……もう……触んなくてイイ、からぁ……!」
もちろん俺の意見など聞き入れるはずがない。
修二がかぎ状に指を曲げ、先ほどのところを執拗にこすり上げる。
あー、もう。しつっけぇな、こいつ……!
感情とはうらはらに、強制的に湧き上がってくる快感。
「そこ、はだめだっつってんだろ! あ、ん、やぁ……!」
口から勝手に漏れる声は、自分のモノだと思えないほど甘い。自分の声も、修二が俺の孔をこする水音も、聞きたくないのに耳をふさぐこともできない。
「や……、気持ちよく、なりたくないのに……! は、ん……」
「修二さんの声、めちゃくちゃかわいいですね」
耳元で優しく囁かれて、
「や、ん、あああー……!」
俺は再び達してしまった。
二回もこいつにやられてしまうなんて、はずかしい。修二は一回も達していないのに。
「あー、イっちゃったんですね」
「うる、っせぇ! もう満足しただろ! これ、ほどけよ!」
必死で縛られた腕を振り回す。
ブツを入れられるなんて無理! 処女を失いたくない!
だが、達していない修二がそれで許してくれるはずがない。
「満足? 冗談でしょ?」
にいっと修二が笑った気配がした。
「ちょ、待て待て! 何でもする、手、なんなら口でするから! 入れんな!」
手でするのも、ましてや口でするだなんて虫唾が走るけれど、修二のものを入れられるよりだいぶマシだ。
「んー。それも魅力的ですけど、今度お願いしますね」
修二の心は動かなかったらしい。
「今度なんてあるはずねーだろ! ぶぁぁーか!」
何で二度目があると思うの!? 強姦してきた相手と二度目なんかあるはずねーだろ。
孔に指とは比較にならないほど、硬いものが押し当てられる。
見えていないから分からないが、……でかそう。
「ちょ、落ち着け、冷静になれ」
必死で説得を試みようとするが、修二は無情にもそれをぶすっと突き刺した。
いってー!
想像以上の衝撃。俺は傷みで悶えた。
だからそこは出すところであって、入れるもんじゃないんだってー! ましてやそんな硬くてでかいもの!
「ん、あああー! いたっ痛いぃぃー! ぬい、抜いて!」
ぐいっとあごを掴まれて、後ろを向かされる。顔がつりそうだ。
いた! 顔も下も痛い!
「はは。顔、涙でぐっちゃぐちゃですね。可愛い」
何回『可愛い』って言うんだよ、男が言われても嬉しくねーわ!
てか、泣いてない!
文句を言おうとする前に、唇をふさがれる。噛みつかれるみたいな口づけ。
「は……、ん……」
幾度も唇を甘噛みされ、食われるんじゃないかと思った。
修二の舌が、歯列をなぞり、俺の舌をこする。
(こいつのキス、やっぱ気持ちいい……)
死んでも言わねーけど。
キスに注意をそむけられ、後孔の痛みを一瞬忘れかけた。
一旦ひいた楔が、抜けそうになるすんでのところで、再び奥に差し込まれる。
「ふ……すっごく、気持ちいいです」
修二の額に汗が浮かんでいて、いつもの飄々とした表情は鳴りをひそめていて。
こいつのこんな顔初めてみたかも。
(ちょっと可愛……。いやいやいや!)
俺何を考えかけた!?
この異常な状況に、頭がおかしくなったんじゃねーの?
「ん……!」
くいっと楔が先ほど修二に責められた一点を突く。先ほどの快感を呼び起こして、びくっと体が震える。
痛いだけの挿入だったのに、無理やりに与えられる京楽。
それを俺に与えているのが、修二という屈辱。
修二は上ずった声で、
「正人さん、気持ちいい?」
「ふ……ん、んなこと、聞くな!」
なんでもいいから、もう終わらせてほしい。俺の男の尊厳がゼロになる前に。
「あ、ふ……やぁ……っ」
「ごめん、もうもちそうにない……」
修二の抜き差しが激しくなる。俺の耳元で囁いた。
「正人さん。好き。好きです」
「……!」
(別に嬉しくなんかねーし!)
