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「夕飯食べられなくなるでしょ」
「これならいくらでも食べられるさ」
「お医者さんに怒られても知らないからね」
見た目はそれほどでもないのだが、年齢相応に健康診断の数値にリマークがついて、中性脂肪や高血圧の薬を飲んでいるのだ。
「蒼也くんと話をしてみたらどうなんだ?」
口撃をかわすつもりか、核心を突かれてしまった。
「連絡だってたくさん来てるんだろ」
まるで娘のスマホを見ていたかのように図星をつく。
「翠が意固地になる気持ちも分かるよ。だけど、そういうときは理由を考えるんだ」
――理由?
何それ。
蒼也さんが勝手な都合で私を振り回しただけでしょ。
「父さんさ、母さんと知り合ったとき、この人だって思ったんだよ」
父が急に語り出す。
「それまで、女の人と交際するどころか、話しかけたこともなかったんだけど、母さんと出会った瞬間、雷に打たれたみたいになってね。自分はこの人に出会うために生きてきたんだってはっきり分かったんだよ」
ちょ、あの、揚げ物してる横で、そんな話聞かせないでほしいんだけど。
「それまで、父さんさ、学者になるために理屈だけで成り立つ世界で生きてきてただろ。だけど、母さんと出会ってからはさ、なんか世界が明るいんだよ。曇りとか雨とか関係なく毎日が光り輝いていてさ。実験なんか全然うまくいかないのに、そんなのどうでも良くなっちゃって、道を歩いていても飯を食っていても母さんのことばかり考えててさ」
はい、もう、邪魔。
翠は父を押しのけるようにして、揚がった第二弾を網に乗せ、次のコロッケを油に入れた。
「だけどさ、いくら考えても理由が分からなかったんだ」
――え?
「なんでこんなに母さんのことばかり考えてるんだろうって。それが好きって感情だってことはさすがの父さんでも分かったんだけど、それがなぜなんだろうって理由を考え出すと、どうしても答えが見つからなかったんだよ」
父は二つ目を取り上げると、またソースをつけずに半分かじった。
無言になった二人の間で、パチパチジュワジュワと油の音が賑やかだ。
「科学的に言えば恋愛なんてものは脳内ホルモンの代謝異常状態による錯覚なんだろうけど、それは原因であって理由ではない」
なんだか学者みたいなこと言い始めた。
――あ。
けっこう業績のある学者だってこと忘れてた。
翠にとっては、ごく普通の父親なのだ。
「その理由って、どういうこと?」
「理由なんてないってことに気づいた時、本当に好きだって気づくんだ」
また油の音がどよめく。
「人を好きになるのに理由なんてないんだ。好きだから好きなんだよ。好きな気持ちを抱かせてくれる相手のことが大切で、かけがえのない存在で、だからこそ、二人でいる時間を失いたくないって思うんだ」
そう言うと父は残り半分にまたソースをつけて口に放り込んだ。
「だけど、そのためには、相手の気持ちを確かめる必要があるだろ。片思いでもいいけど、それだといつか相手は誰かにさらわれて自分の前から去ってしまう時が来る。相手の気持ちを知るためにも、はっきりと自分の気持ちを伝えなくちゃいけないんだ」
父の話に聞き入っていて、つい焦がしてしまいそうになる。
翠は火を止めてコロッケをすべて網に上げた。
「これならいくらでも食べられるさ」
「お医者さんに怒られても知らないからね」
見た目はそれほどでもないのだが、年齢相応に健康診断の数値にリマークがついて、中性脂肪や高血圧の薬を飲んでいるのだ。
「蒼也くんと話をしてみたらどうなんだ?」
口撃をかわすつもりか、核心を突かれてしまった。
「連絡だってたくさん来てるんだろ」
まるで娘のスマホを見ていたかのように図星をつく。
「翠が意固地になる気持ちも分かるよ。だけど、そういうときは理由を考えるんだ」
――理由?
何それ。
蒼也さんが勝手な都合で私を振り回しただけでしょ。
「父さんさ、母さんと知り合ったとき、この人だって思ったんだよ」
父が急に語り出す。
「それまで、女の人と交際するどころか、話しかけたこともなかったんだけど、母さんと出会った瞬間、雷に打たれたみたいになってね。自分はこの人に出会うために生きてきたんだってはっきり分かったんだよ」
ちょ、あの、揚げ物してる横で、そんな話聞かせないでほしいんだけど。
「それまで、父さんさ、学者になるために理屈だけで成り立つ世界で生きてきてただろ。だけど、母さんと出会ってからはさ、なんか世界が明るいんだよ。曇りとか雨とか関係なく毎日が光り輝いていてさ。実験なんか全然うまくいかないのに、そんなのどうでも良くなっちゃって、道を歩いていても飯を食っていても母さんのことばかり考えててさ」
はい、もう、邪魔。
翠は父を押しのけるようにして、揚がった第二弾を網に乗せ、次のコロッケを油に入れた。
「だけどさ、いくら考えても理由が分からなかったんだ」
――え?
「なんでこんなに母さんのことばかり考えてるんだろうって。それが好きって感情だってことはさすがの父さんでも分かったんだけど、それがなぜなんだろうって理由を考え出すと、どうしても答えが見つからなかったんだよ」
父は二つ目を取り上げると、またソースをつけずに半分かじった。
無言になった二人の間で、パチパチジュワジュワと油の音が賑やかだ。
「科学的に言えば恋愛なんてものは脳内ホルモンの代謝異常状態による錯覚なんだろうけど、それは原因であって理由ではない」
なんだか学者みたいなこと言い始めた。
――あ。
けっこう業績のある学者だってこと忘れてた。
翠にとっては、ごく普通の父親なのだ。
「その理由って、どういうこと?」
「理由なんてないってことに気づいた時、本当に好きだって気づくんだ」
また油の音がどよめく。
「人を好きになるのに理由なんてないんだ。好きだから好きなんだよ。好きな気持ちを抱かせてくれる相手のことが大切で、かけがえのない存在で、だからこそ、二人でいる時間を失いたくないって思うんだ」
そう言うと父は残り半分にまたソースをつけて口に放り込んだ。
「だけど、そのためには、相手の気持ちを確かめる必要があるだろ。片思いでもいいけど、それだといつか相手は誰かにさらわれて自分の前から去ってしまう時が来る。相手の気持ちを知るためにも、はっきりと自分の気持ちを伝えなくちゃいけないんだ」
父の話に聞き入っていて、つい焦がしてしまいそうになる。
翠は火を止めてコロッケをすべて網に上げた。
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