お前だけが俺の運命の番

水無瀬雨音

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運命の番

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 ぎゅっと目をつぶったとき、俺にいざ突っ込もうとした男が、吹っ飛んだ。

(……は?)
「俺の番に手を出して、命で償う覚悟があるんだろうな!」

 目を開けると、ここにはいないはずのリュカがいた。

(夢? じゃ、ないよな?)

 いつもの耳と尻尾以外は人間と変わらない半獣の姿ではなく、完全な狼の姿だ。
 黒い雄々しい狼。初めて見た完全な獣体の姿。美しい、と思ってしまった。
 俺の胸の飾りをいじくりまわしていたもう一人の男も、噛みついてぶん投げる。
 グルルルルとのどを鳴らすと、俺に目を向けた。ぐにゃり、と体がゆがんで見慣れた半獣の姿に戻る。

「ちょ……!」

 抱き上げられたとたん、リュカのフェロモンに包まれる。とてつもない安心感と幸福感で、蕩けそうになった。でも、俺は怒っていたのを思い出して暴れるが、もちろんリュカに力で敵うわけがない。

「俺、怒ってるんだからな! 婚約者とか、勝手に作りやがって! 俺のこといらなくなったんなら、言えばいいじゃねーか!」
「説明は全部後だ。クレマン。始末は任せる」
「かしこまりました」

 クレマンを残し、さっさと俺を抱いたまま、馬車に乗るリュカ。座面に座った途端、馬車は走り出す。
 いつも通りの仏頂面。さっきの奴らはヒートの俺に理性失ったのに、『運命の番』のお前がどうしていつも通りにいられるんだよ。俺の方は、馬車という密室でのリュカのフェロモンで、気を抜いたら理性ぶっ飛びそうになっているのに。

「なんなんだよ! 平気な顔しやがって! 腹が立つ」

 俺だけこんな風になっているのは腹が立って、こいつに捨てられるにしても利用してやろうと思った。こいつに突っ込まれれば、ヒートが多少マシになるはずだから。
 膝に乗せられていた俺は、リュカの胸倉をつかんで、唇をふさいだ。前こいつにされたキスを思い出しながら、リュカの唇の間を割り入って入れた舌を、たどたどしく動かす。


 側面をなぞり、舌先を吸う。

「いいからさっさと突っ込めよ……。運命の番さん?」

 唇を離すと、その間を銀糸が繋いだ。それを、舌でちぎる。

「平気な顔、だと?俺が今までどんな思いで……!」

 リュカははぁと深いため息をつくと、俺の背中が胸につくように抱え直した。

「屋敷まではすぐだし、ここでは思う存分抱けないからな。とりあえず、散らしてやる」

 俺のトラウザーズを引き下げ、自身を引き出す。先ほど半端に愛撫されて、はちきれんばかりになって蜜がこぼれたままだ。見られて恥ずかしいとかそんな気持ちはみじんもなかった。
ただ、この熱を冷まして欲しい。楽にしてほしい。……リュカに。それだけだった。
 右手で俺のものをゆるゆると上下し、左手ではつんととがった胸の飾りをいじられる。

「ふ……ん、ぁ……!」
「声、押さえとけよ? お前の声を、御者に聞かせたくない」

 ここと御者台とは一応区切られているが、大きな声を出せば、多少は聞かれるだろう。もちろん俺も別に聞かれたくはないが、快感を追うのに必死で、押さえるのは無理だった。

「無茶、言うな、よ」

 いやいやするように緩慢に首を振ると、リュカは唇をふさいできた。
 口の中を舌で愛撫され、胸のとがりをつままれ、つぶされる。

「あ……ん、あぁあああ……!」

 少し強めにしごかれると、頭の中が真っ白になって、俺はあっという間に達してしまった。

 ……足りない。
 達したら楽になれると思ったのに、全然足りない。

「もっと、気持ちよくしろよ。触れよ。イカせて」

 唇が離れたのを見計らってねだる。もう、快楽を追うことしか考えられない。
舌打ちしたリュカは、再び俺のものに手を伸ばした。
 幾度もイカされ、頭の中がさらに蕩けそうになった時、馬車が停止した。屋敷に着いたらしい。

 リュカは上着を脱ぐと、それで俺をくるんで抱き上げた。いつもなら恥ずかしいと思うだろうが、今はそれどころじゃなかった。どうでもいいから、早く二人になりたかった。
 馬車を降りたったリュカは、荒々しくドアをけ破るようにして開ける。