ドキッとした気がしたけれど、気のせいだ、気のせい!
俺が動揺しているすきに最奥に、熱いしぶきが放たれる。
終わったとたん、安堵で互いに荒く肩で息をする。
(やっと、終わっ……た)
俺はぐったりと床に頬をつけた。
床が汚いとかもうそんなこと考える気力などない。
(てか)
こいつ中に出した!
「おま、中に出すとか最悪だろ!」
「すみません。気持ち良すぎて無理でした」
いつもの、ひょうひょうとした修二に戻っている。
「初めてやったわけじゃないくせに、無理とか言ってんじゃねーよ! もう終わっただろ!とっととほどけよ!」
腕を振ると、修二はおとなしくネクタイをするっとほどいた。
「ああ、はい。そうですね」
床に座り込むと、俺を抱き上げて自分の膝にかかえた。体制が変わると、中からどろっとしたものが流れ出てきて、気持ちが悪い。
赤くなった手首を優しく撫でてくる。
「赤くなってしまいましたね。正人さんが暴れるから」
「俺がわりーの!? お前がそもそも縛るからだろ!」
責任転嫁するな。
「用すんだだろ。帰るわ」
あー。証拠探しに来たのとか、もうどうでもいいわ。疲労感がすげぇ。もう何もできない。
「そんな体で帰れるんですか?」
「こんな体にしたのはお前だろ!」
歩くのは無理だが、車ならばなんとか帰れる。というか、これ以上なにかされたらたまらないので、一刻も早く帰りたい。
修二は俺をソファーに座らせた。机の引き出しから取り出したものを、ぴらぴらと振った。
「あなたがお探しなのはこれですよね?」
「あ! それ!」
証拠として突き出してきた、手紙の束。
さっきは見つからなかったのに、いったいどこに?
取り返そうと立ち上がりかけて、よろめく。
くそ! 想像以上に腰に損害が!
びり!
修二が手紙をびりびりと破き始める。
「お前何を……?」
俺としては願ったりかなったりだが。
こんなにしてしまっては、脅す材料がなくなるのに。
手紙のかけらがごみ箱にひらひらと落ちていく。どんどん細かくなった手紙は、もはや修復不可能だろう。
「もう、婚約者ごっこは終わりです」
「は?」
俺はぽかんと口を開けた。
やったから満足したってこと?
こいつもごっこ遊びのつもりだったんだな。
俺のこと「きになってた」だの「好き」だの言っておいて。
「俺に付き合ってくれて、ありがとうございました。だから婚約はもう……」
なんでお前はそんなに、悲しそうな顔をしているんだよ。
「お前人の処女奪っといて……! やったらぽいってか」
「そんなわけじゃ……。婚約解消したがってたじゃないですか。正人さんは俺と結婚したいんですか?」
寂しそうな顔で、修二がふっと笑う。
「んなわけねーだろ。だれがお前なんかと!」
ただ、
「お前に捨てられるのが、癪なだけだ!」
できたとしても、修二と結婚なんかしたくない!
こいつのことなんか好きではないから。
不思議そうな顔をした修二がつかつかと歩いてきて、俺の隣に座る。
「じゃあ、まだ俺はあなたの婚約者なんですか? 不貞の証拠ももう俺は持ってないのに?」
「……当面な。そのうち捨ててやる。その紙屑みたいにな」
「そうならないように、頑張ります。毎日中に出したら子供ができるかもしれませんしね」
自分の手に俺の手をのせると、甲に軽い口づけをしてきた。
「できるか! 男同士で! てか俺はまだ二度目をするなんて……」
見てろ、もっと俺のこと好きにさせたらみっともなく捨ててやるからな!
