お前だけが俺の運命の番

水無瀬雨音

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欲しいもの

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 リュカの屋敷に住むようになって、半年がすぎた。
 暇であることを除けば、案外快適だった。見たことのない屋敷の規模と、使用人の多さに最初はびびったものの、リュカの配偶者として丁重に扱ってもらえる。
 服や靴もリュカの身に着けているものと大差ないものをたくさんしつらえてもらった。
 オメガの施設のように、軟禁まがいのことをされるわけでもなく、護衛さえつければ城下町に出掛けることも許された。

 開いた時間には、クレマンが基本的なマナーや、この国の歴史、運命の番について教えてくれた。孤児院では簡単な読み書きしか学んだことがなかったが、俺は案外勉強が好きなのだと気づいた。知識が増えていくことは、単純に楽しい。
 仕事が多忙なリュカとは顔を合わせることはほとんどなく、たまに時間が合えば一緒に食事を取る程度。運命の番として夜伽を強要されることもなかった。寝室も別だし。
 多少覚悟していたので、ほっとした。

 リュカの屋敷の庭は広い。天気のいい日は、庭で散歩するのが日課になった。ガゼボでお茶を飲んだり、本を読んだりすることもある。
 薔薇が咲き始めて、目ににぎやかだ。花を楽しむなんて、以前の俺では考えられなかった。生きて行くのに必死だったし、せいぜいたまに客室に花を生けるくらいだった。
 薔薇に鼻を寄せると、控えめな甘い香りが漂った。

 玄関のあたりがざわざわし始めたので顔をあげると、リュカの馬車が到着したようだ。こんなに早い時間に帰宅するのは珍しい。
 馬車を降りてすぐ、リュカが俺のほうに顔を向ける。結構な距離があるのに。番だから、俺のフェロモンが分かったとでも言うみたいに。
 いくらもしないうちに、リュカが歩み寄ってくる。足が長いせいか、リュカは歩くのが早い。
 リュカの手が近づいてきて、何をされるのだろうと思っていると、髪に花びらがついていたようだった。指でつまんだ花びらを、ふうっと息をかけてリュカは吹き飛ばす。

「ずいぶんと髪が美しくなったな」

 再び伸びたリュカの手が、俺の髪を撫でた。
肩の少し下まである金髪は不精して伸ばしていただけで、こだわりがあったわけではない。手入れを全くしていない傷んだ髪は、この屋敷にきてから香油を丹念に塗り込んでもらったおかげで、だいぶきれいになった。

「たっかい香油塗り込んでもらってるから」
「不便はないか? 欲しいものは?」
「不便してるとしたら暇ってことだけ。女じゃねーから、服も宝石もいらねーし欲しいものはない」

 欲しいものはないのは本当だ。ただ、結婚だのなんだの言っていたわりに、一向に指輪をくれない、式もあげない、番にもしないのが不満ではある。
 出会ったときリュカは俺のことを「運命の番」だなんて言い、すぐにでも伴侶にするつもりに見えたのに。
でも俺から言うのはしゃくだから言わなかった。まるで俺から番になるのを迫るようだから。

 可愛げのない俺の返答に、リュカは目を細めて耳と尻尾をぱたぱたと動かした。

「今仕事が多忙だから構えなくてすまないな。じきに落ち着くからそしたら舞台にでも連れて行ってやる」

 子どもにするかのように、リュカが俺の頭を撫でる。リュカに頭を撫でられるのは、気持ちがいい。

「別にかまって欲しいなんて思ってないけど。一緒に行きたいなら、行ってやってもいい」
「そうか。まだ仕事があるから俺はもう行く」
「うん」

 素っ気ない返事で、リュカを見送る。リュカの背中はすぐに小さくなった。
 もっと可愛げのあることを言えば、喜ぶのだろうと分かっていて、言えない。だって恥ずかしいから。
 リュカと顔を合わせることは稀なのに、たまに顔を合わせれば俺を大切に思ってくれていることが伝わってくるから、だんだんと惹かれていくのが分かった。
 このままここで暮らすのも悪くないかもな、と思い始めて、屋敷から逃げ出そうって考えはほとんどなくなっていた。
 なぜリュカが俺を番にしないまま傍に置いておくのかは不明だ。だけど、それでも彼が俺を傍に置いておきたいと思っていてくれるのなら、それでもいいと思った。


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