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新婚旅行をプレゼントされたとはいえ、翠は急に仕事を休むわけにはいかず、結局お盆休みに出発することになり、ついでに、家族だけの形式的な式を挙げておくことになった。
式場は当然ミサラギホテルのチャペルだ。
立体的な花模様がふんだんにあしらわれたAラインのチュールドレスにロングベールをかぶった翠と対面した蒼也がそっと耳打ちしてきた。
「なあ、翠、あの時のこと覚えてるか?」
「えっと、はい、あれ……ですよね」
幼い頃、ホテルを探検していた二人が初めてチャペルに入った時のことだ。
――覚えていてくれたんだ。
あんな子ども同士の淡い思い出。
白い大理石の柱を彩るステンドグラスの鮮やかな光はあの頃と変わらない。
むしろ輝きを増している。
泣きそうになるのをこらえながら、翠はバージンロードを歩いた。
父は意外とリラックスしていて、案外この人リードするモテタイプだったのかななんて思ったりして、泣き笑いの両極端に振れる感情の波をこらえるのが大変だった。
幸之助の病室とは悠輝のおかげでネット中継がつながれ、二人の晴れ姿をご披露することができた。
和やかな雰囲気の式が終わり、新婚旅行への出発は翌日の昼だった。
羽田空港へは悠輝が見送りに来てくれた。
「空港っていいよね。自分が出発するわけじゃなくても、気分が高揚するよ」
「おまえまで来るなんて言うなよ」と、出発ロビーを歩きながら蒼也が嫌味を吐く。
「地上一万メートルから突き落とされるのはごめんだよ」
そんなお約束の二人のやりとりを翠は笑いをこらえながら聞いていた。
「蒼也ってさ、釣った魚にエサをやらないタイプだよね」
「そんなことないさ」
「自覚がないのが怖いんだよ。誕生日のプレゼントだって僕にくれたことないだろ」
「男同士で、そんなもの贈るのか。カノジョじゃあるまいし」
――私ももらったことないですけど。
出かかったツッコミを翠は飲み込んだ。
「僕は蒼也の誕生日に食事をごちそうしたりしてただろ」
「だって、おまえの場合、そんなの誕生日以外でもしょっちゅうだったから、そんな意味だとは気づかなかったよ」
「ま、そういうところを見抜いてるから、幸之助さんは航空券を手配してくれたんだろうね」
言い返せずにいる蒼也は二人分のパスポートをまとめてチェックインカウンターへ向かった。
ピークシーズンでごった返す空港はファーストクラス専用カウンターでもさすがに数組の客が並んでいて、航空会社の地上係員が恐縮そうに事前の案内を行っていた。
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