「しばらく部屋にこもる。食事は適当な時間にドアの前においていてくれ。仕事と屋敷のことはクレマンに任せる。じきに屋敷に戻るはずだ」
「かしこまりました」

 出迎えた使用人に指示し、またも荒々しく寝室のドアを開けて大股に部屋を横切ると、俺をベッドに降ろす。
 ほとんどかろうじて体に引っかかっていただけになっていた衣服をはがされる。
 後穴に突っ込まれた指が、くちゅくちゅと水音を立てた。ヒートの俺は十分すぎるほど濡れそぼっていて。指ではむしろ、もどかしいくらいだった。

「ヒートの俺にはそんなことしなくていい、から。入れて」

 喘ぎながら懇願すると、険しい顔をしたリュカが自身を取り出した。

「痛かったら言え。すぐに抜く」

 後孔に硬くなったものがあてられる。俺で、こんなになってくれたことが嬉しかった。
 うなづくと、リュカが一気に腰を進めた。

「ふ……ん……っ」

 指とは段違いに太いものを一度に入れられるとさすがに衝撃が走ったが、ほとんどならしていないにも関わらず、痛みは全くなかった。

「大丈夫か?」

 心配そうな顔をしたリュカが、頭を撫でてくる。いつもはぴんと立っている耳がぺたんとしている。
 慣れるまでは、動かないでいてくれるらしい。俺が落ち着いたのを見計らって、ゆるゆると動き始める。

「ふ……ぁ……」

 初めてなのに、気持ちがいい。
 俺がオメガでさらにいえばヒートだからなのか、相手がリュカだからなのか。後者なら嬉しいと思いながら、快感を追う。
 緩やかだった動きが激しくなり、最奥を突かれて、俺はたまらず声を上げた。

「ん……あ、気持ちい……。リュカぁ……!」

 仏頂面だけど、リュカが喜んでいるのが分かる。尻尾と耳がぱたぱたと動いているから。

(そうだ。うなじ……)

 リュカにうなじを噛んでもらえば、俺たちは本当に番になれる。指輪がどうのとかはっきりした言葉がどうのとか、籍がどうのとかそんな些末なものはどうでもよくなる。そんなものよりも、もっと強い関係になれる。
 婚約者がいても、俺を簡単には捨てられないはずだ。
 俺のこの考えはずるい。そう思ったが、俺はリュカの首元に手を回してねだった。

「ね……うなじ……噛んで?」

 その途端、リュカは顔をゆがめて舌打ちした。

「……くそっ。さっきからお前は……!悪いが、そんなに煽られて何もしないでいるほど、俺は人間ができていないからな。……お前が悪い」

 体を繋げたまま、荒々しくリュカは俺をうつ伏せにした。

「んぁっ……! ぁ……ん……っ」

 リュカは激しく腰をグラインドしながら、俺のうなじに噛みついた。

「……んっ」

 うなじに鋭い牙がささり、痛みが走る。だが、その痛みすらも今の俺には甘美だ。

「……ヴェルトリー、ヴェルトリー……!」

(婚約者がいるくせに……)

 どうしてそんな風に、恋焦がれるような声で、名前を呼ぶのだろう。大切なものを見るかのような目をするのだろう。

(ずるい……!)

 声を聞きたくなくて、目を見たくなくて、俺は体を反らせると、リュカの唇にかみついた。

「ふ……ぁあ!?」
 腹側のある一点を突かれると、今までのものとは格段に違う快楽を感じた。

「ああ。ここがお前のいいところなんだな」

 俺の変化を敏感に察したリュカは、にやりと笑ってそこを集中的にガツガツと突き始めた。体を反らすのをやめて、俺はうつ伏せになって、シーツをぎゅうっと握り快楽を散らした。
 頭の中がちかちかしてくる。

「あ、あぁ……。そこ、だめ……!」
「『だめ』じゃなくて『いい』だろ? ここを可愛がってやったら、締め付けがまるで違う」

 多分リュカはにやっとしているのだろう。でも、その声は息が上がっていて、俺は安堵した。

「ふ……あ、も、ぅ……あ……!」
「イクか? 何度でもイケばいい。いくらでも付き合ってやる」
「ああ……リュカ……。イク……!」

 全身を熱い奔流が駆け巡って、俺は達した。同時に、リュカも俺の中に、熱い飛沫を散らした。
 俺が飛沫を出し終えても、リュカはまだまだ出し続けていて。

「ふ……や……。なが、いぃ……!」

 出されている中が熱い。やけどしそうに。しかも、リュカのものは余計に大きくなっていて。膨らんだこぶ状のもので、ふたをされているようになっている。

「子が成しやすくなるように、狼の射精は長いんだ。……番なら、覚えておくんだな」

 無理やりに体を反らされて口づけられて、息苦しくて気持ちよくなって、俺はもう訳が分からなくなった。


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