これからのことは、また別の話。
++++
「優しくて残酷な」のラストに伏線があったので、回収するために書きました。姉が百合カップルなので、弟がBLカップルなのはもともと決めていました。どっちも自分が一番の腹黒カップル。バカな正人可愛い。
恥とかどうでもいい。いただかれるくらいなら。
みっともなく叫んだ口を、
「……んっ」
あっという間に塞がれた。
「ん……は……っ」
喉奥まで舌で犯されて、酸素を求めて開いた口を、再び修二にふさがれる。
苦しい。でも、気持ちいい。
好き勝手に口の中を蹂躙されているというのに。
修二は片手で俺の手を、頭上でまとめ上げた。もう片方の手で、器用に俺のものを取り出す。
「あ!? ちょ……!」
口づけの先は未知だ。抵抗しようとしたけれど、修二の力は強く、こいつは片手、俺は両手だというのに全く歯が立たない。
「ぐ……」
萎えていたものを、するすると巧みに上下にこすり上げる。要所要所で強弱をつけたり、動きが予想できないせいか、自分でするよりも格段に気持ちがいい。
出てきた先走りを、くちゅくちゅとまんべんなくまぶされる。
体の奥から、覚えのある感覚が湧き上がってきた。
(まずい)
このままではもう……。
(こいつには、絶対イカされたくないのに!)
歯を食いしばって、別のことを考える。達しないようにと集中したけれど、
「あ……ん、あ、ああぁ……!」
俺の努力もむなしく、あっという間に達してしまった。息の上がった俺は力が抜けて、修二にすがってしまう。抱きかかえられるようにされて、イラッとしたけど、そうされなければ俺は床に崩れ落ちてしまうだろう。
「ふふ。最近溜まってました? いっぱいでましたね」
ちらっと見えた修二の手に、どろりとした白いものが広がっている。俺は慌てて目をそらした。
「うるせぇ! お前のせいだろ! お前が女の子と遊ぶの邪魔するから!」
だから最近は右手が恋人状態だったのだ。基本的に自分でしたことのなかった俺にとっては味気なさ過ぎて、結果として溜まってしまっていた。
「だって、自分の婚約者が他の女の子と遊ぶところなんか、見過ごせるはずがないでしょう。ああ。もう泣いちゃうんですか? 可愛いですね」
「泣いてない!」
視界がぼやけている気がするけど、断じて泣いてない!あんまり見えていないけど、ニヤニヤしているのが分かる。
「俺もいいですか?」
「何を? んぁ!?」
聞き返すか聞き返さないかの間に、後孔に何か差し込まれる。恐らく修二の指。比較的スムーズに入るのは、さっき俺が出したものがその指にまぶされているからだろう。
てか、いつの間にズボン下ろした!?
「ふ……ぐ……」
一旦指が引き抜かれたと思ったら、再び突っ込まれる。今度は二本。
指くらいでは痛みはないけれど、抜き差しを繰り返されてひたすら気持ちが悪い。
だってここは、入れるようにはできていないからー!
「や、やめ……!」
出されたのは自慰の延長だと思えば我慢できるが、入れられるのは無理だ!
全力で抵抗すると、修二はちっと舌打ちした。
「面倒くさいなぁ。抵抗されると興奮しますけど」
「お前を喜ばせるために、抵抗してんじゃないんだけど!?」
一瞬力が弱まったと思ったら、さっと、後ろ手にネクタイでひとまとめにされ、床にうつ伏せに押し付けられた。
俺の上に、修二が馬乗りになる。
「ん……!」
好きなやつにこんなことできるはずがない。俺のこと好きとか嘘だろ。男が珍しいからやってみたいだけだろ!
「男は初めてなので、痛かったらすみません」
「謝るなら入れんな!」
「ああ、でもさっき気持ちよくしあげたんだから、多少痛くても相殺されますよね」
「あんなん自慰に毛が生えたようなもんだわ! ぐ……、そんなんで痛さが無しになるかぁ!」
十中八九指で終わるはずがない。未知だが、そんなもん入れたら俺の肛門裂けるんじゃねぇ? 先ほどの快感と引き換えにするには、あまりに大きい代償である。
どんなにこいつのものが粗末なものだったとしても、指よりはでかいだろ。一般的に。
「は……、んっ」
指が腹側の一点に触れた途端、俺の背中がびくりと跳ね上がった。
(な、なんだ?)
