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「あ、オレこのひとしってる」と、まぶしそうに蒼也を見上げて指をさす。
「おーい、ヒロキ」と、後からヘロヘロになりながらお父さんが駆けてくる。「あ、これは翠先生でしたか。いつもお世話になってます。いやあ、子どもは元気で外に行きたいって言いますけど、暑くて大人はしんどいですよ……」
膝に手をついて喘いでいるお父さんの横でヒロキくんがぴょんぴょん飛び跳ねる。
「ねえ、センセーあそぼ」
つい横の蒼也と顔を見合わせてしまう。
「こら、先生は忙しいんだぞ」と、お父さんがたしなめるけど、ヒロキくんは納得しない。
「おじさんとデート?」
おませさんに図星をつかれて焦る翠と、オジサンと呼ばれてあからさまに不機嫌になる蒼也を見上げながらお父さんがたずねた。
「えっと、こちらの方は?」
「夫の御更木です」と、蒼也がうなずくように頭を下げた。
「あ、先生、ご結婚なさってたんですか。全然知りませんでした」
「ええ、まあ、その……」
しどろもどろの翠の脚にヒロキくんが絡みつく。
「えー、ミドリセンセー、オレとケッコンするんじゃないの」
思わず笑ってしまったが、横の蒼也の目は地獄の番犬のようだった。
とっさに翠ははぐらかした。
「ごめんね。先生もう結婚しちゃったの。明日からまた預かり保育が始まるから、幼稚園でいっぱい遊ぼうね」
「やくそくだよ」
「うん、はい、じゃあ、ゆびきり」
翠が差し出した小指をひったくるようにヒロキくんが小指を絡めてくる。
「うーそついたーらイーチオークマーンエン」
「あらら、たいへん。じゃあ、絶対約束守らないとね」
恐縮そうに頭を下げながらお父さんがヒロキくんの手を引いて去っていく。
翠が手を振っていると、蒼也がつぶやいた。
「一億万って、一兆だよな」
――へ?
「あ、まあ、そうですね」
「ミサラギメディカルの時価総額は二百億円。ミサラギグループ全体でも六千億くらいか」
え、何を張り合ってるんですか?
蒼也はあくまでも真顔だ。
「翠はずいぶんモテるんだな」
「ヒロキくんは他の先生にもみんなあんなふうに言ってるんですよ」
ケルベロスからは和らいでいるものの、目の奥が笑っていない。
「小さい子どもって、何の躊躇もなく抱きつくよな」
――もしかして、妬いてる?
「幼稚園にいると、毎日プロポーズされてますよ」
「そうなのか」と、蒼也がいきなり手を引いて歩き出す。
「ど、どこ行くんですか」
「俺たちは夫婦なんだから、俺の部屋に帰ろう。荷物は空港から戻ってきてるよ」
「そんなに引っ張らないでくださいよ」と、翠は反対の手で蒼也の袖を引いた。「もう逃げたりしませんから」
速度を緩めたものの、蒼也は前を向いたままだ。
「おーい、ヒロキ」と、後からヘロヘロになりながらお父さんが駆けてくる。「あ、これは翠先生でしたか。いつもお世話になってます。いやあ、子どもは元気で外に行きたいって言いますけど、暑くて大人はしんどいですよ……」
膝に手をついて喘いでいるお父さんの横でヒロキくんがぴょんぴょん飛び跳ねる。
「ねえ、センセーあそぼ」
つい横の蒼也と顔を見合わせてしまう。
「こら、先生は忙しいんだぞ」と、お父さんがたしなめるけど、ヒロキくんは納得しない。
「おじさんとデート?」
おませさんに図星をつかれて焦る翠と、オジサンと呼ばれてあからさまに不機嫌になる蒼也を見上げながらお父さんがたずねた。
「えっと、こちらの方は?」
「夫の御更木です」と、蒼也がうなずくように頭を下げた。
「あ、先生、ご結婚なさってたんですか。全然知りませんでした」
「ええ、まあ、その……」
しどろもどろの翠の脚にヒロキくんが絡みつく。
「えー、ミドリセンセー、オレとケッコンするんじゃないの」
思わず笑ってしまったが、横の蒼也の目は地獄の番犬のようだった。
とっさに翠ははぐらかした。
「ごめんね。先生もう結婚しちゃったの。明日からまた預かり保育が始まるから、幼稚園でいっぱい遊ぼうね」
「やくそくだよ」
「うん、はい、じゃあ、ゆびきり」
翠が差し出した小指をひったくるようにヒロキくんが小指を絡めてくる。
「うーそついたーらイーチオークマーンエン」
「あらら、たいへん。じゃあ、絶対約束守らないとね」
恐縮そうに頭を下げながらお父さんがヒロキくんの手を引いて去っていく。
翠が手を振っていると、蒼也がつぶやいた。
「一億万って、一兆だよな」
――へ?
「あ、まあ、そうですね」
「ミサラギメディカルの時価総額は二百億円。ミサラギグループ全体でも六千億くらいか」
え、何を張り合ってるんですか?
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「翠はずいぶんモテるんだな」
「ヒロキくんは他の先生にもみんなあんなふうに言ってるんですよ」
ケルベロスからは和らいでいるものの、目の奥が笑っていない。
「小さい子どもって、何の躊躇もなく抱きつくよな」
――もしかして、妬いてる?
「幼稚園にいると、毎日プロポーズされてますよ」
「そうなのか」と、蒼也がいきなり手を引いて歩き出す。
「ど、どこ行くんですか」
「俺たちは夫婦なんだから、俺の部屋に帰ろう。荷物は空港から戻ってきてるよ」
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