一瞬気持ちよかった気がするけど、気のせいだろ。だって俺男だし、修二だし、尻に突っ込まれて気持ちいいとか。
だが、めざとい修二が見逃すはずがなく。
「ああ、ここですか? すみません、初めてなので見つけるのに手間取りました」
「は……ん……もう……触んなくてイイ、からぁ……!」
もちろん俺の意見など聞き入れるはずがない。
修二がかぎ状に指を曲げ、先ほどのところを執拗にこすり上げる。
あー、もう。しつっけぇな、こいつ……!
感情とはうらはらに、強制的に湧き上がってくる快感。
「そこ、はだめだっつってんだろ! あ、ん、やぁ……!」
口から勝手に漏れる声は、自分のモノだと思えないほど甘い。自分の声も、修二が俺の孔をこする水音も、聞きたくないのに耳をふさぐこともできない。
「や……、気持ちよく、なりたくないのに……! は、ん……」
「修二さんの声、めちゃくちゃかわいいですね」
耳元で優しく囁かれて、
「や、ん、あああー……!」
俺は再び達してしまった。
二回もこいつにやられてしまうなんて、はずかしい。修二は一回も達していないのに。
「あー、イっちゃったんですね」
「うる、っせぇ! もう満足しただろ! これ、ほどけよ!」
必死で縛られた腕を振り回す。
ブツを入れられるなんて無理! 処女を失いたくない!
だが、達していない修二がそれで許してくれるはずがない。
「満足? 冗談でしょ?」
にいっと修二が笑った気配がした。
「ちょ、待て待て! 何でもする、手、なんなら口でするから! 入れんな!」
手でするのも、ましてや口でするだなんて虫唾が走るけれど、修二のものを入れられるよりだいぶマシだ。
「んー。それも魅力的ですけど、今度お願いしますね」
修二の心は動かなかったらしい。
「今度なんてあるはずねーだろ! ぶぁぁーか!」
何で二度目があると思うの!? 強姦してきた相手と二度目なんかあるはずねーだろ。
孔に指とは比較にならないほど、硬いものが押し当てられる。
見えていないから分からないが、……でかそう。
「ちょ、落ち着け、冷静になれ」
必死で説得を試みようとするが、修二は無情にもそれをぶすっと突き刺した。
いってー!
想像以上の衝撃。俺は傷みで悶えた。
だからそこは出すところであって、入れるもんじゃないんだってー! ましてやそんな硬くてでかいもの!
「ん、あああー! いたっ痛いぃぃー! ぬい、抜いて!」
ぐいっとあごを掴まれて、後ろを向かされる。顔がつりそうだ。
いた! 顔も下も痛い!
「はは。顔、涙でぐっちゃぐちゃですね。可愛い」
何回『可愛い』って言うんだよ、男が言われても嬉しくねーわ!
てか、泣いてない!
文句を言おうとする前に、唇をふさがれる。噛みつかれるみたいな口づけ。
「は……、ん……」
幾度も唇を甘噛みされ、食われるんじゃないかと思った。
修二の舌が、歯列をなぞり、俺の舌をこする。
(こいつのキス、やっぱ気持ちいい……)
死んでも言わねーけど。
キスに注意をそむけられ、後孔の痛みを一瞬忘れかけた。
一旦ひいた楔が、抜けそうになるすんでのところで、再び奥に差し込まれる。
「ふ……すっごく、気持ちいいです」
修二の額に汗が浮かんでいて、いつもの飄々とした表情は鳴りをひそめていて。
こいつのこんな顔初めてみたかも。
(ちょっと可愛……。いやいやいや!)
俺何を考えかけた!?
この異常な状況に、頭がおかしくなったんじゃねーの?
「ん……!」
くいっと楔が先ほど修二に責められた一点を突く。先ほどの快感を呼び起こして、びくっと体が震える。
痛いだけの挿入だったのに、無理やりに与えられる京楽。
それを俺に与えているのが、修二という屈辱。
修二は上ずった声で、
「正人さん、気持ちいい?」
「ふ……ん、んなこと、聞くな!」
なんでもいいから、もう終わらせてほしい。俺の男の尊厳がゼロになる前に。
「あ、ふ……やぁ……っ」
「ごめん、もうもちそうにない……」
修二の抜き差しが激しくなる。俺の耳元で囁いた。
「正人さん。好き。好きです」
「……!」
(別に嬉しくなんかねーし!)
ドキッとした気がしたけれど、気のせいだ、気のせい!
俺が動揺しているすきに最奥に、熱いしぶきが放たれる。
終わったとたん、安堵で互いに荒く肩で息をする。
(やっと、終わっ……た)
俺はぐったりと床に頬をつけた。
床が汚いとかもうそんなこと考える気力などない。
(てか)
こいつ中に出した!
「おま、中に出すとか最悪だろ!」
「すみません。気持ち良すぎて無理でした」
いつもの、ひょうひょうとした修二に戻っている。
「初めてやったわけじゃないくせに、無理とか言ってんじゃねーよ! もう終わっただろ!とっととほどけよ!」
腕を振ると、修二はおとなしくネクタイをするっとほどいた。
「ああ、はい。そうですね」
床に座り込むと、俺を抱き上げて自分の膝にかかえた。体制が変わると、中からどろっとしたものが流れ出てきて、気持ちが悪い。
赤くなった手首を優しく撫でてくる。
「赤くなってしまいましたね。正人さんが暴れるから」
「俺がわりーの!? お前がそもそも縛るからだろ!」
責任転嫁するな。
「用すんだだろ。帰るわ」
あー。証拠探しに来たのとか、もうどうでもいいわ。疲労感がすげぇ。もう何もできない。
「そんな体で帰れるんですか?」
「こんな体にしたのはお前だろ!」
歩くのは無理だが、車ならばなんとか帰れる。というか、これ以上なにかされたらたまらないので、一刻も早く帰りたい。
修二は俺をソファーに座らせた。机の引き出しから取り出したものを、ぴらぴらと振った。
「あなたがお探しなのはこれですよね?」
「あ! それ!」
証拠として突き出してきた、手紙の束。
さっきは見つからなかったのに、いったいどこに?
取り返そうと立ち上がりかけて、よろめく。
くそ! 想像以上に腰に損害が!
びり!
修二が手紙をびりびりと破き始める。
「お前何を……?」
俺としては願ったりかなったりだが。
こんなにしてしまっては、脅す材料がなくなるのに。
手紙のかけらがごみ箱にひらひらと落ちていく。どんどん細かくなった手紙は、もはや修復不可能だろう。
「もう、婚約者ごっこは終わりです」
「は?」
俺はぽかんと口を開けた。
やったから満足したってこと?
こいつもごっこ遊びのつもりだったんだな。
俺のこと「きになってた」だの「好き」だの言っておいて。
「俺に付き合ってくれて、ありがとうございました。だから婚約はもう……」
なんでお前はそんなに、悲しそうな顔をしているんだよ。
「お前人の処女奪っといて……! やったらぽいってか」
「そんなわけじゃ……。婚約解消したがってたじゃないですか。正人さんは俺と結婚したいんですか?」
寂しそうな顔で、修二がふっと笑う。
「んなわけねーだろ。だれがお前なんかと!」
ただ、
「お前に捨てられるのが、癪なだけだ!」
できたとしても、修二と結婚なんかしたくない!
こいつのことなんか好きではないから。
不思議そうな顔をした修二がつかつかと歩いてきて、俺の隣に座る。
「じゃあ、まだ俺はあなたの婚約者なんですか? 不貞の証拠ももう俺は持ってないのに?」
「……当面な。そのうち捨ててやる。その紙屑みたいにな」
「そうならないように、頑張ります。毎日中に出したら子供ができるかもしれませんしね」
自分の手に俺の手をのせると、甲に軽い口づけをしてきた。
「できるか! 男同士で! てか俺はまだ二度目をするなんて……」
見てろ、もっと俺のこと好きにさせたらみっともなく捨ててやるからな!
これからのことは、また別の話。
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